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「そうなんですね…」
ヴァンパイア・ハンターという生き物の容赦なさに今更打ちのめされた私に対して
コーネリアは慰めるような優しい視線を向けて…
「こちらも当然、超加速を起動した状態で転移したし、すぐさま2人の死体を回収して、ストレージ保存していた盗賊2人の死体をショーンとエリザベスに変身させてから、賊の後を追ったよ。
所詮はエルフが使う超加速という事もあって長時間の使用はできないらしく、森を抜ける出口付近で木陰に隠れて追手をやり過ごそうとしていたが、こちらがそれを見逃す筈もないだろう?
その場で殺しても良かったんだが、そうするとヴァンパイア・ハンター達の後を尾けて森の隠れ家付近に居た北部吸血鬼どもに対して示しがつかない気がしたんだ。
だからヴァンパイア・ハンターどもには『北部の吸血鬼を襲撃しろ』と暗示をかけてから、敢えて野放しにした」
と衝撃の事実を教えてくれた。
「ヴァンパイア・ハンターを殺さずに暗示をかけたんですか?!」
(その場で殺して欲しかった!!!)
「私もいちいちエルフどもや北部吸血鬼どもの動きを観察してる訳じゃないけど…北部吸血鬼どもがエルフどもを日々監視していてエルフどもが狩りに出るタイミングでストーキングしてる事は知っているんだ。
あの日も北部吸血鬼どもはあの森にいて、お前の両親が襲われるのを助けもせずに傍観していた。
『襲われるのが自分の身内じゃないから構わない』というノリで。
後でアラスターから聞いたところによると、森の隠れ家からは貴重な魔道具類が幾つも消えていたって話だ。
ヴァンパイア・ハンターのエルフ達がそれらを持っていなかったって事は、北部吸血鬼どもが火事場泥棒の犯人って事になるだろ?
ヴァンパイア・ハンターが行う狩りという名の殺人を敢えて見過ごして、更には襲われた側の財産を掠め取る。そんなクズな北部吸血鬼どもに対しては『お前ら自身が襲撃されてみろ』って思うのも道理だよね?」
「…だから、イアンおじ様は襲われたんですね…」
「そのまま死んどいてくれても良かったんだけどねぇ…。しぶといから、あのクソ親父」
「イアンおじ様は悪い人なんでしょうか?…」
「…気持ちは分かるよ。私もイアンには誑かされた事のあるクチだから。…あのクソ親父は見た目も話し方も穏やかで善い人そのものに思えるし、本当に良くしてくれる事もあるけど、シレッとあり得ないような酷い事もできてしまうんだ」
そう言われて、思わずジャンが襲撃された時の事を連想した。
「………」
「思い当たる節があるんだろ?」
「…はい…」
私が頷くと
コーネリアは深く溜息をついてから
「…北部始祖のハワード自体が笑えない冗談をシレッと実行してしまうシニカルな性格なんだけどさ。性格面では『ハワードの息子達』の中でもイアンが一番父親に似てるよ。
ともかくイアンの事は今後も心配してやる必要はない、と割り切る事にして、エリザベスとショーンの事を話しておく事にするよ…」
と言葉を継いだ。
「お前には悪いんだけど、蘇生させて直ぐに2人の記憶からお前に関する記憶を封じさせてもらった。
もしもそうした処置をしなかったなら『グレイス王国に戻る!』と言い張って自分自身の命をまた危険に晒しかねない様子だったからね。
今はまた子供が産まれて2人とも安定してる。
ショーンに似て蜥蜴人の血が濃い男の子だ。お前の弟で『ヘイゼル』って名付けられた」
そう言いながら、コーネリアはヘイゼルを見遣った。
私も同じくヘイゼルを見ると…
ヘイゼルは寂しそうに苦笑していた。
「あ、大丈夫です。私は所詮、人間じゃありませんから…」
ーーきっと私は血も涙もない吸血鬼なのだ。
(ミミックなのに感情があるんだな…)
だなんて、ヘイゼルの目が潤んでいるのを見て思ってしまった…。
「ハワードとの約束で『生きた者をグレイス王国から新大陸へと転移で連れ帰ってはならない』という制限がある。
だから血縁者の蘇生は新大陸へ転移してからしか行えない。蘇生した者はそのまま新大陸で暮らしてもらう事になる。
だから、あの日、お前も一緒に殺されていたら、お前の死体も一緒に連れて戻れた。
エリザベスが気配遮断の魔道具、魔力隠蔽の魔道具を使ってお前を完璧に隠してしまったのが裏目に出て、家族が離れ離れになってしまった。
…大したものだよ。ヴァンパイア・ハンターにも見つからず、火事場泥棒の北部吸血鬼にも見つからず、私にさえお前がどこにいるのか分からなかったんだから。私はてっきりお前は別の場所に預けられていると思った…」
「そうだったんですね…」
