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王都の闇は深い。
使い魔のリーを使ったノークスとのやり取りは続いている。
以前、私がフリンジ越しに見かけた人攫い犯達は
「予想通り東部人だった」
事が明らかになっている。
「見習いの通報じゃ騎士団は動かないから」
という理由で、不審者通報はライアン・ファレルにやってもらったそうだ。
以前、ヘザーがライアンと使い魔のやり取りをしていると言ってた訳だが…
ヘザーはライアンの侍女の1人。
吸血鬼にとっては
「使い魔で手紙をやり取りする」
という事自体が
「そのうち寝所を訪ねる」
という意思表示でもあるので
「ヘザーはライアンの愛人候補の1人だ」
という事が分かった。
さて、子供のかどわかし及び犯罪誘導教育の件は
「犯罪組織の拡大目的」
「情状酌量の余地はない」
と犯人達を鉱山送りにしてくれたが…
「どんなに拷問しても犯人達がエルフとの関わりを吐く事は無かった」
のだという…。
ノークスに言わせると
「潜在的記憶まで読める読心術師を呼んで犯人の記憶を読ませればエルフとの関わりも出てくるんだろうが…。
『読心術師が本当に読心できているのかどうか真偽判定ができない』という事もあり、読心術で得られた情報は法的に無効とされる事も多い。
『読心術師を呼んで取り調べをする』という事情聴取方法自体が余程特別な場合を除き中央の司法では採用されない」
との事。
「…貴種にも読心術ができる人がいる筈ですよね?モルガン子爵家のヴィクター・モルガン様は読心術を使ってましたよ」
「北部で起きた犯罪の取り調べならヴィクター様が読心して事情聴取するんだろうけど、中央は中央のやり方になる」
「…それって犯罪教唆で暗躍する人達にとって随分と有利な環境ですよね?」
「そうだな。だけど誰も気にしていないからこその現状なんじゃないのか?王都の人間も東部の人間もエルフのような性悪を美化して受け入れている。
その結果として自国民がエルフの人間牧場の家畜みたいに搾取されていても『自分がやられるんでなきゃそれで良い』と思ってるんだろうさ」
「王都民も東部人もバカなんでしょうね。そもそも自分達がエルフにとっての人間牧場で飼われてる家畜になってる事自体認識できてないのかも。
北部を吸血鬼の人間牧場だとバカにしてる割には、いざ自分が牧場の家畜扱いされてても気付かないなんて頭が悪過ぎます」
「頭が悪い、という訳ではない筈だが…『信用してはならない性悪を信用する事で認知の歪みが出る』と、とことん現実の因果関係が見えなくなって、不自然なくらいに性悪が行う犯罪を意識に入れないようになっていくんだな、と思うよ」
「何故、こんな現状になっているんでしょう?王家も南部も貴種に好意的にエンチャントしてる筈ですよね?」
「それなんだがな。『貴種全般に好意的に』というエンチャントだと効果が薄くなるものらしい。エンチャントは『好意対象を限定』したほうが効果的になるんだ。
あと、王家や南部の主だった大貴族達が『ハワードの息子達』によってエンチャントを受けてからだいぶ年月が経っている」
「それなら今居る貴種みんなで取りこぼしがないように出会う人、出会う人、皆をエンチャントしていけば、北部以外の場所でも貴種は暮らしやすくなるんじゃないでしょうか?」
「それは、まぁ、思うよな?だがエンチャントを仕掛けるのって、超加速を使えない者にとっては意外に大変だぞ?」
「…ああ…。金縛りにかけてから、目撃者を出さないように、或いは目撃者も全員暗示にかけて目撃した事柄を忘れさせる必要があるんでしたね…」
「ああ。だが、まぁ、貴種1人につき毎月3人づつエンチャントしていくとか、ノルマを付けて全員でやっていけば、数年でだいぶ変わるのかもな?」
