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ジョエル師匠の元で学んだ魔道具製作技術を元に、この3年間、色々試行錯誤して幾つもの魔道具を製作した。
我ながら大発見だったのは
「植物型魔物の『光合成』が『魔力の物質化』として作用する(!)」
事を知り、不可視の使い魔を一部物質化する事に成功した事だ。
不可視の使い魔の嘴や足、鉤爪や羽の縁を物質化させて、足に魔物素材のアンクレットを取り付け、アンクレットに
「攻撃力強化」
「防御力強化」
「鋭利化」
の魔法陣を施せば、不可視の使い魔で敵を攻撃できてしまう。
不可視の使い魔自体の強度は魔術師の魔力量や魔力の質に応じて変化するらしいが、私の使い魔は師匠の使い魔より圧倒的に強かった。
「私が戦うより不可視の使い魔に戦わせた方が強い」
と判明した。
その他では転移魔法陣を自作したので、2枚1組の転移魔法陣の片割れをノークスへと手渡していた。
その転移魔法陣を使って、日常の細々した出来事をメモに書いて、ずっとノークスとやり取りしていたのだ…。
「今日は抜き打ちテストがありました」
「今日は体力測定があった」
「次にお会いした時に調理実習で作ったジャムをお持ちします」
「楽しみにしてる。愛してる」
などといった、たわいない言葉のやり取り。
毎日のささやかな楽しみだった。
なのに、突然メモが転送できなくなっていた…。
転移魔法陣を使ったやり取りは
「確実に転移魔法陣の持ち主に届いているとは限らない」
「どちらかの転移魔法陣が破棄されればやり取りは絶たれる」
という欠点がある。
要は
「ノークスの側の転移魔法陣が破棄されたのだ」
と分かった…。
(そう言えば、もう御礼奉公期間に入っている筈だし…王都に戻ってきてる筈なのに、リーを寄越しもしないんだな…)
と、改めて異常に気が付いた。
その時点で私は、ノークスの心変わりに気が付いたのだ…。
モルガン侯爵城においてーー
毎年新人騎士が最初は好意的だったのに、段々悪意的になっていく様子を見せつけられて…
私は
「自分に対して悪意が向くように環境調整される事態」
というものに対して驚かなくなってしまっている。
変身術と超加速を盗むためにフィリス・モルガンを監視していた時期に密かに疑っていた事柄がある。
フィリス・モルガンは未だ子供を1人も作っていないにも関わらず同性愛者だった訳だが。
他の貴種の同性愛者達が貴種の体液の効果に溺れて同性愛に流れるのと違い…
「フィリスは根っからの同性愛者だ」
という事が直ぐに分かった。
なのでフィリスは寝る相手を貴種に限定していなかった。
偶然なのかも知れないと思っていたが、北部騎士団の新人騎士達が私に悪意的になっていくのと、彼らがフィリスと肉体関係を持つ頻度は比例していた。
私に対して初めから悪意的だったフィリス。
フィリスと同衾して彼に溺れていく騎士達の悪意。
騎士達には暗示術の痕跡があったけれど、基本的に
「派閥の団結を強固なものに」
という意向の暗示術は慢性的に使われ続けるもの。
「暗示術の痕跡からは内容までは確認できない」
ので
「派閥の盤石化」
とは無関係に
「特定の人物を嫌うように」
という暗示が仕込まれていても、それに気がつくのは難しい。
それに、私に対して悪意的になるようにという暗示が
「呪物を使って行われていた」
場合には、それこそ暗示の痕跡は出ない。
ただ呪物の影響力の放射範囲に来た時に暗示の影響下に入り、影響力の放射範囲から出た時に正気に戻るものの
「酷いことをした」
という罪悪感を認めたくないと思えば
今度は呪物の影響力とは無関係に
「アイツが悪いからだ」
という虚構認識を生み出して欺瞞に耽るようになる。
私は呪物というものを知った事で
「暗示術を悪用して特定の標的を苦しめる方法というものが存在する」
可能性に気が付いたのだ…。
******************
ノークスとの婚約解消の報せはーー
アルバート・ファレル先生からもたらされた。