「デクスターにもアラスターにも伝えた筈だったけど…。どうやら事務方に敵が紛れ込んでいたらしく、その件に関する返信が一向になかった。
なので転移魔法陣でのやり取りは阻害されていると気が付き、鳩を飛ばし『転移魔法陣の管理不行き届き』を指摘する事にした。
鳩がアラスターの元に手紙を届けてくれたのは、アラスターがフリンでお前を見かけた直ぐ後だったみたいだね。
…私自身が転移して直々に話をできるなら、それが一番間違いないものの、身内が死んだ時しかこっちに来れない訳だから…」
「どうして北部始祖様はそんな制限を課したんでしょうか?」
「おそらく北部吸血鬼が私に淘汰されないため、だね。それはこっちにも同じ事が言える。自分が不在の150年間の間に前回の活動期で作った子供達の子孫が根絶やしにされたりとかしたら嫌だろ。
だから私は新大陸へ行く事にした。勿論、初めはもっと自由に転移して帰って来るつもりで『夫が死んだら新大陸へ移住する』と言ったんだけどさ…。
ハワードは甘いヤツじゃないから、結局、今のような条件を呑まされた訳」
「北部始祖様は北部吸血鬼達が可愛いんでしょうか?血も涙もないような奴らが大半なのに?」
「全員が、じゃないだろ?」
「ええ、まぁ…」
「たった1人でも生き延びさせたい子供が居れば、その子を生かすためにどうでも良いクズな連中も一緒に生かしておこうとするものなんだよ。
チートな力を持たされてしまった側からするなら…」
「コーネリアおばあ様も?そういうお気持ちなんでしょうか?」
「さぁ?私は何人かの血縁者には使い魔を付けて『何かあったら知らせろ』と使い魔に命じてはいるけど、使い魔と感覚共有して相手の生活を覗くような事は基本的にしない主義なんだ。
面倒だろう?それに『覗かれる側の不快感』は、この国にいた頃に嫌というほど味わったからね。子孫にわざわざ同じ思いをさせたい、とは思わないかなぁ?」
「…ジョージ大伯父様には使い魔を付けていたんですか?」
「当然、付けてたよ。だからジョージが死んだ瞬間に回収させてもらった。
時間停止した亜空間ストレージを開発して、そこに魂ごと収納したから、直ぐに新大陸へ戻って蘇生させるとかしなくても大丈夫。
今、ジョージの寝台で死にかけてるのは牢獄に囚われてた死にかけの死刑囚をジョージの姿に変身させたものだ。
治療なんてされたら困るから治療を拒む遺言をするように操作させてもらった」
「でもジョージ大伯父様は人間ですよね?蘇生させても、また直ぐに病気になって亡くなるのでは?」
「まぁ、そう思うよね?…確かにね。人間はそうだった…。老衰死した者を蘇生させても、やっぱり亡くなった。アーサーも…友達だった人達も…。
でもね。私とアーサーとの間の子供達は純粋な人間じゃないんだ。
エルフと人間の混血がハーフエルフと呼ばれるみたいに、人間である筈の子達は微妙に純粋な人間ではなくて、見た目は人間そのものなのにハーフヴァンパイアとでも呼ぶべき人種として産まれてるんだ。
だから本来の寿命は他の亜人のように150年〜170年くらい生きられる筈だよ」
「?…でも、亡くなったんですよね?」
「そうだよ。人間としての生は終わった。だけど亜人としての生は残ってる。何故なら、私は自分の子供達に対して、彼らが産まれて直ぐに、強力な暗示をかけてる。
それこそハーフヴァンパイアが自分を純粋な人間だと思い込んで、人間と同じように暮らせるように、そう思い込んで、本当にそうなるように、暗示を施しておいたんだ」
「エレインお祖母様やママの時は暗示は効かなかったんですか?」
「あの子達はハーフヴァンパイアではなく下位吸血鬼だ。ハーフヴァンパイアのような人間に限りなく近い亜人とは違う。
暗示耐性が強い子達だったから途中で暗示が解ける心配があった。
下手に暗示をかけるより素のまま生きさせたほうが用心深く育ってくれるだろうと思った。
ハーフヴァンパイアと違って回復力も魔力量も吸血鬼のそれだったしね」
「暗示耐性、ですか…」
「…お前は『本物の吸血鬼の暗示の力』を実感した事がないんだろうけど、暗示耐性の無い普通の亜人だと『寿命すら人間と同じになりきる』ほどの暗示が死ぬまで続くんだ。
私は若い頃に、その事実を思い知らされたよ。ハワードと、彼の妻の1人だったエルフの女の所業のお陰で」
「そのエルフの女とは、北部始祖様に粛正されたウーナ・アイビーでしょうか?」
「そうだよ…。あの女は今の時代の悪しきエルフ達の邪悪さの根源みたいな気質の持ち主だった…。
さっきアラスターに処分してもらったエルフはウーナの息子だよ。昔の私と関係を持ってた愛人でもあったし、最低最悪の裏切り者でもあったんだ…」
「コーネリアおばあ様…?」
暗い表情のコーネリアの瞳からは涙が一粒零れ落ちていた…。




