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「貴方はそこまで騙されてるんですね?残念です」
と言ってやると
「イーリーの何がそんなに気に入らないんだ。自分がブスならイーリーの可愛さに嫉妬する事もあるだろうが、お前はそれなりに容姿が整っている。
男爵家の婚約者もいるという話だし、イーリーを妬む理由がないじゃないか!」
と責められた。
「そういうところです。こちらは何もしていないのに、こちらが何か嫌がらせをしたかのように周りに吹聴して、周りを踊らせて、標的を攻撃させる。
そういう手口で、何もしてない女子を陥れるような誣告加害犯だから、私はイーリーが嫌いなんです」
「何の反省もないのだな?しかもイーリーを誣告加害犯だと?お前の事だろう?嫌がらせしておいて、真実を告発した被害者側を誣告加害犯に仕立て上げようとするお前こそが悪質な誣告加害犯だ」
「…魔道具には嘘発見機があって、民間では富裕層でそれなりに普及しているという話を聞いた事があるんですが…。
先生、そういう魔道具は学院には無いんでしょうか?」
「…残念ながらありませんね」
「では、購入を検討された方が良いと思います。我々の学年は王太子候補の王子殿下と同じ歳です。有象無象の輩が入り込んでいても不思議ではありません。
しかも初年度からこういう事態が起こるのですから、今後も4年間延々と冤罪捏造し続ける生徒とその親しい方々が問題を起こし続ける可能性があります。
まさかこの学院が一部の東部権力に忖度して公平性をあえて放棄するような組織という事はないのですよね?
学院の権威を東部人らに乗っ取られたくないと思う自立性がこの学院にあるのなら、早急に嘘発見機の購入をお勧めします」
「頭がオカシイのか?嘘がバレたら、困るのはお前のほうだろ?それとも嘘発見機に小細工するような算段でもついているのか?」
「…先生、2分過ぎてます。偏見に基づく不毛な断罪と恫喝で授業を邪魔される事に有意義さを感じる事はできません。このクラスの一員ではない方には退場を促してはいただけませんか?」
「アームストロング君、2分をとうに過ぎてます。自分の教室へ戻りなさい」
「…はい」
こうしたやり取りの結果ーー
何故か私は学院長室へと呼び出される事となった…。
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学院長室には当然学院長がいるものと思っていたが…
どうやら女性王族の学院長は名義だけ貸して国の予算を学院へ引っ張ってくるだけの役割のお飾りで、実際に学院の運営・維持に携わっているのは学院長代理である副学院長のようだ。
副学院長は学院長の愛人の一人という噂のある男。
魔眼で見れば一目で魔術師だと判る。
ネウシファネス子爵家ジャスティン・チャンドラー。
学院長と一緒にいる時は護衛を兼ねているのだろう。
ガタイは良い。
女性王族の学院長よりずっと若い。
学院の運営に向いていそうには見えない脳筋タイプの若いツバメに見える…。
学院長室のドアをノックすると
「どうぞ」
と言われたので中へ入り
「ルビー・ファレルです。御用向きは何でしょうか?」
と単刀直入に尋ねた。
「…なるほど。まさに『竪琴の君』だな…」
と、いきなり意表を突かれたので
「?」
思わず首を傾げた。
「先ず初めに言っておきたいのは、私が君を貴重な人材だと考えているという事だ」
「はぁ」
「腑に落ちないといった表情をしているね」
「………」
「君は嘘発見機を学院側が購入しないならば東部権力に忖度していると見做すといった事を言ったらしいが、それは早計に過ぎる判断だと指摘させてもらうよ。
1学年の生徒間で冤罪の捏造が相次いでいる問題は把握していたし、嘘発見機の購入を検討するべきだと言う教員も居るにはいるんだが…
私としては他ならぬ君という人材のために嘘発見機の購入は控えたいと思った。
『亡くなった人間の戸籍を買って他人になりすます』という行為自体は実は犯罪じゃない。
成りすまし自体を犯罪と見做すと、王族・貴族のお忍びなども罪に問わなければならなくなるからね。
