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挿絵(By みてみん)


(この侯爵家では家庭教師とかは付けてもらえないのかな?)

と疑問に思った。

早く強くなって早く出て行きたいのに…。


部屋に篭って今後の食糧調達と自己強化の学習に関して

「何か良い方法がないか…」

と、しばし考えてみた。


朝食は調達するのが面倒なので転移魔法陣で注文して済ませる気でいるが、三食全てを注文するのはお金がかかり過ぎる。

だから注文するのは朝食の分の血液だけ。

昼食は魔力水を出して、それを飲むので済ませる。

夕食はネズミを捕獲して浄化してからいただくので良い。

小型の生き物を熱感知すれば見つけるのも容易いし、私は素早い。

熱感知能力を使わずに衰えさせるのは勿体ない。


自己強化のほうは、木剣をファレル伯爵家から頂戴してきているので素振りで自習できる。

座学に関しては古語と近隣国の言語の読み書きを習得済みなので、主に歴史や一般常識、魔術理論が必要だろう。

勿論、覚えた知識もたまには使わないと忘れる。古語や近隣国の言語を日替わりで使って日記を書くようにする。

発音を忘れる可能性もあるので音読も必須。

ボードゲームの棋譜の暗記に加えて、歌の練習も毎日少しずつ行う。


あと、算術に関してはこの世界も十新法なので前世の数学が通用する。

化学はどうやら原子から何から違うらしい。

ただ似た反応は存在する。

例えば酸素に該当する気体がなくなれば酸欠状態になって死ぬ。普通に。

だが地球の酸素と同じ化学反応は起きない。

火薬も存在するが、火薬の材料はこれまた地球とは違う。

この世界の場合、魔物の死骸が有効利用されて武器や薬が作られている。

火薬もまたカメムシに似た昆虫型魔物から採れる。


「これだけ大きな城砦だし、図書室とかもある筈だよね。図書室を探して、役に立ちそうな本を物色しておく事にするか…」

と、とりあえず今自分がなすべき事は見つけた。


ファレル伯爵家の図書室から拝借してきた本で学べるだけ学んだその後の事も考えておかなければならない。


アルバート先生が言っていた『ハワード・ローガンの手記』の写本。

確かに魔術師にとって役立つ内容が書かれていた。

鳥を使い魔にする方法の他、不可視の使い魔を創造する方法。


鳥を使い魔にする事は魔術師じゃなくてもできる。

不可視の使い魔を創造するのは魔術師しかできない。

使い魔(ファミリア)ーー。


近いうちに不可視の使い魔を創造してみようと思う。


鳥の使い魔は交信相手が居ないのに作り出しても世話が大変らしい。

不可視の使い魔が魔術師に与えられた半物質のナノマシンを使って創り出す伏兵なのに対して、生き物の使い魔は毎日餌が必要だ。

あと交信相手の血も必要になる。


せっかく魔術師に生まれついたんだもの魔術師に与えられた特権は(ナノマシンは)有効利用しないと。


鳥の使い魔を不可視化するには

「不可視化の魔法陣を仕込んだ魔道具を身に付けさせる」

などの手間が必要なのに対して、ナノマシン製の使い魔は予め不可視。


寧ろ一部を物質化させないと物を運んだりもできない。

監視・観察に適した使い魔だ。


ハワード・ローガンが神様から与えられた能力というのが

「眷属を無数に増やせる能力」

らしい。


それは

「不可視の使い魔が自動で魔物を手下に加えて眷属化してくれる」

という便利なものだ。

ハワードの休眠期には使い魔も一緒に休眠するが、ハワードが活動期の間は勝手に手下を増やしてくれる。


不可視化の適性がある魔物は、不可視の使い魔の眷属となれば不可視化してしまうので、客観的には不可視の使い魔と区別がつかなくなる。


ハワードは2000年近く生きているが始祖になったのは1420年ほど前。

70年ほど前に休眠期に入っていて現在は不在ではあるものの…

始祖になって五回活動期を過ごしているので、眷属の数は相当な数へと膨れ上がっている筈。

グレイス島のみならず大陸側でも新大陸側でもハワードの眷属は存在していて、ハワードに敵意を持つ者達を監視している。


(昔から「ハワード・ローガンの名を声に出すと見えない魔物から攻撃される」という情報は文章でやり取りされていたらしい。眷属は字までは読めないようだから)


それにしても魔術師が

(世間の魔力持ちの皆様が使う代替魔術とは別に)

