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アンディーから得られる情報は少ない。
アンディー自体が使用人達の輪の中に受け入れられていないから、他の使用人達が教えてくれない情報が多いようなのだ。
それでも必要最低限のここでの常識に関しては教わっているらしい。
私はそうした常識に関してアンディーから教わった。
「城内には井戸が三つあって、僕やセルマ様が使用を許可されている井戸はそのうちの一つです」
「厠の掃除は基本的に女中がしますが、この区画の厠に限っては年中僕が当番に割り当てられています(浄化ができるから)」
「食事は下級使用人賄い用の厨房からのものを頂く事になります」
「北部騎士団の訓練場は初級者用・中級者用・上級者用とに分かれていて、使用人の訓練場使用が許されるのは初級者用のみです」
「図書室の利用は図書室付きの司書に利用申請をして、それに許可が降りれば利用できます。ただし貸出はありません」
「衣服の洗濯や寝具の洗濯は基本は各自必要時に洗濯場を使って行う事になっていますが、僕達以外の使用人はグループを作っていて、その中で洗濯当番が回ってきた人達が洗濯しているようです」
「森で魔木・魔草を個人利用のために採取する事は禁じられています。魔木から植物紙を作る事業が数年前から進められていますので、運が良ければ製紙業で職人になれる可能性があります」
「魔草と薬草を使ったポーションを作るのが治癒適性の魔術師の業務の一つでもあるので、魔草の収穫とポーション作りにはセルマ様も一緒に参加していただく事になります」
「使用人の衣服や寝具などリネン類の管理は女中頭の仕事なので、寝具の新調や衣服の新調が必要な時には女中頭への申請が必要になります」
「裁縫が得意な者は自己申告しておくと、縫製室の仕事へ回してもらえるので水仕事から解放される可能性があります」
などなど。
ここにはここの人達の生活がありルールがある。
時節ものの情報だと
「じきに王国騎士団での御礼奉公を終えた騎士達が北部に帰ってきますので、帰郷騎士達の北部騎士団入団のお祝いが城をあげて行われます」
といった話が聞けた。
それに関しては疑問に思う点がある。
「…前々から思ってたんだけど、騎士になるには中央の王国騎士団に入団しないとダメなの?領属騎士団では騎士資格をもらえないの?」
という疑問。
アンディーによると
「南部でも同じ事を疑問視する人達が沢山いました」
だそうだ。
「その昔は『騎士』とは『主人と定めた貴人に仕える事を誓い、貴人からもそれを認められた者』の事を指していたらしいです。
ですから昔は、王家に仕える騎士よりも地方領主に仕える騎士のほうが数も多くて強かったとの事です。
そうした事態を憂いた東部貴族達が『それではいけない』と、王家を持ち上げるために『騎士資格』というものを作り出し、そうした資格を授ける権限を王家だけのものとする体制へと改革したのだそうです。
なのでそうなる前は南部騎士団が最も人数が多くて最強だったらしいのですが、その後は南部出身者の入団数に上限が設けられて、今では北部、東部、南部、西部の騎士の数は中央の騎士数の七割未満に調整されているのだとか」
「…東部って『中央集権』支持だったのね?」
「そのようですね。少なくとも当時は」
「今はどうなの?」
「分かりません。僕自身が騎士団に居た訳ではなく、あくまでも教会へ通ってくる騎士の皆様から聞き齧った話ですから」
「そうなのね…」
私は自分で言うのも何だが8歳児の割にハイスペックだと思う。
吸血鬼として生まれついてしまったなら人間の子供が学ぶ読み書き計算に加えて遮光術の常態使用まで習得させられる。
貴族家の後継とかだと
「8歳児で母国語の読み書きのみならず複数の外国語を日常会話程度なら読み書きできる」
ような秀才は珍しくないらしいが…
私の場合はそれに加えて
「遮光術」
を習得しているのだ。
吸血鬼が人間のフリをして生きていくには学ぶべき事が人間よりも多くなる。
