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私が大伯父の病室を見舞った時点で意識が無かったが…
あの後間もなくして大伯父は息を引き取っていた。
(偽物の大伯父だが…)
家人が
「お忙しいところ、故人のためにお集まりいただき誠にありがとうございます」
と挨拶している。
財産の相続とかそういうのは埋葬が終わるまで誰も口に出さないのがルールとか、そういう風に考える人もいるようだが、ここの大半の人達は違った。
ここまで来た最大の理由はやっぱり財産分与だ。
大伯父はそういうスミッソン気質をよくよく理解していたらしく
財産の分与において、きちんとした人だった。
我が子、我が孫可愛さで、兄弟や甥姪らを蔑ろにするような事も無かった。
寧ろ
「デクスター(次男)と、ダレン(四男)が魔術師だったんだから、本当はスミッソン商会総帥の座は2人のうちのどちらかに継がせるべきだった」
と言っていたとの事。
大伯父ジョージ・スミッソンが爵位と総帥の座を継いだ最大の理由。
それは
「顔が父親のアーサー・スミッソンにそっくりで、間違いなく親子だと誰の目にも一目で明らかだった」
という理由だった。
(長男だからとか、優秀だからとか、そういうのではなかった…)
命名も最初はアーサーJr.になる筈だったのを
「顔だけでなく性癖まで似たら子孫が途絶えるわい!」
と親戚中から反対にあい、アーサーの父親ジョージ・スミッソンの名を受け継ぎジョージJr.となったとか。
曽祖父のアーサーは、どうやらジョージ以外の子供に対しては
「本当に俺の子か?」
と微妙に疑い続けていたらしい。
(コーネリアおばあ様がオズバートと浮気し続けてたから)
ともかく大伯父は皆に何かしらの財産を遺していた。
私も遺産を頂いた。
のだが…
もらった物は竪琴だ。
(コーネリアおばあ様が竪琴を持ってる絵が森の隠れ家に有った筈だけど…。あの絵に描かれた竪琴に似てる…)
楽器は貴重品なので森の隠れ家には無くて、両親からも習っていなかった。
使いこなそうと思うなら独学になるだろう。
(アルバート先生は多芸だから教えてもらえる可能性はあるけど…)
皆が皆、何かしらの遺産を分け与えられながら、喜色満面の人もいれば微妙な表情の人もいる。
集まっている親族を見ながら
「誰が魔術師なのか分かりやすいな…」
と、しみじみ思った。
魔眼で見ると一目瞭然だが、魔眼で見なくても
「魔術師と非魔術師とでは歳の取り方が違う」
のがよく分かるのだ。
ジョージはヨボヨボだったが…
魔術師のデクスターはナイスミドルとかイケオジとか言っても良さそうな感じ。
アラスターJr.の父親のアラスターは既に故人。
ジョージアは少し腰が曲がってる。
ダレンは魔術師でやはりイケオジ。
グレンはくたびれたオジサン。
アレンもそうだ。
そして彼らの妹のエレインは(私の祖母は)ここにはいない。
(新大陸に居るんだと言われてもTV電話みたいなので喋るとかできないと実感はない)
大伯父、大伯母らの子や孫もまた
「魔力量によって容姿や賢さが違う」
ように見えた。
王立学院在籍中のイライアス・スミスは実はシドニスティリュス伯爵家へ養子に入ってスミス姓になっているが、ダレン・スミッソンの孫。
(魔術師の息子)
バーニー・スミッソンは、ジョージの内孫。
遺伝、隔世遺伝で魔術師が輩出されているのがよく分かる。
魔術師同士の結婚が推奨される筈である。
イライアスがセルマ役のヘイゼルに話しかけてから私の方を向き
「王立学院の新入生だよな?」
と訊いてきたので
「はい。魔力が治癒適性だったらしくて幸運に恵まれました」
と答えた。
要するに
女で
治癒適性だから
運良く試験突破できたのだと卑下したのだ。
(優秀だとバレると「北部の平民設定」との間に齟齬が出る)
「…ああ、だからか。頭良さそうに見えないのに平民だった子が受かる訳ないもんな」
と、シレッと平民だと知ってるぞアピールをされたが
「本当に運が良かったです」
と肯定した。
(コイツらに「親戚だ」と認識されると不審者のイーリーやレルフに「セルマ・スミスだ」とバレる可能性が高くなるし、これで良い…)
バーニーが
「あ!平民の新入生だ!」
と指差してきたが
(お前らが魔眼持ちじゃないみたいで助かるよ)
と思ってしまった。
「セルマはこの子と仲が良かったのか」
とイライアスが尋ねると
ヘイゼルが(セルマのフリをして)
「モルガン侯爵城に奉公に来てくれてたので知り合ったの。とても良い子よ」
と言ってくれた。
「「奉公…」」
平民の子供が幼い頃から奉公へ出るのは口減らしも兼ねていて、この国でも近隣国でも普通の事の筈だが…
人間の隠れ魔術師として幼い頃から大切にされ英才教育を受けてる者達にはよく分からない世界なのだろう。
「北部では子供が小さい頃から働きに出るんだな」
「貧乏平民は可哀想だな」
と言われた。
(英才教育受けてる筈の割には世間知らずなのか?)
と思わずアラスターの方を見ると
「?」
と首を傾げてくれた。
「…子供が何人もいる家では、長男と次男以外の子は小さい頃から普通に働いてますよ?
外に働き口が無い場合でも水汲みとか家畜の世話は子供の役目だったし、スライムとかの最弱魔物なら、田舎では5歳くらいから狩って食糧にしてます」
と世の中の世知辛い真実を指摘してやると
「「「えっ?」」」
とヘイゼルにまで驚かれた。
森での暮らしではスライムは子供でも楽に狩れる絶好の食糧だった。
「そ、そうか。逞しいな。確かに良い子だな、うん」
とイライアスが苦笑しながら…
私への質問は切り上げて、セルマ役のヘイゼルに話しかける。
「エリザベスおばさん達を殺したのは本当にヴァンパイア・ハンターだったのか」
「本当は北部の吸血鬼どもに殺されたんじゃないのか」
「もしかしたらお前は両親を殺した仇の世話になってるのかも知れない」
とか何とか…。
要は
「北部貴族へ不信感を持て」
と何気に刷り込んでいる様子。
私のような平民に対しては
「どうせ吸血鬼どもの悪口を吹き込んでも理解できまい」
と思ってるかのようだった。
セルマとの話を終えて、別の場所へ行ってからコソコソこちらを見ながら
「ルビーって子。可愛いな。ファレル男爵家の後継が婚約者なんだろ?」
「治癒適性の魔力が有ったせいで吸血鬼一族の婚約者だなんて可哀想な話だ」
「貧乏平民は貴族と結婚できるってだけで嬉しいんじゃないのか?」
「かもな?自分が本当は惨めな身の上だって理解もできてなさそうだ」
「可哀想に…」
だのと好き勝手に言ってるのが聞こえる…。
彼らの中ではルビー・ファレルは
「吸血鬼と結婚して貧乏から抜け出せる事を喜ぶ頭の弱い女の子」
のようだ。
(それで私が本物のセルマだとバレずに済むのなら、問題ない…筈)
今後も
「貴族の事とか、よく分かりません」
「教科書通りのお勉強しかできません」
というキャラで生き残っていきたいと思う…。




