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北部騎士団は働き者という事なのか、北部の街道を進む間は魔物も盗賊も出なかった。
それが領境を過ぎた途端に魔物も盗賊も出没し出した。
(手が回らないとかなのか?)
と中央の王国騎士団の仕事ぶりに不信を抱いてしまう…。
先生に言わせると
「盗賊から見て、北部は油断すると凍死する地域だし、森には不可視の眷属が居て潜伏には使えないし、拠点を構えるのにもむいておらずリスクの割りに旨味も少ない土地柄なんですよ」
との事。
「しかも組織的に動いて捕まらずにいるような盗賊団は、ほぼ何処かしらの権力者の裏部隊のようなものです。
下手に北部で動くと『致命的な場面で仲間を裏切れ』と刷り込まれたメンバーが密かに増やされる事になる。
魔道具では未だに暗示を埋め込まれた人間を識別する事が出来ず、精度の高い魔眼持ちでも暗示の内容までは見えないので、致命的な暗示を警戒するなら北部への手出しには慎重になるものなのでしょう。
海賊の場合も同様ですね。食い詰めた貧民が決起し、豊かな者達から富を奪おうとしても、先ずは船が無ければ商船を襲撃する事もかなわない。
つまりは犯罪者集団はパトロンがいてこそ成り立っている組織なのだと見做すのが正解です」
「何故、そういう犯罪者集団を子飼いにする権力者が湧くんでしょうか?」
「それは当然『他の派閥もやってるから』じゃないですか?『新大陸』と名付けた大陸へとどんどん移民を送り出して、現地を乗っ取り侵略するような悪行も同様でしょう」
「『他の派閥もやってるから』と悪事を正当化しようとしても何の正当性もないと思うんですが…」
「そこは『最低最悪の外道が天下を取るよりは自分達が天下を取った方がマシだ』という『必要悪』が物を言う価値観だと思いますよ。
つまりは競争によって悪党らに大義名分の必要性を理解させ、必要最低限のノブレスオブリージュを実行させるには、先ずは『競争がある』事が必要になる訳ですよ」
「競争が必ずしもフェアに行われるとは限らないのでは?」
「そうですね。ルビーさんもよくご存知のスミッソン商会も手広く出来レースを行っていますね」
「やっぱり悪徳商会なんですね?スミッソン商会って…」
「スミッソン商会のーースミッソン家の美点は派閥傘下の者達を増やす事で恩恵の範囲も広げていく組織的成長性にあるんじゃないかと思います」
「組織的成長性、ですか…」
「何処の派閥も大抵、隠れ魔術師を複数隠し玉に擁しています。しかし大抵の派閥が手のかからない年齢になってから魔術師を派閥へ引き込みます。
その点、スミッソン家の場合は赤子の時点から魔術師を引き取って貴族家の養子として育てるので、費用はかかりますが魔術師のアイデンティティが派閥と同化できるんです。
魔術師を生み出した家に対しても『また魔術師が生まれるかも知れない』と期待して経済的に支援する。
だから人材雇用・人材育成の初期費用が他の派閥と比べてバカ高いんですが、そのお陰もあって裏切り者が出にくい。組織としてはお手本みたいな面もありますよ」
「…スミッソン商会は魔眼持ちに行商隊を任せて地方周りさせる事が多いらしいんですが、それも『魔力のある平民を見つけて役立てる』目的みたいですね」
「奴隷を取り扱う商売ではスミッソン商会に限らず魔眼持ちを採用すると言われています。奴隷契約がしっかり機能しているのかを確認できないと、犯罪奴隷なんていつ歯向かって来るか分からないからなのでしょう」
(という事はアラスターおじさんは私と同じように魔眼持ち?)
