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挿絵(By みてみん)


クズなフィリスはとうとう私に謝らなかったし、それどころかその後も

「この令嬢は他人に迷惑をかけておいて謝らないどころか嘘を言って謝罪要求するような性悪だ。残念だ」

という濡れ衣を着せるための茶番を演じ続けた。


(本当に、死ねば良いのに)


揉めているうちに執事らしき使用人がやって来て

「旦那様がお呼びです」

と言ったので、大人しくモルガン侯爵の執務室まで連れて行かれたが、執事もフィリスと同じ人種らしくて私を見る視線はゴミを見るような冷たさだった。


(なんなんだろうな…。この排他性は…。フィリスが特別性格が悪いからというより、ここの人達の排他性がファレル家よりもずっと根深いって事なのかもな)

と気が付いた。


余所者を警戒して余所者を排除する意識が強い。

その結果ここの人達は安全に暮らせる。

だから益々排他主義を募らせる。


(こういう「余所者=犯罪者予備軍」扱いが健全な社会にとっての普通なのかも知れないな…)

と前世を思い出して少し思う。


前世のあの国では、外国人を法的に優遇するのみならず、外国人の犯罪自体を報道しなかったり、外国人犯罪を通り名で報道して犯人の国籍が自国民だと錯覚させたり、余所者排除とは真逆の内ゲバ誘導が繰り返し行われていた。


運命共同体の解体が進んだ狂った共同体では、余所者を警戒し外国人犯罪者を排除するという心理自体を

「差別だ!(悪だ!)」

と見做す倒錯が起こるのだろう。


アレはアレで色々おかしかったが、ここの異物排除は初っ端からやたらとラジカルで極端だ。

健全な自己防御的異物排除とは言えない。

様子見とかの微妙な迷いの段階が省略されてる感じか。


(そう言えばイアンおじ様が「昔は北部は貧しかった」とか「スミッソン商会に経済封鎖されていた」とか言ってたけど…。ここの人達の「迷いのない排外主義」の標的にされてみると、ここの人達が商売人とは真逆の貧乏神気質だって気がしてくるんだよなぁ…)


どんなに奪って奪って豊かになっても、社交という側面での譲歩や権利主張という面での適切なバランス感覚の重要さを理解できていないと、結局は貧しさが思ってもいない方面から降りかかるものなのではないかと思うのだ。


貧しさというものは多面的だ。

エアコンのある家で暮らせるようになったからといって、身を飾るためにお金を使えたかと言えば全くそうではなかった。


「皆に当たり前のように与えられているもの」

(権利や生存に必要な資産や情緒的充足)

「自分にだけ与えられていない」

という現実を

「目の前でまざまざと見せつけられる」

という意味での

「相対的貧困」

も存在する訳である。


貧困を引き寄せて

自分が引き寄せた貧困を

余所者に擦りつけて

余所者を叩き出す。


そんな術式に依存している人達が断罪もされずに増え続けると、そんな社会空間に新しく人は入って来なくなる。

そんな社会空間は自己完結中毒になって脆化していく。


新大陸の有色人種が簡単に白人に侵略されているのも

「彼らの精神が素朴で集合意識が自己完結中毒になっているから」

とかいう理由もあるのかも知れない。


商業的な交渉術は詐欺師の詐術のようなものではあるが…

そうした詐術的な人当たりの良さや交渉の目的である等価交換意識が自己完結中毒で脆化した共同体の刷新には必要な場合もある。


「北部吸血鬼には自浄作用を要求する」

という曾祖母の交渉。

それが急に思い出された。


(そうだよな…。ここは…モルガン侯爵家は刷新されるべき時に刷新されないまま突き進んできているんだろうな…。なまじ貴種がハイスペックなせいで刷新が為されず「自浄作用」が充分ではない状態のままだから、ここの人達は意識が低いんだ…)


