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吸血鬼が人間社会で悪意を向けられずに暮らす方法は実は簡単だったのだ。
なのに誰も私にそれを教えなかったのは…
それは、私が「女だから」という貞操観念の押し付けがあったのだと思う…。
休日に騎士団に押しかけてウォーレスから聞いた話をノークスに話して
「本当なんですか?」
と尋ねたところ
ノークスはしばし硬直して
「………」
沈黙。
内心で色々考えたらしくブツブツ呟いたあとに
「…本当は俺から伝えるべき事だったんだろうが…。すまない」
と謝罪した…。
「…単にお前が俺以外のヤツとキスするとか、想像するだけでムカつくから脳裏に浮かべるのさえ嫌で、ついつい言いそびれてたんだが…。
もしかしたら心のどこかで他の男とどうこうなってまで生き延びて欲しくないっていう、お前の命を軽んじる想いが自分の中にあったのかも知れない…」
「私の命を軽んじる想い…」
「すまない…」
「…でも、貴族って、そういうものなんじゃないでしょうか?貴族夫人は嫁ぐ時に両親から懐剣を渡されて『夫以外の相手に身体を開くな。貞操を守れない女は犯される前に自死しろ』って言われるものなんですよね?」
「それは古めかしい悪しき慣習だ。女性の命を軽んじ過ぎている。そういった方針を推し進めたせいで、戦争の度に、徴兵された男だけでなく、間男に侵入された女も大量に死ぬ事になった。
国民の人口が減少して国力が弱体化する元凶になるんで、今では『とりあえずは死ぬな』というのが女性の貞操問題に関する風潮の主流だ」
「そうだったんですね…」
「…俺はお前が好きだ。惚れてる。…だけど、それは多分、俺の独りよがりな感情なんだ。
俺はお前を思いやれていない。お前の命を尊重するより、お前の純潔が俺以外の誰にも奪われないで欲しいという事を第一と考える我儘でしかないんだ」
そう言われて
(…ああ、この人は、年齢通りの中身なんだな…)
と思った…。
「自分で、それを自覚できるのなら、それは『思いやれるようになる』始まりなのでは?」
(本当に思いやりのない人達はそれを自覚もできなかった…)
「そうなりたいと思ってる…」
「…愛される値打ちのない人達は思いやりのない自分を自覚もできないから、ずっと変われない…。
だけど貴方は自分で気付けるから変われる。だから私は貴方が好きなんだと思います。
きっと『思いやりがない』事自体が人同士の絆を切り裂くのではなくて、『思いやりがない状態がいつまでも終わりなく続く』から、少しづつ絆が壊れていくんです。
貴方は気付けるし、変わっていけるし、愛する値打ちのある素敵な婚約者だと思います」
「…お前は優しいよな。それに男を見る目がない。…趣味が悪い。俺なんかよりイイ男なんて世の中にはいっぱい居るのに、雛が初めて見た相手を親だと錯覚して懐くみたいに俺を慕ってくれて、そんな風に甘やかす…。
バカだよ。…でも、だから、俺はそれに救われてて、本当にお前にとって愛すべき男でありたいと、そう思うんだ。そう思えるんだ。…有り難う…」
好きだ、と言われて
好きだ、と伝えて
自分の想いを伝えて
そうして初めて交わした口付けはノークスの涙の味がして少ししょっぱかった…。
「吸血鬼の体液の作用」が働いてか、ぎこちないキスでもものすごく気持ち良くて…
(ああ、だから彼らは同性愛にハマるんだな…)
と理解できてしまった。
(いつかノークスも同性愛のお誘いを他の吸血鬼達から受けるようになれば、そっちに流されてしまうのかも知れない…)
という予感は感じたものの…
それでもその時はまだ、この初恋がちゃんと叶うものなのだと、そう本気で信じていた…。
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その後、色々と割り切って、色々と諦めた…。
私もウォーレスやノークスに倣ってキス魔と化して保身に力を入れたのだ。
その結果、どんどん何も感じなくなっていった。
作業として、仕事の手順の一つとしてやっている感じ…。
内心で
「誰かに責められたい」
或いは
「誰にも責められたくない」
という相反する想いが渦巻いていたと思う。
アルバート先生から
「本当は大人の我々で何とかしてあげられたら良かったんでしょうけどね…」
と憐れみの視線を向けられてしまった…。
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特に変わったこともなく時は流れたものの…
一度オグデンの森で奇妙なモノを観測できた。
オグデンの森の奥深くをフリンジが探索していると、フリンジの視覚越しに不思議な存在感の魔木を見かけた。
「何故気になるんだろう?」
と思い、魔眼で見ると
エーテル体のチャクラが三つもあった。
通常、魔物は人型の上位種以外はチャクラは一つだけだ。
「実は魔木に見えて、魔木じゃない?のか?」
という可能性に気が付いた。
しかもご丁寧に「物理攻撃耐性強化」「魔法攻撃耐性強化」の魔道具が取り付けられている。
「休日に森に入って現物に攻撃して反応を見てみようか?」
と思わないでもなかったが…
自分の剣の腕前で森の奥深くまで無事に辿り着ける自信はない。
さて、どうしよう…
と悩んでいるうちに冒険者らしき男達がその魔木の所までやってきて、魔木に取り付けられていた魔道具の魔石を交換しているのを目撃。
「まさか…」
と思い、人間の冒険者に見える男達を魔眼で見ると変身術を使っている痕跡が見えた。
「エルフが特定の魔木を保護してる?…コレって…」
と、ある事実を思い出した。
エルフの運命の番。
エルフと同じ日に生まれて同じ日に死ぬ樹木。
そういうものが何処かに在るのだという話。
「そうか…。そうだったんだ…。エルフは『森の守護者』『自然の保護者』『自然神の代弁者』を自称してるけれど、そうじゃない。
連中は自分達の運命の番の木を探し出して保護し、人間にはそれを悟らせずに済ませるために、そういう種族像を必要としたんだ…」
私はその推理を一先ず信じる事にした。
そして自分がやるべき事がハッキリ分かった気がした。
それこそ神から啓示を受けたかのようにーー。
私は
「エルフ達の運命の番の木の所在地を一本でも多く把握しておく事」
「どの木がどのエルフの番の木なのかを把握しておく事」
「不可視の使い魔に攻撃力を持たせて、エルフの運命の番をいつでも殺せる状態を作っておく事」
の3点を今後の自分自身の課題とする事にした…。




