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北部騎士団へ帰郷騎士達が入団する入団日。


城の使用人達も非番の者達は祭儀場へ見物に訪れていた。


ポーション作りに従事する魔術師は

「森へ魔草の収穫に行く際には新人騎士に護衛を頼む」

事になるので、毎年新しく入団してきた騎士と顔合わせをするそうだ。


モルガン家の猶子として中央の王国騎士団に入団していた者達は騎士資格を取得し御礼奉公が終わるまでずっとモルガン姓だったが、ここに来て、本来の姓を名乗らされる。


ワイズ・マクニール

ペイジ・マクニール

ローチ・ニーン

ガネル・マコーレー

ダーシー・マコーレー

この5人は猶子だった者達で

ジェイラス・モルガンは男爵家の貴種。

計6人が新団員だ。


1年間で死亡者2人、退団者2人だったそうなので

去年の同じ日と比べると合計2人増えた事になる。


「それでも、死亡者が多い年もあるみたいで、ここ10年は減少傾向があり戦力不足らしいです」

とアンディーが説明してくれた。


モルガン侯爵領の森は魔木と魔草で人工的に作った森でありながら、いつの間にか魔物が棲みつく。

不可視の魔物が他の魔物を餌にして普段は森から出て来ないので北部の住民は森に入らない限り森の中の魔物に脅かされる事はない。


北部の騎士団の仕事は

北部の街道巡回と魔物狩りの他

鉱山奴隷の牽制や

脱走者の捕獲と処罰。

秋には家畜を屠殺する役目も引き受けるし

真冬の食糧確保のためにアザラシ狩りも行う。


南部の騎士団の主な仕事が

「盗賊討伐」

であるのとは大違いだ。


何せ北部では野宿すれば凍死する。

森に盗賊団が棲みつくなど北部ではあり得ないのだ。

気温が違うと騎士団の役割も違ってくるという事である。


新団員には護衛を頼む事になるという話なので

「1年間よろしくお願いします」

「お願いします」

とアンディーと私は新団員の6人に頭を下げた。


服装のせいか誰も私を伯爵令嬢だとは思わないようだ。


「…小さいのに、もう奉公に来ているのか…。魔術師適性者も大変だな…」

とジェイラスが私を見て同情するような事を言ったが…


(多分まだ私の事を「スミッソン商会の縁者だ」と聞いてないからなんだろうな)

と思った。


横から

「おいおい、そのガキはスミッソン商会の縁者だぞ。名目上ではミルミドネス伯爵令嬢だし、血縁的には母親がスミッソン商会会頭の従姉妹だ。要らん同情なんかするな。付け上がらせるぞ?」

と私の身元をバラすヤツが湧いた。


ジェイラスとは違う銀髪赤眼。

エヴェリー・モルガンだ。


「…エヴェリーは子供相手に大人げないな。可愛い幼女は甘やかしてやるくらいが丁度良いってのに、そんなだから女にモテないんだぞ?」

と肩をすくめているのはダンカン・モルガン。


「まぁ、過剰反応的に敵側の弱者を敵視するのは卑怯だよな。その子の魔力は治癒適性みたいだから戦闘面ではかなり弱いんじゃないか?」

とヴィクター・モルガンが含み笑いをしながら私をジロジロ見てきた。


(話しかけられた事もなかったから「私という存在を忘れてくれてる」と思いたかったのに…)


ヴィクターは

「…ファレル伯爵家のジャン坊やがあれからすぐに目を覚まして、尚且つ後遺症もなく全快していたって話だ。

お前、あの日、あの時に一体何をしたんだ?アレだけの怪我を治癒させるなんて異常だろ?」

と真顔で尋ねてきた。


「???」

私が首を傾げると


ヴィクターは

「…お前、まさか…。いや、単なる偶然か…」

と目を見開いて私を凝視した。


不思議な気がした。

既視感だ。

(イアンおじ様と初めて会った時みたいだ)

と思った。


(誰か知ってる人に私が似てるのかな?)