先生から呼び出されて
「重要なお報せがあります」
と言われれば
(ノークスの事だ…)
と、聞く前からわかっていた。
「…ノークス様は侍女のエルシーという少女を妊娠させたとかで、マーカス様の了承も本家の了承も得ずに秘密裏に入籍なさったそうです。
それによってルビーさんとの婚約は『なかったことに』したいと意向表明されて、それが認められています。
ルビー・ヒルはノークス様の婚約者としてファレル子爵家の養女にされていましたが、ノークス様との婚約解消で養子縁組も解消されています。
今現在ルビー・ヒルはファレル伯爵家の猶子として王立学院に在籍しているという形になります」
先生に言われて
「そうなんですね」
と私は別に驚きもせずに答えた。
「驚かないんですね?…」
「…モルガン侯爵城では毎年の恒例でしたよ。北部騎士団に入団してきた新人騎士達は最初は私に対しても全然悪意的じゃなくて、皆、普通に善い人達だったのに、段々と変わっていって、どんどん悪意的になっていきました。
今にして思うと暗示術を使って、私への悪意を広げて回ってる人がいたからなんだなって判ります。
あと、呪物とかもあちこちに埋められてたのかも知れません…」
「…悪意を広げて回ってる人、と言うと、フィリス卿の事ですよね。…ご存知だったんですか?」
「…先生の方こそ、何かフィリス卿の事でご存知なんですか?」
「…彼はーー元は普通の方だったらしいんですが…。一度エルフに攫われた事があったとかで、それ以来、二重人格的なところがあります」
「先生も、あの人を監視してた時期があるんですね?」
私がそう尋ねると、アルバートは苦笑しながら頷いた…。
「…エルフという生き物は他人の魂や自我を勝手に出し入れして組み替えたりする実験を行う生き物なんですよ。
ハワード様がウーナ・アイビーとその関係者を粛正なさったのも、そうした実験が原因だったそうです。
貴種の幾人かが『盗賊の自我を埋め込まれて、二重人格の快楽殺人者にしたてあげられていた』ような事態が起きていたり、『エルフの自我を埋め込まれて、異常なエルフ贔屓になっていた』ような事もあったようです。
そうやって『本来なら神以外手出し厳禁の霊魂操作の領域』にまでエルフ達は手を付けて、幾人かの貴種の人生を狂わせていた訳ですから…。
寛容なハワード様も流石にご立腹なさり、エルフ達を粛正なさったんです」
「何故、今、そんな話をなさるんですか…」
「…フィリス卿の二重人格はまるでエルフに身体を乗っ取られていたかのような症状でした。なのでイアン様から『有事の際にはフィリスを処分しなければならないので弱点を見つけておくように』という命令がされて、それで監視していた時期があったのです」
「そんな話を私にしても良いんですか?」
私に話す事でこの人が罰せられるのは嫌だと思った。
それに対して宥めるように微笑んでから
「…おそらくフィリス卿は処分されます。ノークス様は貴種としての能力は低くても貴重な魔眼持ちです。そのノークス様に手出ししたのですから、フィリス卿はただでは済みません。だからもう話しても良いんです」
と彼は告げた。
「フィリス卿は異常にエルフ贔屓とかには見えませんでしたよ?」
フィリスの性格は確かに陰湿だった。
冤罪捏造に慣れていて、息を吐くように嘘を吐くところもエルフそのものだったが…
イーリー達のように露骨にエルフ都合の発言をしてはいなかった。
「…『エルフ贔屓なところを見せると処分される』と知っていれば、必死に隠す事でしょうね。ですからフィリス卿は必死に読心術適性のあるヴィクター様を避けていたんですよ。閉心術を四六時中使い続けるのは大変ですから。
と言っても読心術適性のあるヴィクター様を避けるのは誰でも共通の心理ですから、それだけでは黒判定はできませんでした。長年にわたってね」
そう言われてみればーー
私はヴィクターにだけは使い魔を付けたくなかった。
お陰でヴィクターと遭遇率の低いフィリスを監視対象に選んだのだった…。




