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王都グローリアに出てきてから3年が経った。
数日後には4年制学院の最終学年となる。
ノークスの方は
「まだ御礼奉公があるけれど、騎士資格は修得できたので一度北部に帰郷して、父とファレル伯爵家へ報告がてら挨拶する事にするよ」
と言って、北部へと発ったきり、まだ戻ってきていない。
あれからハチドリをイメージした小型の不可視の使い魔をさらに増やして、オグデンの森だけでなく、方々の森を探索させる事にした。
3年で私が見つけた番の木は98本。
国内に一体何人のエルフがいるのか分からないけれど…
推定で300人弱と見られている。
勿論、そのぐらいだろうという推測で出されている数なので、それよりもっと少ないかも知れず、逆に多いかも知れない…。
全員分を見つけるのは時間がかかりそうだ。
(何せ「全員分が国内の森にある」とは限らない)
私が見つけた番の木には、どれも「物理攻撃耐性強化」「魔術攻撃耐性強化」の魔道具が取り付けられていた。
エルフに既に発見されていて、保護されている木の方が一目で異様な雰囲気を漂わせているので見つけやすいのだという事は分かった。
因みにフェアバンクス家のミリセントは無事に入学してきていて、入学以来成績上位をキープし続けている。
そのミリセントからの情報によると
「国内の森の土地がエルフ達に買い占められつつある」
という話だ。
(不動産所有情報はフェアバンクス家が関心を寄せる情報の一つだ)
「森の資源をあてにして暮らす人が多い以上、領主が森の所有権をそう簡単に手放すとは思えないんだけど…」
と思ったのだが…
以前、シルヴィアス男爵邸に忍び込んでアラスターに処分されたエルフ、オズバート・ガードナーが巨額の遺産をエルフ達に遺していたらしく…
エルフ一族はそれこそ一国を買えるくらいの資産を所持している現状らしい。
領主に森の所有権を手放させるために
「本物を殺して変身術で成りすまし」
のような事をしているようで…
各地で領主が文字通り
「人が変わった」
かのように主張変化している社会状況。
そんな中でイーリーとレルフは、いよいよ本性を現すようになっていた。
つまりは
「森を守りましょう!」
「木を許可なく切る者達には罰を!」
という森林保護を訴えかけている。
エルフの年長者達からの指示なのだろう。
変身術を使って人間に成りすましていても
「言う事がエルフ都合の発言」
なら
「エルフだ」
という事が丸わかりになると思うのだが…
それを理解できていないのか、或いは敢えて
「エルフだ」
と暗に仄めかしているのか…
思惑は分からない。
なので
「まんまエルフだよな。言うことが」
と流石にウォーレス達も呆れている。
こちらが正体を隠して縮こまって生きてるのがバカらしくなるくらいにエルフは堂々とエルフなのだ…。
緑色の髪という人間にあるまじき色目でエルフ都合の主張をすると
「亜人が何か企んでいる」
と疑いの目を向ける人間も少なからず出てくるだろうから、一応人間に媚びて人間に変身している、という所なのか…。
流石に3年間もバーブを付けてイーリーを見張らせた甲斐あって、学院内での不審な行動を何度となく目にする事があった。
「…学院内の敷地、寮の敷地に何かを埋めている?」
という事に気が付いた。
アルバート先生とも
新たに入学してきたモルガン家の子達とも
ウォーレス達とも情報共有している。
(ヘザー達は卒業した)
先生曰く。
「呪物でしょう」
との事。
精神干渉術の痕跡を残さず精神干渉を行う際には、呪物を四方に埋めて、精神干渉範囲を結界化する、という手口が使われる。
「それと同じ事は人に対しても有効です。呪物をアクセサリーとして贈り身に付けさせるという手法はよく使われます。
例えばピアスなどのような物を呪物化して使用させれば双方が共鳴を起こして精神干渉範囲を広げる事ができるので効果も高い。
