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挿絵(By みてみん)


帰郷騎士達を歓迎するお祝いで城内全体の浮かれた状態が続いたが…

そうした熱も冷めた頃にいよいよ

「明日から魔草の収穫とポーション作成を行いましょう」

とアンディーに申し渡された。


「了解しました」

と頷きながらも


(アンディーはこの城で衣食住を供給されてお給金ももらってるから良いんだろうけど…私は寝床しか提供されてないんだよね…)

と微妙に不満を感じた。


(城内のネズミを勝手に捕獲してるから、それで「食事も提供してるだろ」という事になってるのか?まさか…)


この城の使用人用のお仕着せはファレル家同様に綺麗だ。

良家の使用人、という感じがする。


なのに

「セルマ様用にと女中頭から渡されました」

とアンディーが持ってきた服は

「一体どこのゴミ箱から拾ってきたの?」

と驚くくらいにボロかった。


なんでも子供サイズの制服を切らしているのだとか。

結局、私は転移魔法陣で注文した男子用子供服を着て過ごしている。


そして給金も出てない。

勿論、使用人用の部屋に住んで使用人用のお仕着せを与えられたと言っても、これといって使用人用の仕事をさせられて扱き使われてる訳ではない。


単に諸々がセルフサービスで伯爵令嬢とは思えない生活レベルだというだけの事。


ただ、時折、部屋の机の上に林檎が置いてある事がある。

アンディーに

「林檎くれたのは貴方?」

と訊くと

「?」

と首を傾げられたので誰が置いているのかは分からない。


(まさか毒林檎か?白雪姫じゃあるまいし…)

と思いながらも恐る恐る搾り汁にして飲んでみたら普通に美味しかった。


(この城には妖精でも居るんだろう)

と思う事にした。


考えても分からない事を深く考えるのは負けだ。

思考放棄万歳。


ともかくこの城での生活はセルフサービスが基本。


アンディーは私の世話を侯爵から言いつけられてる筈なのに、やたら他の使用人達から用事を言い付けられてこき使われている。


思わず

「アンディーはここでの生活に不満はないの?」

と尋ねたくなったのは仕方ない。


それに対して

「…仕事内容は上級使用人のものとは思えませんが、給金だけは上級使用人と同じ額を頂いてますから」

とアンディーは納得している様子。


(教会付きの魔術師は安月給だったらしい…)


南部に母と妹達がいるとかで

「鳩型使い魔を飛ばして給金の一部を仕送りしてます」

との事。


「不可視の使い魔は侯爵の用事で使ってて自分用には使えないって言ってたわよね?生き物の鳥の使い魔なら自分の自由にできるのね?」


「はい。僕の場合は。でもセルマ様が鳥の使い魔を作って西部の親戚と連絡を取り合う場合は監視が入ると思います」


「そうなの?転移魔法陣でスミッソン商会に欲しいものを注文するのは良くて、使い魔を飛ばしてスミス家へ手紙を飛ばすのはダメなのね?」


(禁止事項の基準が分からないなぁ…)

と思いながらも、それはそれで納得する事にした。


******************


モルガン侯爵領の森へ入るのは初めての経験だ。

新団員の騎士達は特に不満を言うでもなく護衛してくれている。


「魔術師の護衛」は騎士の仕事の中でも随分とランクの低い仕事と見做されているので、新人しか任せられないのだそうだ。

(新人以外の騎士に頼むと「バカにしてるのか!」と怒られるとか)


魔草には触手と棘があって、棘が刺さると、そこから際限なく魔力を吸い取ろうとしてくるらしい。


なので防護服を着ての収穫作業。

ハワードの眷属の不可視の魔物が潜んでいる可能性もある。

不可視の魔物は貴種を攻撃しない性質があるが、人間に対してはそうじゃないのでアンディーも騎士もしっかり御守りを身に付けている。


ここの人達は用心深いので御守りをちゃんと鑑定魔道具で鑑定して本物だと確かめて身に付けていた。


そうして朝から黙々と作業して、昼になったので

「収穫は今日はこれくらいにして、午後からは鉢植えのハーブから葉を頂いてポーション作りに入りましょうか」

と言われ、草刈り鎌で魔草を刈り取る農作業からやっと解放された。


人間の皆様が昼食を食べる間、私は魔力水を出して飲んだ。


ゴクゴクと魔力水を飲みながら

(ああ、そういえば、森の地中にモグラっぽい気配が有ったな…)

と思い出した。


地中の生き物もまた貴重な食糧だ。

モグラに穴ネズミ…。

(そのうち城内のネズミを狩り尽くしたら次は森で食糧調達する事になるのかも?)


ともかくハーブの鉢が陽当たりのいい中庭に並べられている。

良い匂いがする。


(西部の森にいた頃は周り中植物だらけだったのに…)

北部ではーーと言うよりモルガン侯爵領ではーー植物が貴重だ。


本当に、ここには、何もない…。

お金に変えられる作物も育たないのだから鉱石や魔石でも売らなければ暮らしていけない。


侯爵は魔木で植物紙を作る事業が上手く行くなら魔木の森の規模を広げて民の仕事にしても良いという考えらしい。

(一応、鉱石や魔石を採掘し尽くした後の事も考えているみたいね)


北部貴族はバルモーラル公爵家を始め南部の有力貴族家を幾つも乗っ取っている。

南部を狙った理由の最たるものはバルモーラル城の地下遺産ではあったものの…少なからず北部の民のためもあったのだ。


北部人を南部へ出稼ぎに出して南部の技術を学ばせてもいるし、南部人を北部へ呼び寄せて南部の技術を教えさせてもいる。

しかし後者の場合は北部人達の余所者排除意識に辟易して技術者が逃げ出すので計画が進まなくなる事も多い。

魔木で植物紙を作る計画は技術者の逃亡で頓挫しているし、城砦の補修工事も、耐寒性のある農作物の栽培普及も、同様らしい。


「セルマ様、お待たせしました」

アンディーが食事を終えて中庭へ来た。


アンディーの指示通りにハーブの葉を積んでいった。


「ポーション作りは元々この屋敷で行われていたの?」

と訊くと


「いいえ。僕が南部で作ってました。僕の魔力は治癒属性向きだったらしくて、教会と癒着していた商会に臨時で雇われて作りに行ってました」

だそうだ。


「南部の商会…。ハモンド商会っていう悪徳商会?」


「はい…」


「まだ潰れてなかったんだ…」


「まだ潰れてませんね…」


スミッソン商会以上に悪名高いハモンド商会が平民の魔術師を臨時で雇い入れるなんて…

「因みに給金はどのくらいもらってたの?」


「…ポーション一本につき銅貨1枚ですね…」


「成る程…」


「1日に何本くらい作ってたの?」


「20本くらいでしょうか?最初は10本も作れませんでしたが、魔力切れを繰り返す事で倍くらいに増えましたね」


銅貨1枚で小ぶりの黒パンが1つ買えるくらい。

ポーションは安いもので銀貨1枚くらい。

銀貨1枚は銅貨100枚。

高価なポーションだと金貨10枚くらいするものもある。

金貨10枚は銅貨10000枚。

アンディーが作っていたポーションがどの辺のグレードなのかは分からないが、かなり安く扱き使われていた可能性が高い…。


「そうなんだね…」

私は神妙に頷いた…。



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