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「…そう言えば、以前アラスターおじさんが転移魔法陣で転送してくれたグレゴリー伯父様からの手紙。
チャールズお祖父様の葬儀に出なくて良いとかって内容だったんですけど、アレにも意味があったんでしょうか?」
「ああ。アレは…チャールズの遺言の冒頭に『葬儀に来なかった親族は相続権を放棄したものと見做す』という一文があったんで、出席者を1人でも減らそうとしてたんだ」
「ろくな『伯父様』じゃないよな?」
「そもそもグレゴリーの母親のキャサリン自体が『本当に魔術師か?』と疑わしくなるくらいに低次元な女だったもんなぁ…。
父さんの(アーサー・スミッソンの)説では『死にかけてから生き延びる事で前世の記憶と魂の記憶を思い出して覚醒してしまう』ものらしい。
魔術師だと発覚した赤ん坊の時点で貴族家へ引き取って大事に育てるっていうグルゴレットヒル侯爵派の方針は、魔術師の覚醒を妨げて意識を低次元化させてしまっている節がある。
と言っても、覚醒済みの魔術師でも驚くくらいに低次元で糞過ぎる人格破綻者とかも居る訳だし、魔術師の意識の質は驚くほどにピンキリだって事だろうな」
「…私、そう言えば、小さい頃肺炎で死にかけたと思うんですけど。何故死にかけるまでポーションを使ってもらえなかったのか、実は気になってたんです。
お金が無かったから、とか、そういう事ではなく、覚醒させたかったから、あえてギリギリまでポーションを使わずにおくとか、そういう事だったんでしょうか?」
「それもあるだろう」
「魔術師に限らずだ。俺のようなただの人間でも死にかける事で前世の記憶を思い出している。
ただ、普通に死にかけるのではなく、前世と同じ死因で死にかけるのがコツなんだろうな?
それを思うと、ギリギリまで敢えて放置ってのも一種の賭けだな」
「アラスターおじさんて、前世の記憶とかある人だったんですね?」
「そうだぞ。前世は大陸側の人間だったから、わざわざ学習しなくても外国語が堪能で、子供の頃は『神童だ』とか言われてたんだぞ?」
そう言って胸を反るアラスターが無邪気で、思わず釣られて笑ってしまっていた。
伯父のグレゴリーが私を憎んでいると知って、本当は悲しかったのに…。
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王都まで戻る旅の間に色々な話をした。
デクスターからは
「お前、奴隷商人になって、俺の後を継がないか?」
と言われたので
「私は…多分『奴隷商人』というものに対する偏見があるんでしょうが、積極的に他人を奴隷としてやり取りする仕事に就こうとは思えません」
と正直に答えた。
「…う〜ん。…お前は多分、心霊術というものに関して無知だから、この世には儀式殺人などといったものがある事も知らないって事なんだろうなぁ…」
デクスターが肩をすくめながら、そう言うと
アラスターがウンウンと頷きつつ
「…お前には思いもよらないかも知れないが、奴隷なんて最底辺の被搾取者を取り扱う側には心霊術の心得が要る。
そしてそういった心霊術を扱う者達の中にも、やっぱり最低最悪の外道行為が存在するって事だよ」
と宣うた。
「?」
私が首を傾げると
アラスターは溜息を吐き…
「実のところ、俺は魔術師じゃないけれど、魔術師だった頃の記憶がある。
前世で魔術師だった頃には覚醒できないようにされてたから、こうやって次の生で覚醒したんだ。
そして俺はアラスター・スミッソンJr.じゃなく、デクスター兄さんの弟のアラスター・スミッソン当人なんだ。
一度殺されて、母さんに蘇生してもらった後で、『アラスターの隠し子だった』って言い張ってるんだよ」
と告げた。
「…アラスターおじさんは、アラスター大伯父様?」
「そうだ」
「若過ぎません?」
「蘇生と同時に暗示解除されたハーフヴァンパイアだからな。お前の父親と同じだ。おそらく150歳くらいまでは30前後くらいの見た目のままで、その後は普通に老いて死ぬ」
「…どうしてJr.って名乗ってるんですか?」
「死者が蘇生するなんて話、皆が皆知ってる訳じゃない。そしてわざわざ教えてやる必要もない。
そもそも俺が殺されたのだって、『愛しい相手を蘇生してもらいたい』とか思ってる連中が組織化して襲ってきたからなんだよ」
「そう、なんですね…。『死者蘇生を行える者が居る』と知れば、蘇生対象者を殺せば術者が術を使うと思って、そうなってしまうんですね…」
「ああ、死後24時間以内という制限がある蘇生なんで、死んで何年も経ってる相手を生き返らせてもらうなんて絶対無理なんだが…。
誰かに縋って自分の希望を叶えさせたい欲求に取り憑かれてる連中には何を言っても理解できないんだ」
「アラスターおじさんは、そんな狂人達に一度殺されたから、その手の人達を奴隷にして報復するために奴隷商人をしてるんですか?」
「いいや。そういう事じゃない。最初は報復を考えてたが、俺は殺された事で『儀式殺人』という事柄に関心を持ったんだ。
その結果、グレイス王国のみならず、近隣諸国でそういった『儀式殺人』が行われている事に気がついた」
「『儀式殺人』が行われる事と、奴隷商人をする事が関係してるって事は…まさか」
「ああ。奴隷が『儀式殺人』の生贄にされる事があるって事だ」
「アラスターおじさんは奴隷を『儀式殺人』の生贄にさせないために奴隷商人をしてる、と?」
「いや、そうじゃない。どんなに止めさせたくても止めさせる事は無理だ。人間や亜人の欲は深過ぎる」
「それじゃ、気に入らない人間が生贄にされるようにしてる、と?」
「そうじゃない。俺は運命共同体というものに関しても各個人に関しても因果応報を望むだけだ」
「因果応報…」
「運命共同体というものは存在しているが、その存在を認識できない者達も多い。
運命共同体を認識できない者達は平気で同じ運命共同体に属する者同士で内ゲバしてしまう。
一方で運命共同体というものを明確に認識して組織的に活動する人種は、運命共同体を認識しない他の人種よりも圧倒的に有利だ。
要は、生存競争は、政争と同じく団体戦・チーム戦という事だ。
どんなに『戦いなどない』と欺瞞に耽ってみても、よその国に入り込んでナショナリズムやエスノセントリズムを強固に維持して乗っ取り侵略を目論む強欲どもが湧き続ける限り、民族的バリアフリーは『病原菌を自ら受け入れる自殺行為』にしかならないという事だ。
そんな図式が、この世の真実である以上、富裕層の人間はそうした運命共同体同士の侵蝕・淘汰合戦にちゃんと向き合わなければならない」
「運命共同体同士の侵蝕・淘汰合戦…ですか?」
「…具体的に言うなら、お前のような子供の吸血鬼がエルフに攫われて、恐怖で蹂躙されながら首を落とされ、死んで蘇生もできないなら、どうなるか…一度本気で考えてみると良い」
「…絶望すると思います」
暗い暗い、闇よりも暗い心象風景。
それは夜に深い井戸の底を覗こうとするようなものなのかも知れない…。