私が独りで自分の中で起きた分析に納得していると

「こちらへどうぞ」

と執務室の扉が開けられて入室を促された。


ハンフリー・モルガン。

1000歳超えの吸血鬼。

吸血鬼は年齢を重ねる毎に戦い慣れしてゆき強くなる。

なので始祖以外の吸血鬼の中では最強に近い男なのだろう。

強者の貫禄がある。


だけど私には彼をリスペクトできそうな点を見つけられない。


(顔自体はハンサムなんだろうけど、仏頂面が魅力を損なってるから全然惹かれるものを感じない…)


「お前がセルマ・スミスか」

と値踏みされながら


「ミルミドネス伯爵が娘セルマです」

と挨拶させていただいた。


「フィリスと揉めたらしいな。悪いが北部人は皆自尊心が高いんだ。お前を迎えに行かせるのにも人選で苦労した。

何せ誰も行きたがらなかった。お前に付けてやるべき侍女の人選すら出来ていない。皆が皆、『スミッソン商会の縁者に仕えるなど嫌だ』などと言いはるからな。

それを宥めすかして無理に遣いに出せば今回の騒ぎだ。お前自身に非がないのは分かってはいるが『あのスミッソンの縁者か』という事実にまつわる嫌悪感を捨てきれない者も多い。

無理矢理役目に着かせてもまた不具合が起こる可能性が高いので、お前には侍女は付けずに侍従を付けてやる事にした。

元は南部の人間で魔術師だ。北部人ではないのでお前に対しても公平に接してくれるだろうとは思うが、そやつ自体が周りから疎外されている節もあるので、充分に用を足せない可能性もあるにはある。

それを補うべく、女中頭にはお前の侍従を気にかけてやるように言い渡している」


「お心遣い有り難う御座います」


「アンディー。セルマ嬢へ挨拶しろ」


「ミルミドネス伯爵令嬢。初めまして。アンディー・ウィルソンです」


「初めまして。アンディー。よろしくお願いしますね」


「誠心誠意お仕えしたいと思います」


「では、退がれ」


「有り難う御座いました。お手間をかけてしました。失礼させていただきます」

「失礼致します」

私とアンディーはさっさと執務室を後にした。

居心地が悪過ぎたのだ。


廊下に出た途端に急に空気が美味しく感じられた。


廊下を歩きながら

「私の部屋って、どんな部屋なの?」

とアンディーに訊いてみた。


「…セルマ様のお部屋は…そうですね、部屋、ですね」

と言いづらそうに答えたので

(何か不具合でもあるのかな?)

と引っかかるものは感じはしたのだ。


だが

「こちらです」

と案内が進むに従ってアンディーの態度の不審さの原因が理解できた。


進んでいくに従って家人の居住区とは離れた使用人居住区へと入り込んで行ったのだが…

執事や侍女・侍従などの上級使用人の居住区を過ぎて、女中や従僕らの下級使用人の居住区まで辿り着いたのだ。


「スミマセン…。上級使用人の居住区に空きがないとかで、コチラがセルマ様のお部屋になります」

と言われて絶句した。


部屋の場所自体が下級使用人の居住区だというだけでなく、中は随分と荒らされていた。


ベッドの上の寝具には馬の糞らしき物がなすりつけてあって、ベッド脇のサイドボードの上には得体の知れない虫の死骸が置かれていた。

挙げ句、トランクに詰めていた衣装類もズタズタに裂かれていた…。


「…あの、僕の部屋は隣ですので、夜までに片付けが終わらなかったら、1日だけ僕の部屋でお休み頂いても構いません」


「その場合、アンディーは何処で寝るの?」


「床で」


「却下。…貴方、人間なんですよね?…夏でもここは夜になると冷えるでしょう。下手すると夏なのに凍死しますよ?」


「ですかね?…(苦笑)」


最低な城に来てしまったという事はよく分かったが、アンディーが普通の、というより、ここの平均よりも遥かに善人である事も分かった。


「先ずは片付けを手伝ってね」

と初命令を下すと


「はいっ!」

と元気良く返事をしてくれた…。



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