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挿絵(By みてみん)


学院は四年制。

つまりは12歳から16歳の少年少女が集まる場。


早熟な子達なら早速恋愛にうつつを抜かすのかも知れないと想定はしていたが…

イーリーはその点、予想よりも更に男好きだった。

(さすがエルフ疑惑濃厚な容疑者…)


いわゆる逆ハーレムというヤツだろうか。

イーリーの周りに男子が集まって群れている状態…。


セントクレア侯爵家の新入生代表だったライオネル・アームストロングとその取り巻きがイーリーの側にピッタリくっついている。


ライオネルは

「貴族は陰湿だし、女どもの嫉妬は汚いからな。我々が平民の特待生を守ってやらないと」

だのと言ってる。


(頭がオカシイのかな?)

と少し思った。


何故なら、私の盗み聞き網には

「ライオネル様の婚約者はオークニー侯爵家のアリッサ様なのに…」

という情報がキャッチされている。


しかもオークニー侯爵令嬢アリッサ・ハザリーは来年入学してくる予定らしい。

一体何を考えて婚約者ではない異性を傍らに置いておく事にしたのか…意味が分からない。

(多分、何も考えてないんだろうが…)


私は私でライオネル達にもイーリーにもカケラも好意を持っていないので、余計に連中に対して好意的解釈はできない。


イーリーのような女と同室だという不幸のせいで…

「ルビー・ファレルという元平民は、自分も元々平民だったくせにイーリーの愛らしさに嫉妬して事ある毎に小さな嫌がらせをネチネチ仕掛けている陰湿女だ」

というキャラ設定がされてしまっている。


イーリーはイジメられてもいないのに

「イジメられた」

と被害者ぶる女なので、関われば関わるほど損をさせられるのだ。


「…でも、仕方ないの。ルビーは良い人よ。皆から勝手な悪口を言われてる私に対して嫌味を言ったり、朝起こしてくれなかったりするだけで、物を盗んだり壊したりまではしないでおいてくれてるもの」

だのと事実無根の訳の分からない事が言われている。

(死ねば良いのに…)


男子達の脳内には

「イーリーには虚言癖がある」

という事実と関連する推理は浮かばないようで

「そんなクズな女には文句を言ってやる」

だのと私への悪意が掻き立てられている様子。


ライオネルと取り巻きの1人は認識阻害看破魔道具を持ってるが…

幸い私とはクラスが違うので避け続けるのは難しい事じゃない。


正直、私はイーリーと同じ部屋に居ても会話する気はないので気配隠蔽術を使って存在感を消している。


広さもない同じ部屋にいて姿が見えないのは流石に不自然過ぎるので透明化はしてないものの…

部屋を仕切るカーテンを常時閉めて、結界を張って、念の為に読書してる幻影まで流して、使い魔との感覚共有で情報を得たり、覗きで仕入れた古語魔法陣の図象で魔術が有効化するか試してみたりしているのだ。


イーリーとは会話もない。

何せ同じ部屋に居てもイーリーの中では私の存在は消えてるのだから。


イーリーと関わりたくない、という思いは多分

「イーリーが本当にエルフだとしたら、きっといつか殺し合いになる」

という覚悟があるがゆえだ。


エルフが吸血鬼を襲撃し殺す事には何の正当性もないのにエルフはそれに罪悪感も覚えず、その伝統をやめる事もない。


集団で組織的に頭がオカシイ鬼畜人種はどこまでも自分自身の良心に嘘をつき続けられるのだろうが、私はエルフと同じ土俵に立って狂う気はない。


(イーリー達は馴れ馴れし過ぎる…)

距離感ゼロという感じで擦り寄ってきて、自己中心的な価値観を押し付けてくる。


何故、そんな無礼で馴れ馴れしい連中を処罰せずに受け入れてしまうバカがいるのか、意味が分からない。

イーリーにくっついている男子達に暗示が埋め込まれている痕跡はない。

どうやって誑かしているのか、未だ正体が掴めていない。

(いずれ尻尾を掴んでやる…)


私にとって敵が多い学院内は主に情報収集の対象だ。

(情緒的対象ではない)


