表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/116

33

挿絵(By みてみん)


部屋にハンガーもハンガーラックもない。

アッシュクロフト家と同じと言えば同じだ。


こういう部屋に滞在するとなるとドレスは皺になる。

今後は皺になっても着られる服を普段着にして、寝る前に椅子の背にかけておく事になる。


(「スミッソン商会の縁者だ」という偏見のせいで荷物を台無しにされたんだから、この場合、「ジョージ大伯父様の支払いで」破損した服やチェス盤を注文しても良いよね?)

と思った。


「あ、紙も破られてインク瓶もひっくり返されてるのか…。ペンもへし折られてる…。注文は先ずは紙とインクとペンだね」

と色々諦めて、部屋の拭き掃除に入る前に床に広がっているインクを折れたペンの先に付けて、破られた紙の切れ端に文字を書いた。


事情を説明するだけの余白もインクも足りないので、とにかく紙とインクとペンが欲しいとだけ書いた。

服やら何やらは全部筆記用具が届いてからで良い。


アンディーがバケツに水を汲んで持って来てくれるまでの間に真っ先にベッドの寝具をひっぺがして廊下へ出した。

ベッド自体が古くてノミやダニがウジャウジャ居そうだ。


引き裂かれたドレスは丁度良い大きさの端切れが雑巾代わりに使える。

大きめの端切れを丁度良い大きさに裂いて、雑巾を更に何枚も作る。


「浄化魔術とか使えたら便利だろうに…」

と呟くと


「浄化魔術なら使えますよ?」

とアンディーがバケツを持って廊下から返事をしてきた。


「なら、この部屋のバイ菌を浄化で一掃できる?」


「はい。では掃除前と掃除後に浄化魔術をかけましょうかね」


「掃除前だけじゃなくて掃除後も、なのね?」


「浄化作用は表面にしか働かないんです。人体でもそうですが、身体の中までは殺菌・殺虫できません。掃除する事で汚れの下にある床や壁が剥き出しになるので、そこに再び浄化を振りかける事で清潔な部屋になります」


「それじゃお願い」


「はい」


(どうやるんだろう?)

と観察すると


アンディーが右手を前に突き出し、指先から魔力を放出し出した。

魔力で虚空に魔法陣を描くというスタイルのようだ。


(古語を使った代替魔術か?)

と思ったら案の定


古語で

「〈我が身を苦しめる厭わしき不浄を何卒祓い清め給え。浄化!〉」

と呟いてくれた。


それで

(この人も古語を使った代替魔術の使い手なんだな)

と判った。


私は、物心ついた頃からグレイス語の読み書きの他に古語や外国語も教わってきた。


父は

「若い頃は船に乗っていて近隣国の港で現地語のやり取りをしていたし、そのうちスミッソン商会の国外支部で働いてたから」

という理由で外国語が堪能だった。


古語に関しては

「代替魔術の呪文は古語だし、代替魔術で描かれる魔法陣は一筆書きの紋様の中に呪文の文字が含まれているものなの」

と母に言われて、母から教えこまれた。


水生成も古語を使った代替魔術だ。

濡れた洗濯物を乾かす乾燥も古語を使った代替魔術。

室内の温度を保つ保温も古語を使った代替魔術。

母は家事一般の代替魔術が得意だった。


魔法陣の中に描かれた紋様はただの波形ではない。

「浄化」を意味する古語を形成する文字。

サー、ルー、ミー、イル、キー。

浄化サームイアク

それらが魔法陣の図象の中に描き込まれている。

一筆書きで。


この世には「共鳴」という現象が存在する。

だから呪文が魔法陣内のエネルギーの流れを共鳴によって増幅させて、有効範囲の場が魔法陣の大きさを越えて広がる。


私は呪文を聞き取るのは上手いのに、呪文を自分の声で再現するのが苦手だ。

歌が下手なのも関係しているのかも知れない…。

(歌や呪文の響きを今後はこっそり練習したほうが良いのかも知れない)


有効範囲の場は結界と似てはいる。

結界の場合は有効範囲の境界線をより強固に外界との関連性を遮断する傾向があった。


(「結界」って、インターネットでSNSのサイトからログアウトして内部の人達からの言葉を自分の意識から遮断するのと似た感覚なんだな。それならーー)


古語で〈接続遮断〉と魔法陣内に書き込んで呪文で共鳴させれば、結界が作れてしまうのでは?

