43
12歳になって
「来月、王立学院を受験するために王都へ向かう」
という予定が立った。
自分でも思うが、この4年間で起きた見た目の変化は
「背が伸びた事だけ」
だ。
胸はまだない。髪を伸ばすとかすれば良かったと思うが、自分自身の見た目を気にしてお洒落するような精神的余裕がなかった。
少し前に初潮が来て生理が始まったので、今後は毎月不快な思いをする事になるのが、顕著な変化と言えば変化か…。
初潮が起きたら微妙に身体の匂いが変わったらしくて、何故か城中の人達が私に生理がきたのを察していて
「色気づきやがって」
「いやらしい…」
などと口汚なく悪口を言っていた。
(死ねば良いのに…)
アンディーに言わせると
「果物みたいな良い匂いがするようになってて、側に居ると心地良いです」
との事。
吸血鬼皆がそんな体質変化を体験するものなのか…相談する相手もいないので分からない。
アラスターに相談したかったが、幾ら親切な親戚でも異性に相談するのはハードルが高い…。
普通の社会では少女が初潮を迎えるとお祝いするものらしいが、当然、私の場合はお祝いなど無かった。変化は「部屋を変えられた」事か。
それこそ人が来ないような物置小屋に移された。
「どうせ男を咥え込むようになるんだろうから」
などと言われて。
それを期にーー
夜中に部屋に入って来ようとしてくるような輩が湧いたので、皆でグルになってるのだと思った。
対策として、ドアを障壁で守った。お陰で直ぐに寝不足になった。
「このままじゃそのうち部屋に侵入されてしまう」
と心配になり
「障壁は魔道具に頼ろう」
と直ぐに結論が出た。
「余計な出費をさせられるんだな…」
と精神的疲労を感じながらも転移魔法陣を使って注文した。
魔石で稼働するタイプの障壁魔道具と、大量の魔石を。
その時に珍しくアラスターが
「何かあったのか?」
と手紙を寄越してきたので、事実をありのままに書いて転移魔法陣で転送した。
(アタスターおじさんは毎年誕生日に魔道具をプレゼントでくれたが、一緒に送ってくれる手紙に書かれていたのは、いつも魔道具の使い方ばかりだった)
「もしかして少しは心配してくれてるのかな?」
と思っていると…
その後直ぐにアラスターが
「過酷な環境で頑張っているお前にプレゼントだ」
とメモを添えて
「ピアス型の認識阻害看破魔道具」
を贈ってくれた。
「王都では認識阻害看破魔道具はそれなりに普及している。お前は認識阻害魔道具で髪色と瞳の色を変えて見せるのではなく、変身術を習得して髪色と瞳の色を変えるべきだ」
という注意文もつけてくれていた。
変身術…。適性のある貴種なら全くの別人に変身できるし、人間以外の生き物にもなれるのに、私はそれこそ髪色と瞳の色を変える程度の変身しか出来ない。
私は「髪色と瞳の色を変えるだけ」なら習得しているのだ。既に。
「問題は術を解いて元に戻る」時の呪文がなかなか正しく発音できずに、かなり手間取る。
王都で変身しっぱなしで何年も過ごす事になれば、そのうち元に戻れなくなるのかも知れない、などと不安を感じている…。
そうした事情をそのまま書いた手紙を転送したら
「…変身術を上手く使えるヤツに正式に習うのが一番なんじゃないのか?盗み見して、術を盗んで独学で習得するのには、やっぱり限界があると思うぞ」
と正論を述べた返事をくれた。
慰めるように
「林檎酒だ。蜂蜜も付けておく。エリザベスが好きだったものだ。お前も好きなんじゃないか?とにかく頑張れ」
と林檎酒と蜂蜜を追加でプレゼントしてくれた。
しかし、変身術の悩みは
「受験に受かって王都で暮らす事になったなら」
という前提の悩みだ。
受験で落ちたら元も子もない。
何もかもが
「先ずは受験に受かってから」
だと思う。
今は夜中に部屋に侵入されないように気をつけながら勉強に励むに限る。
受験のために王都へ向かう旅にはファレル家の家庭教師だったアルバート・ファレルが同行する事になっている。
(アルバート先生、会うのは久しぶりだなぁ)
と思う。
ふとイアンの事も連想した。
イアンは私がモルガン家へ行く際に
「今後も度々会えるさ」
と調子の良いことを言ってくれていたが、イアンが4年間の間にモルガン侯爵家を訪れたのは4回。
しかも訪問してきたイアンの側にはいつもモルガン侯爵がいて、こちらに対して睨みを効かせていたので
「この城での待遇を告発する」
ような勇気も起きないまま毎度毎度引き下がったのだった…。
こんな城、脱出できれば清々する。
それにしても、私の生活費…。イアンが支払ってくれてたのなら、そのお金は何処に消えていたのか…謎だ。
ともかく自分で自分が4年前とは違い、手数も増えていて、生き延びる力を身に付けている自信はある。
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アルバート先生…。
久しぶりに会うけど全く変わっていない。
(人間の筈なのに歳をとっていない?のか?)
と思うくらいに4年前と同じだ。
すぐに
(魔術師だから、魔力のない只人よりも寿命も長く老いるのも遅いのだろう)
と納得した。
この【世界】の人達の平均寿命は40〜50歳くらい。
だいたい40歳くらいで急速に老いてヨボヨボになり、50歳までには老衰死する。
知識としては只人の寿命の短さを知っていたが、アッシュクロフト家で暮らしていた頃に、あの町の人達を実際に目にして驚かされた。
額が広くて生え際が後退する男性とかは20代前半でそうなっていた。
只人の見た目の良さのピークは10代後半。
それ以降はどんどん醜く老化していく。
只人は魔力持ちや魔術師とは違う。
前世の【地球世界】の感覚で50歳くらいか?と思うような人達が、こっちの【世界】の只人の30代半ば。
こっちの【世界】の只人は20代後半くらいで結構シワやシミが出てて、老けている。
城内の使用人達も魔力の質が低くて魔力の量も少ない者達は4年の間で随分と老けた。
(やっぱり魔術師は人間の魔力持ちとの間に格差があるんだな)
と思った。
「…お久しぶりです。会いたかったです」
と心からそう思う心情を言葉にした。
「大変光栄です。私もセルマさんに早くお目にかかりたかったです」
と言ってくれた先生が以前通りに親切なのは嬉しいのだが
「…実は王都に向かうのは私とセルマさんだけではなくて、ファレル男爵家のノークス様も王国騎士団入団のために一緒に向かう事になりました」
という事情の方は嬉しくない…。
先生が乗った馬車に並走してきた私兵団の騎兵が見覚えのある顔だったので
(まさか…。白髪赤眼じゃないし、金髪茶眼だし…)
と嫌な予感はしていたのだ。
「久しぶり。という程には互いの事は知らないが、王都までの道中宜しく頼む」
と挨拶してきた少年の顔は紛れもなく、ジャンを敵視していた連中の一人であるノークス・ファレルだった…。




