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挿絵(By みてみん)


急に女中頭がやって来て

「着替えな」

と言って服を差し出してきた。


この屋敷の侍女服だ…。


「………?」

(…私の分のお仕着せはないって言ってたくせに…)


私が女中頭の意地悪そうな顔をポカンと眺めていると

「さっさと着替えるんだよ!何をボケっとしてるんだい!全くグズだね!いい加減におしよ!アンディー!この娘の服を着替えさせな!」

と女中頭が怒鳴った。


アンディーも私と同じ事を思ったらしく

「…んん?セルマ様の分のお仕着せは無いんじゃなかったんですか?」

と疑問を口にしてくれたが


「衣装部屋の箱を探したら有ったんだよ!別に隠してた訳じゃないからね!」

と女中頭に言われて納得するしかなかった。


(最低なババアだな…。私が着る筈だったお仕着せを隠してたんだ…)

と腹立たしく思いながら、仕方なく着替える事にした。


しかしアンディーの顔が少し赤くなってる。


思わず

(…私、幼女なのに、変に異性として意識されたりしたくない…)

と思ってしまい


「あの、自分で着替えられますから、2人とも出て行ってください」

と要求して着替える事にした。


(それにしても急に何なんだろうな…)

と腑に落ちない。


着替えてから、部屋を追い出した女中頭とアンディーを呼ぶと

「来客が有った。アンタをお客様がお呼びだそうだから、顔を見せに行ってやんな」

と女中頭に命令された。


(来客ねぇ…)

「お客様がどなたなのかはお聞きしているの?」

と私が尋ねると


「はぁぁぁ???お前なんかにいちいち教えてやる訳がないだろう?グダグダ言わずにサッサと行きな!」

と怒られた。


(私、伯爵令嬢なんだけど…)

ハァァーッと溜息を吐きながら、アンディーに応接室まで案内してもらった。


******************


イアンが来てくれたのかと思いきや、来たのはイアンと同じファレル家の貴種。ジョアン・ファレルだった。


「やあ、お前がセルマだね?…もっと早くに顔を見に来たかったんだが、思うように都合が付かなくて、挨拶が遅くなって済まなかったね」

と言ってくれるのは有り難いが…


私はこの人がホモで、おホモだちと仲良くするのに忙しかっただけだと知っているので、内心は複雑な気分である…。


「お気遣い頂き有難う御座います」

と作り笑顔を向けながら

(どう言えば、この城での待遇が改善されるんだろうか…)

と頭脳活動をフル稼働させた。


この城での待遇はモルガン侯爵の意向によるものかも知れないけど、そうしたモルガン侯爵側の底意地の悪さを私が少しでも疑ってる素振りを見せれば、改善されるどころか

「充分な待遇で世話をされてるくせに、虐待を受けているかのように虚偽申告し、モルガン侯爵の名誉を毀損しようとした」

という濡れ衣が着せられかねない気がする。


(う〜ん…。どう言えば良いのやら…)

と思っているうちに


モルガン侯爵がやって来て

「久しぶりだな。ジョアン」

と和かに談笑し出してしまった。


私に対しては

(いつまで此処にいる気だ?)

と言わんばかりの邪魔者扱いの視線が向けられたので


(…やっぱりそうか…。やっぱり私の待遇はモルガン侯爵が指示しているか、或いは使用人達が勝手にやっているにしても、全部知ってて容認する事で使用人達を調子付かせてるんだ!)

と確信してしまった。


私への悪意を察知して

「…失礼します」

と退室しようとすると


「待て」

と侯爵が引き留めた。


「…実はイアンから手紙を受け取ったんだ。それによるとイアンは…お前を王立学院へ行かせたがっている」

と言われて、面食らった。


(そういうの、この人なら私に知らせずに勝手に断るなり受けるなりしそうなものだけど…)

と侯爵の真意を測りかねたのだ。


「王立学院の入学資格は12歳以上の魔力ある国民という事になっているので、まだ先の事になるが、受験するには相応の学習が必要だろうからお前に教材を贈りたいそうだ。お前はどうしたい?」


