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王立学院ーー。
四年制の学院。
実質的な文官養成機関。
入学資格は12歳以上の魔力持ちの国民。
4年間通って卒業した後、王城で2年間見習いで働いて後、官吏として正式採用される。
つまりこの国は一般人向けに官吏試験などを行なっていない。
どんなに頭が良かろうとも魔力豊富だろうとも
「王立学院を卒業していないと行政に携われない」
社会システムなのである。
「長い人生、何が役に立つか分からないから官吏資格は持っていて損はない」
という程度の認識でいたが…
実はかなり狭き門であり貴重な資格なのであった。
そういう訳で王立学院は王国騎士団が武官養成機関であるのと対を為す人材育成機関だと言える。
しかし王立学院は騎士団と違い設立されてからそう年月が経っていない。
その昔は王族の傍らに侍る文官職は中央貴族と東部貴族で独占されていた。
それが諸々の不具合を生み出したという負の歴史の源だったからこそ、南部・西部・北部の者達にも行政に関わる機会が与えられるべく、50年ほど前に王立学院が創られたのである。
その頃から中央騎士団も「国属騎士団」から「王国騎士団」へと名称が変更された。
併せて、東部騎士団・南部騎士団・西部騎士団・北部騎士団の四大騎士団も「領属騎士団」から「守護騎士団」へと名称変更がなされた。
騎士団の入団は今のところ男性のみ。
女性騎士という存在は今のところない。
女性王族が護衛騎士と一線を越える事態が相次いだことで
「女性王族の護衛は女性にさせるべきだ」
という意見もあるらしいが…
今はまだ
「女官に武術を齧らせて女性王族を護衛させれば良い」
という意見が主流。
なので王立学院のような文官養成機関でも武術が習える。
王立学院の受験者の男女比率は圧倒的に男子が多い。
性別関係なく受験結果だけで選ぶと合格者は男子ばかりになるらしい。
ただその辺は
「王城が女官の増員を望んでいる」
という需要の影響もあって
「一定数は女子を合格させる事になっている」
のだそうだ。
つまり女子の受験者の方が男子より有利なのである。
そういう事もあり過去には
「男子が女子のフリをして受験した」
ような珍事も起きていたそうだ。
(そこまでして受かりたいのか…)
しかし王立学院の受験で私が有利なのは何も
「女子だから」
という点だけではない。
官吏には医務官も含まれる。
「魔力が治癒適性だと医務官コースでの入学が優遇される」
のがこの学院の良いところだ。
北部貴族家でもファレル家やマクファーレン家は治癒適性の魔力の持ち主が出やすいらしく、在籍している生徒の中にもノークスの親戚らがいるので
「寮へ出向いて、お前のことを頼んでやろう」
と言ってくれた。
ヘザー・ファレル
オルニー・ファレル
の2人。
同じ学年の親戚同士。
「同じ学年で複数人治癒適性者がいる年じゃないと学院へ入学はさせられないんだ。とにかく独りでいる奴にはイジメが降りかかって、時にはそれが命に関わるようなものに発展するらしいからな」
という話を聞いて気が滅入った…。
「…私は独りでの受験ですよね?」
「…ファレル家からはそうだが、モルガン家の方の文官希望者が2人受験するって話だ。優秀だから審査官が意図的排除をしない限りは合格間違いなしらしい」
「審査官が意図的排除をする事とかあるんですか?」
「警戒しておかないと、そういう事もあるみたいだな。そうした意図的排除が為されれば普通に報復して不合格を取り消させるから、これまで大事にはなってないが…事あるごとに北部の者を排除したがる連中もいるという事だ」
「人間に化けてるエルフがやらせてるとかじゃないんですか?」
「エルフが糸を引いている証拠は出ていないそうだが、人間が北部人を差別したがる傾向自体は長年にわたってエルフが垂れ流した虚偽情報が関係しているのは間違いないだろうな」
「アイツらから変身術を取り上げて不細工な素顔を晒して回ってやりたい…」
「それは俺も思う…」
エルフが美形亜人の代名詞のように錯覚される社会の現状はエルフが根本的に泥棒で頭のオカシイ詐欺師揃いだからだ。
人間達はエルフの表面的な美しさに騙されるが…
そうした美しさは変身術の賜物だったり
ピグマリオン効果の賜物だったりする。
連中は変身術を維持するために吸血鬼の血を必要とし続ける鬼畜なのだ。
(消えてなくなって欲しい…)
「アイツらの事を考えると気分が悪くなってきました」
「…もしかしたら、の話だが。エルフが人間に変身して学院に潜り込んでる可能性もあるんで、それは、本当に気をつけろよな」
「…魔眼で見て、貴種以外の者が変身術を使ってる痕跡が見えた場合、どうすれば良いんでしょう?」
「ヘザー達にも俺達にも情報共有して欲しい。くれぐれも勝手に動くな」
「分かりました…」
私は具体的な危機を今頃になってまざまざと感じたのであった…。
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その後はノークスの親戚らを紹介されて
「おお!ノークス様の婚約者!へぇ〜」
と感心されて
「「よろしく」」
と挨拶された。
貴種じゃなくて魔力持ちの人間なのでこの人達の金髪は地毛。
北部の貴族家使用人によく見られる色目と容姿だ。
ヘザーからは受験の際の注意点や入寮の手続きを教えてもらえた。
ありがたい。
(やっぱり親戚とか身内って良いよな…)
と思った。
因みにアラスターおじさんの話ではスミッソン家からもスミス家からも王立学院の在籍者はいるとの事だが
「セルマ・スミスだとバレると危険だろうからお前の入学に関しては教えてないし、教えない。だから挨拶もないし、むしろ北部貴族の婚約者と見られて敵視されるかも知れない」
と言われている。
一応確認のために
「敵視する相手に対して命を脅かすようなイジメを仕掛ける人間性とかじゃないでしょうね?」
と尋ねたが…
「多分?」
という返事が返ってきて、かなり不安だ…。
更には
(どこにエルフが潜んでいるか分からないんだよな…)
という不安もある。
色々気を揉んでいるうちに入学試験当日になり
若干緊張して試験を受けた…。
医務官コース希望者は通常の試験が終わった後で
「ポーション作りの試験」
を受けて、それで治癒適性の有無を判定される。
私は自分で鑑定術を使って品質確認できる。
侯爵城のアンディーが鑑定魔道具を使っている時に魔道具稼働時の魔法陣を看破し、コッソリ試したら使えたので、それ以来使っている。
試験で作ったポーションも
「ちゃんとポーションになっている」
のを自分で確認できた。
(それこそ意図的排除が行われない限り、普通に合格できる筈…)
とりあえず「済ませ事」が済んだ感覚で急にホッとした…。




