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この【世界】の人達がどうやって本物そっくりの影武者を用意しているのかはずっと謎だった…。
そして馬車に乗って現れたセルマは私にそっくりだった。
「久しぶり。ルビー」
と涙目になって抱きついてこられて面食らった。
(あ、親友設定だったな)
と思い出して
「お悔やみ申し上げます」
と言って抱き返した。
「早速、出発するが、忘れ物はないか?」
とアラスターおじさんに訊かれて
「多分?」
と返事をして馬車に乗り込んだ。
アラスターおじさんがすぐさま魔道具を使って結界を創り出し
「…並んでみると本当にそっくりだからな。影武者の方には認識阻害魔道具を使ってもらって顔の印象を掴みづらくなる作用を出してもらってる」
と言うと
影武者のセルマは
「うふふ」
と笑った。
(変身術を使ってるのかな?)
と思って影武者を魔眼で見ると
(変身術の魔法陣とは違う魔法陣が見える…。しかも魔力回路がオカシイ…。人間じゃない?のかな?)
という看破結果となった。
「…おじさん、この方は安全なんですか?一緒の馬車で旅をしても…」
「…凄いなお前、コイツが人間じゃないって、分かっちまうんだな?すげえハイスペ。エルフどもの最優先狩猟対象にされる訳だな?」
「いや、なんですか『最優先狩猟対象』って。そういう『生きてる事自体が罪』って言われてるかのような呼び名、好きじゃありません」
「そうか…。そうだったな…」
「おじさん、独身でしょう?無神経だからモテないんじゃないですか?」
「うっ…。それを言われると傷付くんだが、まぁ、そうなんだろうな」
「それで?この方の正体はなんなんですか?」
と私が訊くと
「ヘイゼルと言います」
と影武者さんの方から名乗ってくれた。
「元はコーネリア様に買われて、セルマさんのお父さんのショーンさんの子供役をしてたんです。
あの頃は自分を本当にショーンさんの息子だと思い込んでました。懐かしいです…」
「パパの娘役じゃなくて息子役、なのね?」
「私の正体は『知性を持たされたミミック』です。元々は東部のエルフ達が人間に成りすまして生きる中で自分の異常な寿命の長さを誤魔化すためにミミックを自分そっくりの子供に化けさせるという利用法で使われてました」
「それだとパパも自分そっくりの偽の息子を用意して、そのうち息子の戸籍を乗っ取って若いまま延々と生きようとしたって事?
幾ら亜人でもパパはそこまで長生きでもないし、そもそも亜人だって隠してなかったし、意味がないんじゃない?」
「当時はショーンさんはコーネリア様の愛人の1人で、コーネリア様はショーンさんを自分と同じ吸血鬼にして永遠に共に生きようとお考えだったのです」
「………?」
「人間を吸血鬼にする術はない。吸血鬼は吸血鬼から産まれる事で吸血鬼になるのみ。そうした事実をコーネリア様がお知りになって、それで私はお役目御免になり、お父さんからーーショーンさんから引き離されて、コーネリア様に指定された人々の影武者を演じさせられるようになりました」
「…色々ツッコミどころがあり過ぎて、何を言って良いやら…」
「そういう訳で私はセルマさんとは血の繋がりはありませんが、セルマさんのお兄さんみたいなものなんです」
「複雑な気分だわ…」
「エリザベスもショーンさんもお前にコーネリアお祖母様の話をしなかったのか?」
「パパがママの親族と何か因縁があったって話だけ聞いてたけど…」
「そうか…。まぁ、コーネリアお祖母様が産んだ子供に対して『本当にスミッソン家の血筋なのか?』を疑問視する者が多かったらしいからな。
わざわざ愛人が多数いた話を口に出してむし返す必要もないと思ったんだろう」
「曾祖母様にはそんなに何人も愛人がいたんですか?パパ以外にも?」
「ショーン・フェアバンクス、アベル・ブランドン、クリストファー・フェアバンクス、ユージーン・ブラッドフォードの4名はコーネリアお祖母様の『別れた愛人』として当時の醜聞で有名だったらしい。
コーネリアお祖母様は一度、セントクレア公爵をエンチャントにかけた罪で裁かれていて、尚且つ舅親が教唆犯だと言われていた事があるんだ。
まさにシルヴィアス子爵家最大の危機があった訳だ。
その時にコーネリアお祖母様とエルフの魔術師オズバート・ガードナーとの愛人関係が暴かれて、コーネリアお祖母様が他の愛人とやり取りしていたメモや手紙の類も全部裁判の場に持ち出されたとかで大勢の人の目に触れたんだ」
「それはなんて言うか…生き恥ですね…。パパが海外支部で働いてたのって実は左遷だったとか?」
「…その可能性も高いかもな。…アーサーお祖父様の口癖は『俺が死ぬ前にショーンとアベルは殺しておこう』だったからなぁ…」
「…パパは曾祖父様より長生きしてますよ」
「その辺は本当に不本意だったらしい…。何せ亜人は人間の魔術師より長生きだろ?自分が死んだ後でコーネリアお祖母様が亜人の愛人とよりを戻すかも知れないって最期まで疑ってた…」
「うわぁ〜…。貞操観念が壊れた妻を持つ夫は最期まで嫉妬でドロドロの心を引きずるんですね…。曾祖母様はなんて罪深い…」
「…ですが私はコーネリア様には感謝してます。こうして面倒を見てもらえて、お陰で長生きできています」
「ミミックはスライムの進化形で、スライムに毛が生えた程度の攻撃力しかないからなぁ…。まぁ、強い者の庇護下にいないとすぐ死ぬもんな。
ヘイゼルの感謝の念も妥当なものだ」
「…ミミックとかスライムって弱いだけじゃなく、喋れもせず、知能もなくて、無害で、ただ生きてるだけの魔物ってイメージだったんだけど…。進化すると知能も発達して喋れるようになるものだったんですね?」
「いや、それはない」
「ないです」
「?…なら、どうして」
「お話しして良いものか…。コーネリア様の指示を頂かないと、判断がつきません」
「なるほど。曾祖母様からは私に話して良い情報の範囲について詳しい指定を受けてないって事なのね?」
「そうです」
「俺は色々話してやっても良いと思うんだがな。『閉心術を常時使える者以外には情報を制限する』というのがコーネリアお祖母様の意向なんだ」
「閉心術…」
「街中に戻るにあたって閉心術を習い始めてた筈だぜ。習得できていないようだが」
「何故か閉心術が全然できなかったの。適性がないからできないとか、そういう事ってあるの?」
「ああ。適性がないとできない技術だが…」
「………私は自分で気付いてなかっただけで落ちこぼれだったのかな?」
「どうだろうな。向き不向きがあるだけだろうからな」
「…それにしてもシルヴィアス伯爵家とシルヴィアス男爵家は別の家だったんですね?知りませんでした…」
「エリザベスはそういう事も教えなかったのか?」
「ママはもしかしたら話してくれてたのかも知れないけど、私のほうで親戚に対して興味が無かったのかも?
何ていうか…。パパとママと私だけの生活が私の全てだったから、街には他の人達がいるっていう当たり前の事が実感できていなかった気がします。今にして思えば」
「そうか…」
アラスターが
「今なら親戚の存在に実感を持てるだろうから、シルヴィアス伯爵家がまだ子爵家だった頃に遡って話していくぞ?」
と前置きして…
スミッソン家の(シルヴィアス伯爵家およびシルヴィアス男爵家の)話をしてくれた…。