そんな私の唯一の悪徳は

「覗きの副産物として得られる情報のお陰で勉強を真面目にしなくなった」

事だろうか…。

何せテストの問題用紙も教師が作成してる風景も覗き放題なので出題問題も答えも初めから分かってる。


元々の得意科目の算術は満点で良いとして、元々苦手科目だった歴史はちゃんと手を抜いて平均点程度に抑えているのでバレる心配はないとは思う。


私は寮の自室では気配隠蔽術、それ以外の場所では透明化術を使って友達もいない平穏な学院生活を送る事にしたし、それで上手くいった。

(認識阻害看破魔道具を使ってる教師陣には私が見えてるので欠席扱いにされる事もない)


******************


「フェアバンクス家の隠れ魔術師ジョエル・フェアバンクスに弟子入りさせてもらう」

という話は

「条件付きで了承」

してもらえたので私は晴れて隠れ魔術師の弟子となれた。


彼が私に突きつけた条件は

「王立学院の教科書を写本してフェアバンクス家本家のフェアバンクス男爵家長女のミリセントへ与える」

というもの。


ミリセントは私より一つ年下。

フェアバンクス家の特徴ではあるのだろうが、頭脳明晰で金勘定が得意。


王立学院の受験を突破して来年から学院生になる自信はあるが…

流石に成績上位をキープし続ける自信はない。

なので予習感覚で王立学院の授業内容を知りたい、という事らしい。

(フェアバンクス家らしい発想なんだろうな…)

と納得。


私もジョエルの条件を呑んだ事でジョエルへの弟子入りが決まった。

とは言え、ジョエルの本業は医者。

魔道具作りは趣味でのもの。


私の休日とジョエルの休診日がかぶる事は少ないので、休日の度にジョエルの所へ行ってみても大抵は治癒師見習い扱いでの助手をさせられるだけだ。

まぁ、それも役には立つ。


治癒適性魔力の者達は4年生になると「研修」という名の無償治癒が強制されるようになる。


王都内の診療所、騎士団などで病人・怪我人を治療しなければならない。

そのために入学させてやったんだ、1年間はみっちり無償で働け、という事のようだ。


基本的に1年生・2年生の間に必要な学習が詰め込まれ、3年生・4年生は各種資格試験対策の学習と各種資格取得が課題。

4年生は自習も多いらしい。


治癒適性魔力持ちは学院の授業に出席してなくても出席扱いで、無償治癒に回る。

その分、各種資格試験対策が不利になるという事もあり

「準官吏試験の合格推薦枠へ入れてもらえる」

という特典がある。

経理・事務能力面の資格取得に失敗しても準官吏資格が手に入るのである。


準官吏資格があれば

「高位貴族家の家政婦職に就ける」。


家政婦というと地球の感覚でお手伝いさんか何かと勘違いしそうだが、この【世界】の家政婦は女主人代理のようなものなので嫡男の乳母よりも侍女長よりも偉い。

女性の使用人の中では実質トップの職種。


基本的に女性は職や地位を得られにくい社会。

貴族家の嫡子が女子しかいない家の場合、子供のうちの誰かに家を継がせたいと思うなら、王立学院を卒業させて準官吏資格を取得させなければならない。


そうできないなら男性を婿養子に迎えて、婿養子に家を継がせるか、婿養子との間のできた男子に継がせるかになる。

男子が生まれる前に舅親が亡くなった場合には法的強制で婿養子に爵位がいく。

子宝が女子しか恵まれなかった貴族家を婿養子が乗っ取るのは案外ちょろい。


勿論、貴族家へ婿養子に入るのにも「貴族家の息子」かもしくは「騎士資格を取得している」必要があるので誰でも良いという訳ではない。


フェアバンクス男爵家の場合は男子が2人。

ミリセントには兄と弟がいて、兄は既に騎士団入りしているらしいが…男子2人の身に何事もないという保証もない。


万が一に備えて女性でも爵位を継げるようにと対策しておく事は大事だ。

フェアバンクス男爵夫妻はミリセントが王立学院入学を目指している事を喜んでいるとの事。


その意を汲んでのジョエルの条件だった訳である。



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