「魔術師固有の魔術を使える」

理由がナノマシンにあったという情報は大収穫だ。


代替魔術が魔法陣と呪文を使うのに対して、魔術師の固有魔術だと

「ナノマシンが自動的に魔術師のイメージを具現化してくれる」

ものらしい。


ただ難しいのが

「固有の共感覚フィールド」

というものを魔術師自身が創り出す必要があるという事だ。


そうしたフィールドはおそらく

「創造可能領域」

とでも呼ぶべきもの。

そのフィールドが自分の中で拓けた時には自分でもそれと判るものらしい。


私には、そうしたものが拓けた実感はない。

ジャンの回復を祈った時に違う場所にいる錯覚を覚えたが…

「アレが固有の共感覚フィールドだったとしても、意図してあの場所にまた行ける気がしない」

ので、固有魔術は当分使えそうにない。


劣等感を感じそうになるが、案外、固有魔術を使えない魔術師は多いらしい。


覚醒していない魔術師は勿論のこと、前世の記憶がある覚醒済みの魔術師であっても

「使えない者達は使えない」

とハワードは手記の中で明言している。


ただナノマシン自体は魔術師なら誰でも与えられているので、不可視化の使い魔だけは魔術師なら誰でも創造できるようだ。


身近な人間の魔術師アンディーはーー


貴族の庶子として生まれていたが、父親は彼を認知せず教会へも金を寄付しなかった。

そのおかげで彼は

「魔術師の素質がある赤子だ」

と国へ報告された魔術師だった。


そういう魔術師は覚醒できないように強力な暗示を埋め込まれる。

国に抑圧され教会に所属させられる運命だ。

アンディーもそういう運命を辿った。


そうした覚醒を封じられた魔術師が教わる魔術が

「浄化」

「障壁」

「相似投影術」

「魔力譲渡」

なのである。


「浄化」

は教会を清潔に保つために使われるし

「障壁」

は有事の際に要人を守るために使われる。


「相似投影術」

は魔術師しか使えない魔術で、人体内の魔力回路の相似図を水晶玉へ投影させる魔術。

これによって赤ん坊が魔術師か否かを見分けている。


「魔力譲渡」

はそのまま魔力の譲渡をさす。

魔力持ちの信者が教会へ通いお布施する最大の理由が「祈願」「祈祷」を依頼する事である。

魔術師は「信者の願いが叶うように祈願する(又は祈祷する)」という名目で魔力譲渡を行なっている。


それによって「祈願」を受けた魔力持ちの人間達は、一時的に代替魔術を使えるようになるのだから、高い金を喜んで払う。


人間の魔力持ちは魔術師や亜人の魔力持ちとは違って自前で魔力を精製できないのだそうだ。


魔術師や亜人の魔力持ちが

「自分のエーテル体のチャクラで魔素を魔力へと精製できる」

のに対して


人間の魔力持ちは

「外部に存在する魔力を吸収してエーテル体内に留めている」

に過ぎない。

なので外気マナが魔力を含まない場所に長くいれば、エーテル体の中の魔力も尽きて只人と変わらなくなる。


それを避けるために人間の魔力持ち達は教会へ行き、お布施をして、「祈願」「祈祷」という名の「魔力譲渡」を受けている。


人間の魔力持ちの大半が王族・貴族である事を踏まえると、どう考えても

「魔術師は世俗の権力者達に搾取されている」

のだけれど


ハワードに言わせるなら

「それが【管理者】の(神様の)望む社会形態だ」

という事らしい。


何でもーー

魔術師が何の障害もなくチートを得ていた時代。

国や自治体などの組織的集団も魔術師の気まぐれで蹂躙されて人類は弱肉強食時代を送り滅亡の危機に陥っていたらしい。


そうした事態を憂いた【管理者】は(神様は)

「魔術師を(特約契約者を)優遇し過ぎると人類が滅びる」

と学習してしまい

「魔術師は権力者達に搾取されるくらいで丁度良い」

と思うようになったのだそうだ。


つまり現代の魔術師の被搾取環境は

「大昔に好き勝手やっていた魔術師達のとばっちり」

という訳である。


アンディーは南部の教会で魔術師として働いていたところをハンフリー・モルガンに見出されて、教会付き魔術師の職を辞して、モルガン侯爵家へやってきた。

そして漸く「不可視の使い魔の創り方」を知り、不可視の使い魔を創造したのだそうだ。


アンディー曰く。

「僕が生み出した不可視の使い魔はハンフリー様のお役に立つ用途でしか使わないと誓約してるので自分用には使えないんですよ」

だそうだ。


(しっかりと抑圧・搾取され続けている…)


所属先が教会から貴族家へと代わったところで覚醒を封じられた魔術師は権力者の都合に振り回されて生きる事になるものらしい。


(しかも、この侯爵家はヨソ者差別が酷いし…)


「ここにこのまま居続けると、いつの間にかアンディーみたいに色々諦めて、大人しく搾取され続ける人生になるのかな…」

と思うと、益々反発心と独学意欲が湧いたのであった…。



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