そう思った私の疑問を打ち消すかのように


ヴィクターが不意に自分自身の頬をパシンと叩いて

「…子供はやっぱり子供だよな」

と苦笑を浮かべた瞬間にーー


何故か急に嫌な予感がして…


(…まさかコイツ…。私が嘘をついたら、それが分かるとか、そういう能力持ちなんじゃ…)

という可能性に気がついた。


(パパと同じ能力をこんなヤツが…)

と思うと、無性に腹が立ってきた。


挿絵(By みてみん)


「…う〜ん。ちょっと違うかなぁ?心音や呼吸音から相手の感情や発言の真偽を見抜くのは『戦闘向きじゃない亜人が心理戦用に身に付けやすい能力』だから、俺はそんなものには興味ないんだ。

俺の興味は読心術でどこまで読心できるのかって事だ。

そして今後の課題は『自分が読心を仕掛けられた時に閉心術で読心されないように敵の術を阻害しなければならない』という点だ。

お前の父親がヴァンパイア・ハンターに惨殺されてようと、こっちには関係ないんだよ」

そう言われてゾッとした…。


「………」

読心術の存在は当然知っていた。

森の隠れ家にも読心術の魔法陣が描かれた魔道具があったし…

西部には読心術師が多数居るのでプライバシー保護のために閉心術を習得するようにと言われていたくらいだ。


西部には亜人の血を引く者達が多くいて、特殊な能力を持っている。

従魔術師にテイムされた従魔が

「従魔術師と常時一緒にいるために自分自身の姿を人間寄りに発達させて感性も人間のそれと同じようになった」

というのが亜人のルーツなのだそうだ。

亜人の祖先は元は従魔であり魔物だったのだ。


吸血鬼と同様にセイレーンやハーピーの血を引く亜人は見た目が良い者が多い。

「自ら餌になりたがる者達を引き寄せるため」

に容姿に恵まれているのだという説がある。


セイレーンの血を引く亜人には読心術能力が備わっていて、能力の高い者達は潜在的記憶まで読むと言われている。


今までは読心術のイメージはプライバシーの侵害という程度の意味付けだったが…今はもっと深刻な理由で閉心術が必要なのだと判る。

コワイ…。


(読心術の発動条件って視認する、とか、なのかな?)

と思い、思わずアンディーの後ろに隠れた。


ヴィクターが鼻で嗤って

「バァ〜カ。隠れても無駄だよ」

とほざくのが憎たらしい…。


「???」

アンディーは意味が分からないようだ。


「イジメるなよ。可哀想に」

とダンカンがヴィクターを責めるようにヴィクターの肩を掴んだので、その隙に逃げる事にした。


ダンカンが善い人ぶって

「俺はお前の味方なんだぞ」

とか言うのが胡散臭くてコワイ。


「アンディー。もう戻りましょう。1年間お世話になる新人の方々へのご挨拶も済みましたから」

とアンディーに告げて、ジェイラス達には会釈しソソクサとその場を離れる事にした…。


******************


(私が知らないだけで、この【世界】の技術力の高さは侮れないものがあるのかも知れないな…)

と判り、急に怖くなった。


(不可視の使い魔を創りたいとか思ってたけど…。そういうものを創る場面を監視で覗かれると「叛意あり」という悪意的な解釈をされてしまうんじゃないのかな?)

と思った。


「やっぱり、外から見えなくなる結界って必要だよね…」


立ち入り禁止区画で周りの音が消えた状態の時の結界が一体どういう類のものなのか、よく分からない。

それにアレは同じ図象を虚空に魔力で描いても有効化しなかった。


虚空に魔力で魔法陣を描く方法だと古語を使う代替魔術しか有効化しないのかも知れない。


「古語で〈接続遮断〉と魔法陣内に書き込んで呪文で共鳴させれば、結界が作れてしまうんじゃないのか」

という疑問を、一度試してハッキリさせてみるに限る…。


それで早速試してみたところ。

ちゃんと周りの音は消えた。

周りの景色も消えた。

真っ白い空間に浮いてるような状態になった。


(ちゃんと結界化してるんだよね?)

と思いたいが…

こちらの音が外に漏れてないか

私の言動が外から見えていないか

確認する術はない。


一応

「ちゃんと自分は他の人達の認識から消えている筈だ」

という前提で練習を繰り返す事にした。


魔力を使って何かする、という行為を繰り返す事で

「自分の魔力量でどのくらいやれるのか」

を把握したいと思ったのだ。


吸血鬼は日が出ている間中、遮光術を使用しっぱなしだ。

それで魔力切れにもならず、更に他の術まで使える。

他の亜人と比べても魔力が多い人種なのだと思う。


私はそれに加えて魔術師だ。

潜在魔力量は多い筈。


小さい頃は度々魔力切れを起こした。

私の出す魔力水を両親が

「美味しい」

と言ってくれるから沢山出したかったのだ。

川まで水を汲みに行く手間も省きたかったし…。


「何度も魔力切れを起こしながら、そこから魔力回復させる事で魔力の総量が増える」

と言われているが、それだと私は随分増えてる筈。


〈接続遮断〉の結界を作り出してる状態で

「不可視の使い魔を創造する」

ような事もできる筈。


ただ万が一途中で魔力切れになったら困るので用心が必要ではあるのだけれど…。




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