他人に成りすまして犯罪する、或いは相手に成りすますために何処かに監禁するなり殺すなりする事こそが犯罪だ。
或いは他人を騙して損害を与えるとか、そういう事もね。
私は君の成りすましが犯罪に該当しない事を知っている。それと共にセルマ・スミスという少女が自分自身のままで暮らしたら遠からず命を落とす可能性が高いという事情も知っている」
「…私を脅しているのですか?」
「いいや。私はスミッソン商会ならびにグルゴレットヒル侯爵派を敵に回す気はない。勿論、ファレル伯爵家もだ。
だからこそ嘘発見機のようなものを導入してしまって、君の本当の身元が詮索されるような事態は絶対に避けたいんだ」
「………」
「私も、彼らと同様に今代の『竪琴の君』にいつか会いたいと思っている。ちゃんと産まれて来て欲しいと、そう願ってるんだ。
…私はグルゴレットヒル侯爵令息レジナルド・ウッドリーとは王国騎士団時代の同期だったんだよ。
先代の『竪琴の君』に惹かれた騎士が先の時代には大勢居たと噂に聞いていたが、よもや自分も『竪琴の君』に魅了される者の一人になるなど思ってもいなかった。
あの絵はおそらく『初恋は叶わない』という教訓を与えてくれる絵なのだろうと、私は個人的にそう思っている」
「レジナルド様…。レイモンド様の御嫡男ですね?」
「次期グルゴレットヒル侯爵だね」
「やっぱり王国騎士団所属時代にグルゴレットヒル侯爵家の令息がくだんの絵を寮の自室に飾るって伝統は未だ続いてたんですね…」
「そうだね。だから見る人が見たら、君の本当の身元は直ぐに予想がつく。勿論、当時王国騎士団でレジナルド卿と親しかった者に限定されるんで、大抵は西部騎士の者達ばかりだがね」
「…嘘発見機が私にとって悪手だという事は判りました。ですが、それなら、私は今後どうしたら良いのでしょう?」
「ルームメイトに私物を留守中触れられて事故が起きた、という話だったね?」
「はい」
「それなら、寮の部屋を別々にすれば良いだけの事だ。幸い女子寮には空き部屋が沢山ある。1人部屋なら、ルームメイトに私物を触れられた事故を故意の嫌がらせだのように事実歪曲される事態も起こらないだろう」
「1人部屋だと妬まれませんか?」
「どうかな?1人部屋は基本的に角部屋で部屋面積も狭い。そんなに良いものじゃないし、何よりルームメイトに陥れられて他人と共同で暮らす事に不安を覚えるようになる生徒は君に限らずだ。
同じような体験をした先輩もいるし、女子寮内で理解を得られないという事は無いだろう」
「それだと良いんですが…」
「セントクレア公爵令息に関しては私の方からセントクレア公爵へ苦言を呈してみる事にしよう。
ああいった『一方の言い分だけを鵜呑みにした』状態での断罪強行は高位貴族家の令息として相応しからざる態度だからね」
「…お願いします」
「くれぐれもこの学院に見切りを付けて北部に引き篭もるような事にならないで居てくれるように頼むよ」
「?…私は学院全体で見て、そこまで抜きん出て優秀な生徒ではありませんよ?…」
「どうだろうね?国際的政争面で近年切迫してきている問題もある。もしかしたら数年のうちに戦争が起こるかも知れないので優秀な治癒師を1人でも多く国のために確保しておきたいという気持ちがある。
勿論、そうした不安は杞憂であって欲しいと思ってはいるが…。そういう問題は私の願いや決定の影響下で起こっているものではないので、正直どうなるのか分からない。
『最善を望み最悪に備える』には、君のような治癒適性の高い魔術師には是非とも能力を伸ばして活躍してもらいたいと思ってるんだ」
「戦争なんて…起きないで欲しいですが、それは本当にどうなるか分かりませんね。
副学院長の意向は了解しました。セントクレア公爵への苦言の件、宜しくお願いします」
「うん。任された。君にはめげずに学業に励んで欲しい」
「善処させていただきます。お気遣いありがとうございます。では、失礼させていただきます」
「うん。頑張って」
副学院長は意外に好意的だったが…
その理由が『竪琴の君』だと聞いて微妙に複雑な気分になってしまった…。