呪物で知らぬ間に意識を自分らしくない方へと引っ張られる、という危険は誰にでも起こり得ます」
「…呪物とはどうやって作るのでしょうか?」
「生き物を苦しめて殺す事で人為的に作る事ができます。そうした人為の際のコツは術者の正体を悟られずに苦しめて殺す必要があります。
なので他者から恨まれる覚えのない善良な魂の個体が呪物を作る際の生贄に選ばれます」
「…人間を使ったり、という事もあるのでしょうか?」
「小動物を使って作る事が多いですが、人間を使って作る者もいるでしょうし、エルフが呪物を作る場合はかなりの確率で人間が使われています」
「…もしかして、先生も不可視の使い魔でエルフらしき人達を監視したりしています?」
「…ええ。見たくもない醜い心根の生き物を見続けるのは苦行に他なりませんが、イアン様からの御命令の一つですからね…。仕方なく見てます」
「…魔術師って何気にストレスが多いですよね…」
「全くです。雇われで監視業務についていると精神衛生上に良くないものを目にしてしまう事が度々あって、時折心が折れそうになるんですけど…」
「ーーはい。魔術師の不幸自慢はそこまで。とにかく、呪物をエルフが着々と方々へ埋めて精神干渉結界を作ってるって事だよな?」
「あ、いえ。直ぐに掘り返して、それこそ一つだけサンプルのために手元に残して、他は全てスミッソン商会に依頼して『大陸側に近い海域で捨ててください』と転送してます」
「海に捨てさせるんですね…」
「海に捨てるって、取り扱いとして正解なのか?」
「隠れ魔術師の師匠に言わせると『不審物は海に捨てるに限る』らしいです。下手に別の場所に埋め立てて捨てると被害が出る可能性もあるし」
「フェアバンクス氏は、それの正体を何だと言ってたんですか?」
「『条件発動型の地雷の可能性がある』とか言ってましたけど、呪物だったんですね…。
一応危険物なので『物理攻撃耐性強化』『魔法攻撃耐性強化』を施した箱に詰めて送ったので、アラスターおじさんの方でも注意して取り扱ってくれてると思います」
「糞エルフどもは滅茶苦茶やりやがるなぁ〜」
ウォーレスが苦虫を噛み潰したような顔をする傍らで
レックスが真面目な表情で
「イーリーとレルフは、呪物がどうやって作られてるのか知ってると思うか?」
と素朴な疑問を呈してくれた。
(レックスは普段は無口だが、時々鋭い質問をしてくれる)
先生は
「おそらく知らないだろうと思いますが…。或いは知っていたとしても、罪悪感を持ってはいないでしょうね。
エルフの大人は子供達の罪悪感を薄れさせるような虚構の被害者史実を刷り込んで『エルフは虐げられてきた』『エルフは人間達に貸しがある』という意識を持たせてから事実を明かすなり罪に加担させるでしょうから、罪悪感も持たないどころか、寧ろ『人間どもに贖罪の機会を与えてやった』『良いことをした』という捉え方をしている可能性があります」
と指摘した。
「本当に、エルフという生き物は、呪われるべき生き物なんですね…」
私はふと、以前コーネリアが言っていた言葉を思い出した。
ーー結局は『こんなヤツらに力を与えてはいけない』と言わざるを得ない種族だったんだ。エルフという生き物は。
吸血鬼に生まれる以上に、エルフに生まれる事は、清らかだった魂を捻れて歪んだ鬼畜な性根に染めてしまう…。そんな『聖人の試練』がエルフに生まれる者達には降りかかっていたんだよ。きっとーー
(コーネリアおばあ様はオズバートを殺させた事で涙をこぼした…。もしかして愛してたのかな…)
コーネリアは
「私を愛してくれてたのはアーサーだけ」
とは言ったけれど
「私が本当に愛してたのはアーサーだけ」
とは言っていない。
根本から狂っていた罪深い人種をそうだと知らずに愛してしまった人達は皆あんな風に悔いるのだろうか…
とコーネリアの透明な涙を思い出しながら思った…。