古語で〈障壁〉と魔法陣内に書き込んで呪文で共鳴させれば、障壁も作れてしまうのでは?

(ママは家事関連の魔法陣と呪文しか知らなかったみたいだけど…。創作で創れる可能性があるよね…)


そう言えば、立ち入り禁止区画の床に描かれていた魔法陣。

アレは古語じゃなかったし、研究の余地がある。

(早目に紙に書き写したい。忘れる前に)


ともかく、今は掃除だ。


******************


掃除を終えて、内部空間拡張収納袋の中から転移魔法陣を取り出すと、既に筆記用具が転送されていたらしく、筆記用具も一緒に出てきた。

ちゃんと机の上に出てくれたのが有り難い。


真っ先に立ち位置禁止区画の魔法陣を紙に書き出した。

古語ではない紋様。

これはこれで所謂「海から流れてくる魔道具」由来の図象で、貴重なものなのかも知れない。


バルモーラル城や王城、グルゴレットヒル城の地下遺産保管庫には海から流れてきた魔道具が大昔から蓄えられてきたのだという。

グレイス王国は島国。

グレイス島よりも遥か西にかつて超文明を誇った大陸があったとかで、その大陸が海に沈んだ後も、超文明時代の名残として壊れた魔道具が海辺に流れ着いてくるのだそうだ。


なので「海から流れてくる魔道具」には「海に沈んだ大陸の言語」が含まれた魔法陣になっている筈。

ともかく超文明時代の魔法陣の図象を今回一つゲットできた訳である。

嬉しい。


そこでやっとまともに他の細々した事にまで頭が回るようになった。


(服は今後どうしようか…)

と考えた結果


「女物のドレスやスカートじゃなくて男物のズボンやシャツを注文しよう」

と決めた。


この調子だと服の洗濯も自分でしなければならない気がする。

アッシュクロフト家でもスカートではなくズボン姿で下働きをしていた。

その方が動きやすいのだ。


あと着脱も楽で管理も簡単そうだ。

身に付けていない服を部屋に置きっぱなしにしてると、またズタズタに引き裂かれるかも知れないし。


一応、その辺の事情も説明に付け足してそういったものを注文。

スミッソンの縁者だからと嫌がらせを受けた事は書いたが、支払いを大伯父様にという点は書かなかった。


(考えてみれば大伯父様はーーお祖母様のお兄様はーー結構な歳の筈…)


祖母が今も生きてたら60前くらいの筈だけれど、大伯父は祖母よりも10歳以上年上だった筈。なので70歳くらい?

まだ現役でスミッソン商会の総帥なのかが分からない。


(亡くなったとは聞いてなかったけど、私が両親の話を聞き逃していただけなのかも)

息子に総帥の座を継がせて隠居してる可能性もある。


(お祖母様のご兄弟の名前は知ってるけど、そのお子さん達の名前までは知らないんだよね…)

と記憶力がしっかりしているうちに祖母の親兄弟の名前を紙に書き出した。


アーサー・スミッソン

コーネリア・スミッソン

この両名の子供

長男ジョージ

次男デクスター

三男アラスター

長女ジョージア

四男ダレン

五男グレン

六男アレン

次女エレイン


ついでに母の親兄弟の名前も書き出しておく。

チャールズ・スミス

エレイン・スミス

この両名の子供

長男ダライアス

長女マデリン

次男エリアス

三男トバイアス

次女エリザベス

(3人の男子はスミス家の事業の一つ造船業に従事していて3人とも港町に住んでいる)


ついでに

チャールズの正妻キャサリン・スミス

チャールズとキャサリンの子供

嫡男グレゴリー

とも付け足しておく。


伯爵位を継いだ母の異父兄のグレゴリーはキャサリンのたった1人の子供。

キャサリンは二人目を妊娠出産した時に難産で死にかけて、それ以降、子供を産めない身体になったらしい。


(地球世界に天罰のような悪人懲罰システムがあったようには思えなかったけど、「この世界には天罰があるのかも知れない」とちょっと思った)


服はすぐに届いた。

寝具も注文しようかと思ったがアンディーが洗濯してくれたし、リネン室から清潔な寝具をくすねてきてくれたので、それで良しとした。


「いつまでもドレス姿じゃいられないし、今夜はもう寝よう…。考えたら、夕食の時間にも呼ばれなかったし…。またアッシュクロフト家での生活レベルに逆戻りなのかなぁ…(ハァァーッ)」

と疲れた状態でベッドに入ったのだった…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