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吸血鬼の特徴として

「影がない」

「鏡に映らない」

のは本当だ。


しかしグレイス王国は緯度が高く陽光が弱い。

北部は特に外でも影ができない日が多い。

そもそも服や帽子などの装備品には影が出来るので、肉体に影が無い事も、長袖長ズボンの格好だと、ほぼ気にならない。


それと鏡は貴重品。

大きな姿見がある家は貴族家くらい。


アッシュクロフト家は古くからある鍛治師家系の一つではあるらしいが、貴族家ではないし、吸血鬼一族に連なる家でもない。

鏡はクレアの化粧箱に付いているものくらい。

私が覗き込む事はない。


考えてみれば、私は自分の顔を一度も見た事がない…。

森の隠れ家には鏡が無かった。

その代わりのように壁には絵が色々飾られていた。


「他人に認識阻害魔道具を使ってもらって、自分の姿を鏡に投影してもらう」

事で

「それを記憶し、自分で認識阻害魔道具を使って自分の姿を鏡に投影する」

事は可能らしいが、そういう自己像はあくまでも他人が投影した画像の模倣品だ。


「セルマはママに似て美人さんだ」

とパパがしょっちゅう褒めていたし

「セルマの髪の色と瞳の色はママと同じ」

という事なので自分が

「赤毛に菫色の瞳の美幼女」

だという事は分かる。


「北部の吸血鬼は皆、赤い瞳だけど、西部の吸血鬼は始祖様を除き、菫色の瞳なのよ」

とママが教えてくれた事があった。


「北部の吸血鬼は男ばかりだという話ね。西部はそれとは逆に女ばかり。

北部だと吸血鬼が人間の女性を孕ませて産まれる子供は女だと吸血鬼にはならずに、男子が吸血鬼か人間になる。

西部だと、北部とは逆で女しか吸血鬼にならなくて、男子は全員人間になって、女子が吸血鬼か人間になるの。

それと言うのも北部と西部では始祖様が違うから…」


吸血鬼としてこの国で生きていく上での常識なのだが

北部吸血鬼の始祖はハワード・ローガン。

西部吸血鬼の始祖はコーネリア・スミッソン。


挿絵(By みてみん)


私達西部吸血鬼の始祖であるコーネリアの元々の身元は、反逆罪で獄死させられたオルビス男爵の孫。

母親に売り飛ばされて奴隷身分でスミッソン商会の交易船で働き、そのうち自分自身を買い戻したという事だが、スミッソン商会の御曹司と結婚する前は金銭的に困窮していたらしい。


コーネリアはスミッソン家へ嫁いだ後に吸血鬼として覚醒。

西部吸血鬼の始祖となった。


彼女は子供を8人産み(男子6人、女子2人)

末っ子の女児のみが吸血鬼だった。

それがエレイン・スミッソン。私の祖母だ。


そのエレインの娘が、私のママエリザベス。

エリザベスは始祖コーネリアの孫にあたる。

なので私は「始祖コーネリアの曾孫」という事になる。


コーネリアは夫のアーサー・スミッソンを亡くした後は新大陸へ移住しているので、既にグレイス王国にはいない。


エレインとエリザベスには

「始祖に(コーネリアに)ついて新大陸へ行く」

という選択肢もあったが

(そのほうが安全だったが)

その時にはエレインはミルミドネス伯爵家嫡男チャールズ・スミスと(お祖父様と)結婚していて5人の子供の母親になっていたし

(男子3人、女子2人を産んでいた)

エリザベスも既にショーン・フェアバンクスと(パパと)出会って恋に落ちていた。


エレインはコーネリアが新大陸へ去って1年もせずにヴァンパイア・ハンターに殺されている。

チャールズの正妻キャサリンがヴァンパイア・ハンターに密告したという噂がある。

(私はその頃生まれてもいなかったので祖母の事は絵姿でしか知らない)


始祖のコーネリア・スミッソンが金髪・赤眼なのに対して

吸血鬼の血を受け継いだ

娘のエレインも

孫のエリザベスも

曾孫の私セルマも

赤毛に菫色の瞳だ。

何故か色目が違う。


そうした色目の違いに関してはーー

「コーネリアの母親だったヴァイオレット・ミラこと元オルビス男爵令嬢が赤毛に菫色の瞳だった」

と言い伝えられている。


森の隠れ家には曾祖母と祖母の肖像画があったので、曾祖母と祖母が伝え聞いた通りの色目を持っていた事は分かるが…


曾祖母の母、つまりヴァイオレット・ミラの肖像画はなかったのでヴァイオレット・ミラが本当に赤毛で菫色の瞳だったのか、真偽の程は分からない。


「ヴァイオレット・ミラは未婚でコーネリアを産み、その後娼婦に身を落とし、コーネリアを奴隷として売りはらい、元婚約者の男を殺して現行犯で捕まって火炙りにされた」

という話だ。

ろくな親じゃない。


コーネリアの父親が誰なのかは定かではないが

「北部吸血鬼の誰かだろう」

という話なので…

ヴァンパイア・ハンターに殺されてなければ、その男が未だ生きている可能性は高い。


(始祖のコーネリアが父親と連絡を取り合うような人だったなら、その子孫である私ももっと楽に北部で受け入れられていただろうに…)

と、たられば話を脳内妄想しながら私は薪を保管している蔵へと向かった…。



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