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もしも合格していたら、そのまま女子寮に入寮となるが、不合格だったら、またモルガン侯爵城へ逆戻りとなる。
(もしかしたら、二度と王都に来れないかも知れないんだな…)
と思うと、不可視の使い魔を使って王都での情報収集は貴重なものに思えた。
ノークスから注意を受けた事もあり、フリンジもエンデも情報収集要員とした。
私自身の護身は魔道具で行うものとする。
「自動で障壁を張ったり迎撃してくれる魔道具はないですか?欲しいです」
と転移魔法陣で注文すると
「新大陸のお祖母様がお前にと寄越してくれたプレゼントだ。つい先刻預かった」
とアラスターおじさんが自動障壁魔道具を転送してくれた。
(超加速を使った攻撃だと発動が間に合わないが、普通の攻撃なら充分対応できるらしい)
「おじさんのお祖母様って、曾祖母様だよね?始祖様の。私の事知ってらしたんだ?」
「そりゃあ転移魔法陣で手紙のやり取りはできるからな。エリザベスに子供が産まれた事も知ってるさ。そもそもお前の真名はお祖母様が付けたんだから」
「そうだったの?」
「早めの入学祝いだそうだ」
「不合格だったら返さなきゃならないの?」
「まさか。そのまま貰っときな」
といったやり取りをして、有り難く使わせていただく事にしたのだ。
使い魔と感覚共有してる間の自分の姿を誤魔化すための幻影は
「結界の内側から左右反転させた映像を投射する」
事でもちゃんと機能するのが分かった。
なので思う存分、使い魔達をウロつかせて王都の情報を仕入れられる。
(勿論、試験結果が出るまでの期間だが)
ノークスには不可視の使い魔の事はバレてるし
「不可視の使い魔を使って王都の情報収集をしてる」
という事は隠さずにおいた。
「それで?今日はどんな所を覗かせたんだ?」
とノークスが訊いてきたので
「今日は裏通りを覗かせてました」
と答えたところ
「そうか…。それで?外国語とか喋ってるヤツらは居なかったか?」
と質問され
「外国人が居ると何か問題があるんですか?」
と疑問に思った。
「大陸の国々と違ってグレイス王国は島国だから、近隣国と隣接しておらず、一見乗っ取り侵略の危険も少ないように錯覚されがちだが、陸続きじゃないからこそ、一旦入り込んで来た移民が出て行ってくれる可能性も低くて、しぶとくしがみつかれやすいんだ」
と言われて
(なるほど)
と思った。
「まぁ、船が無いと元居た所に帰れないなら、こっちで居心地悪くても手軽に帰ってはくれませんよね」
と頷いた。
島国へ移民を送り付ける。
島国へ移民として入り込む。
そうした状況で
「移住先へ身も心も帰化しよう」
というつもりが移民側にない場合
「命を賭けて乗っ取り侵略を成功させてやろう」
という覚悟を決めた確信犯的な悪念がある。
そうじゃなくとも
「乗っ取り侵略の失敗を『差別された』とすり替えて現地人を逆恨みする」
ような倒錯した狂気が生み出されて、やはり
「現地人らに報復して我らが住む地へと変えてやる」
という侵略正当化思考へと至る。
身も心も帰化するという気もなく入り込んでくる外国人というのは本当に百害あって一利なしな存在なのである。
大陸の国々もそうだろうが、グレイス王国でも、何度となく、外国人やアイデンティティ外国人が国内で繁殖・繁栄し、国が危機に晒されてきたという歴史があるのだ。
裏通りの暗がりなどに密かに外国人が蔓延っていないか心配するのは騎士団入団希望者にとっては当然の感性なのだろう…。
「今日の探索では、外国人らしき人達は見かけませんでした。その代わりに『義賊』気どりの人達が湧いてて、正直、気分が悪くなりました」
「『義賊』気どり、か…」
「裏通りの貧民街では心が荒んでて、普通に自分の子供を殴ったり蹴ったりしてるみたいなんですが…。
そういうのに対して『子供をぶつ大人など許しておけない』みたいな正義面した連中が湧いて、貧民街の大人達を殴る蹴るして『子供らを保護する』とか言って、子供達を連れて行ってしまったんですよ。
後を尾けさせて、その連中を覗いてると、民間の孤児院っぽいのを経営してるっぽいんですが…。
結局は子供らにかっぱらいをさせたり、喧嘩の仕方を仕込んだりで、明らかに犯罪者量産施設っぽい感じでした。
警備隊に通報するには明確な犯罪の証拠が必要って聞いた事もあって、未だ通報はせずにいますが…数日のうちには通報できるだけのネタを掴むつもりです」
私がそう言うと…
「エルフが背後にいる反社会組織の連中かも知れないな…」
とノークスが顔をしかめた。
…この国の犯罪組織には後ろ盾ごとに特色がある。
そして犯罪組織にはやはり大商会や貴族が後ろ盾として付いている。
西部最大の犯罪組織はやはりスミッソン商会傘下の裏部隊がその正体だと言われている。
南部最大の犯罪組織はハモンド商会傘下の裏部隊。
東部最大の犯罪組織はジャクソン商会傘下の裏部隊。
そんな感じで犯罪組織の維持運営には莫大な金がかかるというのがこの国のアングラでの常識。
と言っても、私もノークスも、その手のアングラ事情の知識はアルバート先生仕込みなので、アルバート先生自体が間違っていたら、こうした認識も全て間違っている可能性が出てくる。
「アルバート先生の知識が間違っていない」
という前提で言うと
ノークスの言う通り
「『義賊』ネタによる子供の連れ去りと犯罪者量産施設での教育」
はエルフと親和性の高い東部のセントクレア公爵派閥の犯罪組織の特徴を踏まえている。
それは一言で言うなら
「倒錯した人道主義」
だ。
それが
「ヴァンパイア・ハンターであるエルフ達の妄執傾向」
なのである。
まぁ、必ずしもあの連中が
「親エルフ派の東部人らだ」
と断定はできないと思う。
だが基本的に人間は偽善に惑わされやすいし、周り中が騙されてる環境だと特に騙されやすくなる。
そういう点では
「倒錯した人道主義」
は東部人に起きやすい…。




