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「…ともかく、嘘吐きが息をするように嘘を吐ける理由は近年では随分と明らかになってきてるんだ。
俺達のような『自分自身の正気を自己尊厳の担保にしている』ような誠実な人種には考えられない事だが…。
エルフや一部の人間の場合、吐いた嘘の帳尻を合わせるように自分自身の記憶まで改竄して、嘘が真実であるかのように本気で思い込んでしまえるんだ」
「記憶の改竄…。自己暗示によるものですよね」
「ああ。自己美化の自己暗示だな。そして自己美化した自己像を『周りの者にも感じさせる感化能力』。
そういう能力に特化した魔術師もいる。多分、アイツらはそうした精神干渉系の固有魔術が専門の魔術師だろうな」
「…貴種って魔術師に興味ないかと思ってました」
「そんな訳があるか。貴種はこれまで散々にエルフの魔術師や、エルフに籠絡された人間の魔術師に目の敵にされて狩られてきたんだ。
魔術師に関する研究はそれなりに進んでいるさ」
「その結果として精神干渉系の固有魔術を使う個体の特徴まで把握している、と?」
「そうだ」
「具体的に精神干渉系の固有魔術を使う個体の特徴を教えてくださいますか?」
「お前は魔眼持ちなんだよな?」
「はい」
「魔力探知能力は身に付けているのか?」
「ただいま訓練中です」
「…俺達のように魔力探知で他者を把握する者は魔眼持ちのように体内の魔力までは感知できない。
魔眼持ちとは感じ方が根本的に違うと思うので、こちらの感じ方での情報を伝えてもお前に理解できるのかは分からないが…その辺はノークスが頑張るんだろうから、今はとやかく言わずにおく」
「有り難う御座います」
「とにかく、魔力探知で他者を把握する感性からだと、精神干渉系の魔術を使う魔術師や魔力持ちに対しての察知は『連中がまさに魔術を使っている場面に出くわす』事でしかできない。
因みに『監視の魔法陣』越しに監視しながらでは分からない事の方が多い。
今回は運が良いのか悪いのか、エルフの魔術師かも知れないイーリー・モスとレルフ・デールが同じクラスだ。
連中が嘘を吐きながら頭頂部の魔力放出口からごく微量の魔力をジワジワ放出しているのを察知した。
魔力を可視化して見ている訳ではないが、そうした魔力の色のイメージが淡い黄色だったことからして『御都合主義の妄想をしている者特有の魔力反応だ』という事が分かった。
俺達が見たところでは、どうやら連中は嘘を吐きながら自分の都合を嘘に合わせて上書きしている様子なんだよ。全く、気持ち悪い…」
私には魔力探知の才能が無いものと思われたが…
ウォーレスの言う事が不思議と理解できた…。
「それだと、イーリーやレルフのような嘘吐きを嘘発見機にかけると結果はどうなるんでしょうか?」
「勿論、『本当の事を言ってる正直者』という判定になってしまうさ」
「…私の側も『本当の事を言ってる正直者』という判定になるんですよね?」
「だから、その場合は身元の怪しさを突かれる事になるだろうな。連中は当然、自分達の身元の怪しさに関しても御都合主義的に記憶改竄しているだろうからボロは出ない。
一方でお前の方は偽名で故人に成りすまして暮らしてるんだ。怪しさ満点だという事で真実を話しても証言の信憑性を疑われる」
「…悲惨ですね…」
「お前は自分自身を透明化して過ごしているようだが、それは悪手だ。お前は自分の容姿を活かす処世術を実践していない。
誰もお前に貴種の立ち回り方を教えてやっていないのかと不思議に思ってるんだが…。
お前、貴種が皆、どうやって自分の社会的立場を確立してるのか本当に何も聞いていないのか?」
「何の事ですか?」
「「………」」
意味ありげにウォーレスとレックスが目配せし合っている…。
(もしかして…)
「…あの、ウォーレス様の言う『貴種の立ち回り』って、ウォーレス様とレックスがキス魔だって事と関係してます?」
「…なんだ、知ってるんじゃないか」
「…やっぱり、単に人目のない場所で色んな人とキスしてるのって、地道に暗示をかけてたんですね?」
「そういう事だ。好きでやってるんじゃない。だいたいこっちは普通に振る舞ってるだけで人間どもは勝手に付きまとって来て、何かと2人きりになりたがるだろう?
それを利用させてもらうんだ。貴種の唾液には快楽物質が含まれてるから口付けして唾液を相手の口内へ押し込んでやれば、相手は恍惚状態になってくれる。
金縛りにかける必要もなく、暗示で『俺と俺の従者及びモルガン家へ好意を持つように』刷り込んで、尚且つ『口付けした記憶、暗示を受けた記憶に関しては忘れろ』と指示しておけば、後は自動的にこちらが何をしても好意的に解釈してくれるようになる」
「ウォーレス様は婚約者とかいないんでしたっけ?」
「婚約者のいるノークスも俺達同様にやってるよ。仕方ないだろうが、人間なんて馬鹿ばかりで、どんなに誠実に話をしても物の道理なんて理解できないんだから。
それに金縛りにかけてからの暗示だと、万が一術が解けると、好意が一転して悪意へ変じやすい。
その点、口付けによる暗示だと術が解けても好意が持続するんでアフターフォロー的にも安全性が高いんだ」
「そうなんですね…」
「別に口付けなんて、どんなにやっても減るものじゃないんだ。ファーストキスにこだわりがある、とかなら、休日にノークスに会いに行って、さっさと済ませてしまえば良いだろう?
お前は貴種の最大の武器を使わずにわざわざ不利な心理戦に臨もうとしてるようなものだ。
生き残りたいなら、自分の容姿と暗示術を最大限に利用しろ」
「私、ちゃんと自分が生き残れるように頑張ってたつもりなんですが…」
「不充分だから、好き勝手に悪評をつくられてるんだろうが」
「…考えてみます」
「…お前が貞操だのにこだわって破滅するのは自由だが、こっちを巻き込むなよ?」
「それはちゃんと配慮します」
「なら、良い…」
これまで謎ではあったのだ。
何故ウォーレス達はキス魔なのか。
何故ウォーレス達は誰からも悪口を言われていないのか。
(貴種の立ち回り、か…)
謎は解けた…。