人間よりも吸血鬼はハイスペックにならざるを得なくなる。
なのにここに来て
(私は世間知らずだったんだなぁ…)
と感じる事が多い。
両親が歴史の学習に無関心だったせいもあるのかも知れないが
「ナマの政治」
というものの影響に関して私は無知だ。
騎士資格が王家しか授けられないので
「騎士になるには中央の王国騎士団に入団しなければならない」
などという話も、森暮らしだと絶対知らないままだった筈だ。
なのでアンディーにとって既に常識であった
「北部、東部、南部、西部の領属騎士団に入団する人達は既に全員が騎士」
「中央で騎士になって御礼奉公も終えての5年ぶりの帰郷」
という地方騎士団事情も私は今回初めて知ったのだ。
因みに、ジャンが攫われた時に捜索隊を指揮していた貴種の3人はエヴェリー・モルガン、ダンカン・モルガン、ヴィクター・モルガン。
それぞれ侯爵家、伯爵家、子爵家の若手らしい。
モルガン家の侯爵家、伯爵家、子爵家では当主の入れ替わりがない。
『ハワードの息子達』が延々と当主であり続けている。
よって当主の息子や孫が時期当主と呼ばれる事はない。
エヴェリー達は当主達の孫にあたるが後継とは呼ばれず若手と呼ばれる。
それでも実質、北部騎士団の精鋭を動かす連中だ。
今年、中央から帰ってきて北部騎士団に入団する者の中にも貴種がいるので、騎士団内の若手貴種はフィリスを含めて5人になる。
モルガン家の騎士爵家は四家あるのでフィリスみたいなのが他に3人いるのかと思いきや、フィリスの家以外の若手貴種は3人とも低年齢。
ジャンやノークスくらいのお子様。つまり私と同世代との事。
「そう言えば、ポーションなんて作ってどうしてるの?騎士団で消費してるの?商品として民間に卸してるの?」
と気になる事も訊いておかなければならない。
「ポーションは全て騎士団で消費しています。足りない分は不本意ながらスミッソン商会から購入しているとかで、それを不満に思う人達から『魔草の繁殖範囲を増やしてポーションの生産量も増やすべきだ』との意見が出ていて只今検討中のようです」
「…スミッソン商会から買ってたんだ…」
「ええ。北部人にとって『敵に依存するは屈辱』らしいですよ…」
「………」
(ちゃっかり商品買ってるんなら、もう敵認定は取り下げて仲良くする方が得なんじゃないの?!)
とツッコミを入れてやりたいが…敢えて何も言うまい…。
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魔草の収穫時期は冬以外だとほぼ毎月。
冬場は収穫できない。
夏至を過ぎた今くらいが一番魔草も元気で、収穫しても魔草の繁殖力が落ちない。
ヒソップやラベンダー、タイムに似たハーブが薬草として栽培されているが、土に直植えすると冬に根絶やしになるので全て鉢植え。
鉢の数が増えると管理が大変だろうに
「ポーションの生産量を増やせ!」
と言ってる人達は呑気なものだ。
「温室が有ると良いのにね」
と思わず呟くと
アンディーが
「城下町の花屋は敷地内に温室を建てたそうです。ただ温室の材料である強化ガラスがこれまたスミッソン商会から仕入れたものらしくて、別ルートで強化ガラスが入手できるとかのツテができない限りモルガン侯爵家で温室が建てられる未来は遠いでしょうね」
と答えた。
北部人はどうにも頑なだ。
「巨大魚の鱗をガラスがわりにできないものかな?」
「透明度が足りないし強度も足りないらしいです。ただ強度の方は釉薬を使えば何とかなるかも知れません」
「透明度が足りなくても床とかを漆喰で白くしてしまえば、室内で光が反射してそこそこ明るくなるんじゃないのかな?」
「光が反射?」
「黒が光を吸収するのに対して白は光を反射してしまうでしょう?」
「そうなんですか?」
「………」
(そう言えば、この人は魔術師だけど非覚醒者だったな)
「あ」
と思わず言葉が漏れた。
ファレル伯爵家のアルバート先生。
あの人は覚醒した魔術師だったのかな?
それとも非覚醒者の魔術師だったのかな?
今になって急に気になった…。