「超加速を使えたら、毎月3人ずつというノルマも楽々こなせるでしょうね」
「超加速…。100倍とかは無理だが、2倍3倍くらいなら使えるようになったんで戦闘で利用させてもらってる」
「2倍で良いなら私も使えます。戦闘訓練と組み合わせて使おうにも対人戦闘訓練自体ができない環境だったので(モルガン侯爵城では騎士達に無視されていたから)…ネズミを捕まえる時のみの利用でしたけど…」
「………苦労してたんだな」
「超加速100倍とかできたら魔物とかも狩り放題ですね。対人戦闘も同じレベルの者同士でしか勝負にならないでしょう」
「オグデンの森の魔物を狩るのも王国騎士団の任務の一つだが、基本的に貴種は魔物を狩り過ぎないように手を抜いてきているそうだ。
『王国騎士団の任務を減らさないように』という目的で」
「そうなんですか?」
「王国騎士団の仕事が減ると連中は色々邪まな事を考えるようになりそうだからな」
「邪悪な人間ばかりじゃないでしょうに」
「どうだろうな?邪悪じゃない人間も邪悪な者に教唆されれば『邪悪を行いながら正義を為していると錯覚する』ような状態になってしまえるのかもな」
「本当に、なんで吸血鬼を悪者に仕立てたがるエルフみたいな鬼畜な生き物がこの世にはいるんでしょう?神様、恨みます…」
「今更だな。…とにかく後ろ暗い連中は決して独りにはならない。騎士団にも貴種じゃない幾人かが変身術を使っている痕跡がある。
連中がエルフだとすると、エルフは王都内で活発に活動してるんだろうな。
王立学院にも騎士団にも入り込んでいて、尚且つ東部の大貴族が後ろ盾ともなると…色々やりにくくなるぞ」
「王家と南部の大貴族のエンチャントは同時多発的に一斉にエンチャントが行われたんですよね?
その時みたいに東部の主だった大貴族を一斉に同時多発的にエンチャントして回るとか、してくれませんかね。『ハワードの息子達』で」
「始祖様が活動期の間に指示してやらせた事みたいだから、無理だろうな。始祖様以外の者が『ハワードの息子達』に何か指示して同時多発的に行動させるとか、できる筈もないし」
「南部の時は『自分が休眠期の間に子孫が狩られて絶えてしまってはいけないから』という意図だったんですよね?
『ハワードの息子達』の方でも自衛意識とか無いんでしょうか?」
「…ヴァンパイア・ハンターの狩りの対象にされるのは『ハワードの息子達』じゃない。
俺達みたいな孫とか曾孫だよ…。それこそ『自分が狩られる訳じゃない』んだから、『ハワードの息子達』の方に動く理由は無いさ」
「始祖様は子孫が狩られないように願ってらっしゃるみたいなのに、『ハワードの息子達』の方では、そういう子孫庇護欲みたいなものは無い、と?」
「考えてもみろよ。1000歳超えのモルガン侯爵ハンフリー様の息子である貴種が100歳ちょっとのスタンリー様だけ、というのは色々オカシイだろ?
これまで何人もご子息をもうけて来ている筈なのに嫡子がスタンリー様だけ、というのは…これまでのご子息は狩られてきてると考えるのが普通だ。
それと同じ事はモルガン伯爵リンドン様、モルガン子爵レスター様にも言える。
自分の息子、自分の孫に愛着を持って、生き残らせたいと思う気質の貴種もいるにはいるし始祖様はそういうタイプなんだろうが…『ハワードの息子達』のほうにはそういう子孫への庇護欲は無いと見て良い」
「…それだと、王都や南部にいる吸血鬼は狩られる可能性が高いんじゃ…」
「ああ。狩られる可能性は高い。だから無事に北部へ戻る事にも価値があるんだ」
「王都の闇を暴くどころじゃないんですね…」
「ともかく俺達は騎士団で5年間生き延びられるように気を付けて過ごすし、お前も正体を悟られないように過ごしてくれ」
「分かりました…」
そんな会話を通して私は物騒な現実を再認識してしまったのだった…。




