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挿絵(By みてみん)


「王都は人通りのある区画でも物騒だからな。絶対、1人になるなよ?」

とノークスが口を酸っぱくして言うのは、心配してくれているからなのだろうが…

ノークスが心配しているのが私自身なのか自分自身の評判なのか分からない。


モルガン侯爵城の騎士が森へ行く際の護衛について来てくれていた時にしていた心配は間違いなく

「自分が護衛の時に怪我なんかするなよ」

(俺の評価に傷がつく)

という心配だった。


(ファレル家の人達はモルガン家の人達とは違うと思いたいけど、吸血鬼一族の印象がもはやあの城の人達の印象にすり替わってるんだよな…)


「…透明化ができるから、独りで街を彷徨いても大丈夫だと思いますよ?」


「透明化?…随分と魔力を食う術じゃないか。余程魔力が多くないと目的地まで透明化を保たせられないんじゃないか?」


「私は魔術師だから魔力量は多いんです。それに透明化はモルガン侯爵城でしょっちゅう使ってましたから慣れてます。

それこそ一日中透明化していても魔力切れにはなりません。

学院生活も授業中以外の時間は透明化して過ごそうかと思ってるくらいです。どうせ友達もできないだろうし」


「透明化は認識阻害の一種だろ?認識阻害看破魔道具を使ってるヤツには効かないんじゃないのか?」


「…ノークス様。認識阻害看破魔道具を使ってる人がそんな魔道具の存在すら知らない人達といちいち自分の見え方に対して事細かに情報交換してると思いますか?」


「…思わないな」


「基本的に認識阻害看破魔道具は『騙されないため』に使うものであって、ある意味で防御的な魔道具です。

そういうのを使ってる人が積極的に他人に絡むとは思えません。

『他の人には見えてないのに自分にだけ見えてる』ような相手がいても、それが犯罪をしてるとかじゃないなら特に注目もしない筈ですよ」


「…う〜ん。…そう言われればそうなのかも知れないが、とにかく北部貴族は北部以外の地では気を抜くべきじゃない。

何かあってからでは遅いんだ。お前は特に俺達と比べても回復力が劣ってるだろうが」


「その点はアルバート先生から以前習っていた自己回復力強化を自分なりに練習して習熟したので随分マシになってる筈です」


「だがな『独りでいる』というだけで付け狙われる確率が上がるんだ。俺はお前が心配だ。

お前はモルガン侯爵城で居心地の悪い思いをし続けたから『独りが良い』と思うようになっているんだろうが、それでもあの城にはお前を殺そうとする者はいなかった筈だ。

その点が、あの城以外の場所では違う。基本的にこの世の中は人の命の価値が軽い。特に貴種の命は特定の連中にとってこの上なく軽い。

お前はそれを理解できていない。一応、お前は『人間のルビー・ヒル』という事になっているからヴァンパイア・ハンターに血を狙われる可能性は低いが、お前を人質にして俺を狙う奴らも出てくるかも知れない。

ファレル家の一員として受け入れられ庇護される、という事は『自分の身の危険が自分の身一つじゃ済まなくなる』という事でもあるんだ。

孤独に慣れている人間は頭が良い筈なのに、そういった影響力を何故か勘定に入れた考え方ができないので心配なんだ」


「…そう、言われてみれば、そうかも知れません」

(あの城の人達はクズだったと断言できるが私を殺そうとはしなかった。それは確かだ)


「何処で危険人物から目を付けられるか分からないんだ。情報収集は魔術師特有の不可視の使い魔を使って行えば良いだろ?

生身で独り彷徨いて情報収集しようだなどとは間違っても思うなよ?」


「…『不可視の使い魔』の事、知ってたんですか?」


「お前、俺の事ナメてるのか?俺が『ルビー・ヒルの婚約者』役に割り振られたのは、俺が魔眼持ちで、『魔力探知』にも長けてるからという事もあるんだぞ?

自分自身も婚約者をも生き延びさせてやれる可能性が高いだろうから、という事で俺を選んだのだとイアン様は仰っていたし、多分、本当にそうなんだろう。

お前の周りには魔力の塊が複数付き纏っているし、そのうちの一つはお前自身の魔力だ。どうにかして自力で不可視の使い魔を創り出したんだろ?