当然

「王立学院へ行きたいです」

と答えた。


12歳からの入学ならあと4年ある。

頑張って強くなって、こんな城での引きこもり生活からおさらばしたい。


「そうか…。教材は後でキャメロンに持たせる」

侯爵は残念そうな表情だが、私が彼の気分を気にしてやる理由はない。

(キャメロンは執事)


今度こそ

「失礼します」

と言って応接室を後にした。


******************


「執事は本当に教材を持ってきてくれるのかな?」

と疑わしく思っていた。


何せ女中頭が服を配給してくれなかったせいで服は自分で用意した。

「王立学院受験用教材も転移魔法陣で注文して自前で用意しなきゃならないのかな?」

と少し不安だったのだが…


どういう風の吹き回しか…

キャメロンという名の執事はちゃんと教材を持ってきた。


(実は善い人なのか?嫌がらせは下級使用人だけのものなのか?)

と少し見直そうかと思ったが…


教材のページの間に

「セルマへ」

と私宛ての手紙が挟んであった。


「………」

(手紙が私に届かないと不都合が生じると思って、嫌々教材を渡したんだな…)

と判り、キャメロンが善人かも知れないという可能性を捨てた。


イアンからの手紙には

〈重要な知らせだ。この度、お前にはセルマ・スミスとは別の戸籍を用意した。

お前がセルマ・スミスとして赤毛と菫色の瞳でいる限り何処に逃げても、何処に隠れていてもヴァンパイア・ハンターは嗅ぎつけてくるだろう。

なのでお前にはお前と同じ歳の少女の戸籍を用意したのだ。


この国の戸籍は教会へ出生届が出され、婚姻届が出され、死亡届が出される、という単純なもので、規則も緩い。

遺族が『届けを出し忘れた』或いは司祭が『記入するのを忘れた』ような事も度々あるので、実際には死んでいる人間が戸籍上は存在している事も少なくない。


貴族や豪商がお忍びで平民に成りすます時も、そういった事例の該当者の戸籍を遺族から買って成りすます事が多い。お前用の戸籍もそうした方法で入手できたものだ。

なのでお前が王立学院の受験のために王都へ向かう日から、お前は、アッシュクロフト家のあった街フリンの肉屋、ヒル家の四女ルビーとなる。


ルビーは先日、流行り病で亡くなったが、ヒル家の両親へ『ルビーの戸籍が欲しい』と交渉したので、ルビーは回復してモルガン侯爵家へ奉公へ出たという筋書きになっている。

尚、この手紙は『成りすまし』の証拠にもなり得るので、処分するなり、誰にも盗まれないよう保管するなりして欲しい。


手紙を保管したいのなら、盗難防止用の魔法陣の図形を描いておくから、肌身離さず身に付ける袋に特製のインクでこの魔法陣を描いて欲しい。

魔道具作りに欠かせない特製のインクーー場を独立させる作用のあるインクーーは本と一緒に持たせているが、ちゃんと本と一緒に届けられているだろうか?


受け取ったのなら返事の手紙をおくれ。それが領収印代わりになるので、こちらも安心できる。

お前の身を案じているイアンおじ様より〉

とあった。


キャメロンが持ってきた教材の中には特殊なインクもあったし、内部空間拡張収納袋に盗難予防の魔法陣を描く事もできた。

手紙も書いた。


私が手紙に

「受け取りました」

と書いて、それがイアンに届かない限り

「何故セルマ宛てに預けたものが届いてないんだ」

とキャメロンの着服が疑われる事になる。


だから渋々教材もインクも私に渡したのだろう。

私は用心のために受け取ったものの目録を手紙に書いた。

イアンが手紙で言及していない品でくすねられている物がある可能性もあるからだ。


そもそもイアンからの手紙は封が開けられていた。

それでいて未開封のように偽装されていた。

私が書いた手紙も絶対検閲するに決まってる。


目録と、素晴らしい贈り物を受け取った感謝の言葉を同じ紙に書いておけば目録だけ抜き取って捨てるような事もされないだろうと思うが、筆跡を模倣されて偽の手紙が書かれる可能性もあるとも思う。


(まぁ、そこまで悪質じゃないと思いたいよな…)

と無理矢理自分を安心させて、勉学に勤しむ事にしたのだった…。


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