「…奴隷商人って誰にでも務まるものじゃないんですね?」
「魔術師の不可視の使い魔と魔眼持ちが必要になるようです」
「奴隷の取り扱いは昔は非合法だったんですよね?」
「ええ。今現在は合法ですが、それこそスミッソン商会がゴリ押しして合法化してます。奴隷商ギルドのギルマスもデクスター・スミッソン氏ですし」
「犯罪者が奴隷になるのは良いと思いますけど、冤罪だったり、お金が無くて無銭飲食したりで奴隷にされるのは過剰懲罰なのでは?」
「犯罪履歴を知る魔道具は無くても、当人が嘘を言ってるかどうか確かめる嘘発見機の魔道具があって、それなりに普及しています」
「それだと自己暗示で『悪い事など何もしてない』と思い込んでいる犯罪者が有利になるのでは?」
「だからこそ精度の高い魔眼が必要になる訳です。記憶に干渉するような根深い暗示ともなると必ず何処かに術の痕跡が残る筈ですからね」
「なるほど。それじゃ冤罪とか軽犯罪で鉱山送りにされる可能性は少ない訳ですね?」
「ええ。ですが『少ない』だけであって、稀に術の痕跡が見過ごされて重罪人に軽い罰が、無実の者に重い罰が振りかけられている事もあるのかも知れません」
「そうなんですね…」
(デクスター大伯父様もアラスターおじさんも、何故奴隷なんて取り扱い出したのかな…。どう考えても鬼畜の所業だろうに…)
それこそーー
「必要悪」なのかも知れないな、と少し思った…。
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王都グローリアはグレイス王国が縦長の島国であるのを模しているかのように縦長の都だ。
王国騎士団はその王都の北側に本拠地を構えている。
オグデンの森のすぐそば。
「オグデンの森の魔物が強過ぎて駆除しきれない」
「オグデンの森の魔物が森から出てきて人里を襲った時に直ぐに対処できるように」
という意図があるらしい。
騎士団寮は入団が決まってからの使用になるため、それまでの間、ノークスは王都にあるファレル伯爵家の屋敷でお世話になるとの事。
勿論、私も。
王国騎士団の入団審査は、聞けば、まだ2週間も先なのだそうだ。
それこそ王立学院の試験が明後日行われた後、10日後に試験結果が出るという事なので、ノークスの入団審査はそれよりも後。
(ノークスは随分と早めに王都に来たんだな…)
と思った。
北部は何のかんのと田舎だ。
西部のグルゴレットヒル城下町の様子は朧げにしか覚えていないのに、モルガン侯爵領の城下町より遥かに街並みの風景が都会だった事は覚えている。
王都は更に都会だ。
(本当はずっと都会に憧れてたのかなぁ…)
と、ついついノークスの内心を推し量ってしまう。
人には
「知らないから嫌う」
「知らないから憧れる」
という心理がある。
だが今の私には
「知らないものに対して感情が湧く」
という心理作用自体が異常事態に思える。
「本来なら知らないものに対して感情など持ちようがない」
筈なのだから。
なのに大勢の人達が
「本来なら感情など持ちようがない対象へ感情を持つ」
という異常事態に、何の違和感も感じずにいる…。
(考えてみればモルガン侯爵城の人達が皆で私を嫌ってたのも刷り込みの一種だったんだろうな…)
と思う。
洗脳されてでもいるかのような不条理行動を集団で行う人達というのは
「共通認識を構築する過程で精神に干渉されている」
のだろう。
「暗示術の痕跡はチャクラ近辺に残るのに、長期に渡って徐々に行われた洗脳術の痕跡を見つけるのは難しい」
と言われているが…
(だからこそ、洗脳術は暗示術よりも怖いんだろうね…)
と思った…。
先生もノークスもモルガン侯爵城の人達と比べて親切だ。
だけど、それは
「あの城に蔓延っていた洗脳の空気に長時間自分の意識が浸される状態を体験していないから」
という事なのかも知れないのだ。
あの城に毎年騎士が新団員として入ってきて最初のうちは親切で公平だったのが、徐々に態度が悪くなり、いつの間にか他の人達のように悪意的になる。
そんな事が繰り返されたので…
私は人間に対してであれ貴種に対してであれ
「洗脳耐性」
のようなものを期待できないと知っている…。
他人に
「揺るぎない公平さ」
を期待しても無駄なのだと、私は知っているのだ…。