護衛用にと自分自身に不可視の使い魔を付けている魔術師はお前以外にもいるから不思議ではないが…

不可視の使い魔は魔術師にしか創造できないんだ。そうすると魔力探知能力の高い相手には魔術師だという事がバレバレになる」


「そうなんですか?」


「アルバート先生は敢えて自分自身に不可視の使い魔を付けてない。世の中には魔眼持ちは少なくても、魔力探知能力に長けた人間は少なくないからな。

不可視の使い魔を自分自身に付けておく事で『コイツは魔術師だ』と相手にバレてしまう。

だから先生は自己防御を不可視の使い魔にではなく魔道具に頼るのさ」


「魔力探知で不可視の使い魔の主人が誰か分かってしまうんですか?そんな事まで分かるの?」


「ああ。勿論、会った事もない相手の魔力は誰のものか分からない。お前がモルガン侯爵城を出る時にお前の侍従が見送りに来なかったのも、ソイツが俺に会うのを避けたからだと俺は思ってる。

つまりソイツはお前に使い魔を張り付けて監視してるヤツらの一人だろうなと予想がつく」


「魔力探知って私にもできるでしょうか?」


「適性があってある程度以上魔力量があって魔力の質も高くて、ちゃんと訓練すれば出来るようになるものだな」


「要するに、魔力探知能力が身に付けば『ストーカーが知人の魔術師だった(!)』場合には、それと判るって事ですよね?私には絶対必要な能力だと思うんですが?」


「う〜ん。…だからアルバート先生は敢えてお前には教えてなかったんじゃないのか?」


「………」

(それって、やっぱり…)


「お前に張り付いてる使い魔らしき魔力の塊の一つはアルバート先生の魔力でできているんだ」


「ストーカー、ですかね?」


「どうかな?死なないように、いざという時の護衛に、という事なのかも知れないし、単に死んだら報せろって事かも知れないし、意図までは分からないな」


「訊いたら教えてくれるんでしょうか?」


「無理だろ。そもそも『監視の魔法陣』と組み合わせて使えば、使い魔が見聞きした情報を第三者の元へ転送できるんだ。

監視してるのが本家の命令なら、それこそ情報はイアン様の元へ転送されてる可能性が高い。アルバート先生が何か吐くとは思えないな」


「ですよね…。でも、それは余り考えたくない推測ですね。イアンおじ様がアルバート先生の使い魔を通して私を監視してたのだとしたら、私がずっとあの侯爵城で皆に疎まれて嫌がらせされてた現実を知ってたという事になります。

知ってて何一つ改善するために動いてくれなかったんだとしたら…と思うと、イアンおじ様の事を今後は『善い人』だとは思えなくなります」


「『善い人』というものがこの世にいるのかどうかが俺には疑問だよ。…イアン様はいつも飄々としていて人当たりが良さそうだが、か弱い子供を平気で窮地へ追い込んで死ぬような目に遭わせてしまえるような、そういう鬼畜な面も持ってる。

ジャンの時だってそうだ。カウリーやライアン達がやったのは、せいぜいが落とし穴を掘ったり、ジャンの護衛用のお守りを偽物にすり替えたりといった程度のイタズラだ。


一方でイアン様もモルガン家の連中もヴァンパイア・ハンターが森に入り込んで来ていた情報を掴んでいたし、ファレル家の次期当主が誰かしら殺される事態も予測していた。

それなのにジャンを狩りに参加させて、ジャンが天敵の目に止まるように仕向けた。結果的にジャンは死んでないし、死なせる気は無かったんだろうけどさ。


ジャンに降りかかる危機を敢えて見過ごして『貴種貴族家の次期当主を死ぬような目に遭わせる』という洗礼を施したんだ。

それが当主交代し続けるファレル家の伝統だとしても、アレは酷い…。ジャンの事なんて全然好きじゃない俺達でもドン引きしたよ」


「『優秀なエルフの子供を殺しておく大義名分』というのが欲しかった、って事でしたね。フィリス・モルガン騎士爵の言い分によると」


「そんな大義名分が本当にジャンをあんな目に遭わせてまで必要なものだったのかどうかは謎だよ」


「余計恨まれて、余計に将来的脅威が増したのでは?」


「そう思うよな?…その辺の感覚がモルガン家の人達もイアン様も、俺達とは違ってるんだ。何ていうか、恨みの力とか情念の力みたいなものを甘く見過ぎているように思える…」


「…やっぱりイアンおじ様は『善い人』じゃないのでしょうか?」


「残念ながらな…」

そう返事をしたノークスの表情は本当に残念そうなものだった…。



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