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貴種とヴァンパイア・ハンターとの戦いの歴史。
そういうものを
「セルマさんは知っておくべきです」
と言われて先生に聞かされた…。
貴種は滅ぼされないようにと子孫を残し、それでいて餌不足が起きないように増え過ぎを自制しつつ、人間社会に寄生して暮らしている。
(同性愛に流れるのも増え過ぎに対する自制が潜在的にある)
それでも異性愛者の貴種が子種をばら撒き過ぎて貴種の数が増えた時代もあった。
そうなると何故かヴァンパイア・ハンター側に優秀な者達が出てきて、大量に貴種が狩られて数が激減させられた。
その繰り返し…。
貴種側からすると災難なのだが…
ヴァンパイア・ハンターとその支持者達は
「世界を守るためには吸血鬼を狩り続けなければならない」
だのという信念を持っていて、そうした信念は人間社会側で歓迎されているのだという…。
黙って話を聞いていると、段々と腹が立ってきて
「ちょっと、先生。そういう歴史って、なんだか吸血鬼一族を魔王軍扱いして、ヴァンパイア・ハンターを勇者パーティー扱いしてるような歪んだ観点が混ざってるように思えるんですが」
と思わず文句を言った。
「ええ。そうですよ。貴種一族は外部の者達にとって何故かいつも悪者です。単にコッチを魔物扱いして『狩り』だなどと称して殺そうとしてくる殺人鬼集団を返り討ちにしているだけで『悪の権化が卑怯な手口を使って正義の味方を殺した』みたいな解釈をされるんです。
不思議ですよね。神様が…【管理者】が、実は貴種に対して悪意満々なのだと言われても私は驚きません」
「なんか…人間の目には吸血鬼に対して予めヘイトフィルターでも付けられてるんでしょうか?…西部で伝わってる神様の話、以前お話ししましたけど、覚えてます?」
「…神様からすれば、【参入者】の不幸は『多様な体験をしてもらうサービス』とかいう話でしたっけ?」
「ええ。【管理者】って、かなり頭オカシイと思うんですが…。そういうのも『安定的に【参入者】に発電してもらうために必要なシナリオ』なのかも知れないな、と今なら少し思います」
「シナリオの中の悪者として貴種にはアドバンテージが与えられているものの、それは『必ず正義の味方に倒されるべき定めにある仮初めの優位性だ』という事なのかも知れない、と仰りたいんですね?」
「ええ。そう思ってしまいます」
「…実際には貴種はきちんと規律に従って行動しているのに『好き放題に人間を食い物にしている』と思われてしまう傾向があるのですが、そういったヘイト集中の原因は『魔素濃度にある』らしいです。
貴種も一族の者達も人間や他の亜人と比べて魔素を吸引しやすい体質なのだそうです。
ただ、そうした貴種の体質が【管理者】による設定なのだとしたら、やはりセルマさんが言うように貴種を悪者にするシナリオがあるかも知れませんね」
「…先生は人間の魔術師なのに、人間側の視点で物を見たりしないんですね?」
「…魔術は独学で習得しましたが、手本となるようなものが全く無いという状況でもなかったんですよ。その頃の私の手本が北部始祖ハワード様の手記の写本だったせいで、物の見方が始祖様贔屓になっている、というのもあるのでしょう」
「始祖様は先祖返りで尚且つ魔術師なんですよね?」
「ええ。なので魔術師特有の能力は写本の情報からカラクリを予想して模倣できますが、貴種特有の能力は私には無理ですね。変身能力などはモルガン家が得意とする能力ですが、おそらくセルマさんだと上手く使えないと思います」
「変身って、蝙蝠に変身するとかですか?」
「そうです。蝙蝠に限らずですが、蝙蝠への変身は貴種にとって互換性の高いものらしく、他の物に変身できない方でも蝙蝠には変身できるとの事です」
「…蝙蝠に変身する能力があったとして、そういうのは役に立つものなんでしょうか?」
「変身能力に秀でた銀髪の貴種が多芸で万能型になりやすいのは、一度変身できた魔物の特殊能力を使えるようになる、という事に理由があります。
蝙蝠の場合には超音波の放射ですね。超音波を集約して相手の脳へ浴びせると、一瞬だけ意識を失わせる意識障害を引き起こせます。
戦闘の際にハワード様の血の濃い貴種の皆様は超加速を100倍で使えるらしいですが、孫世代・曾孫世代だとそこまで使いこなせません。
人間や亜人も魔道具を用いて加速を使う事がありますので場合によっては実力が拮抗する事もあります。
そうした場合には一瞬だけ引き起こせる意識障害が勝敗を分ける事もあるのです」
「超加速、ですか…」
(異次元の戦いに思える…)
「超加速を使うと2倍から100倍の速さで動けると言われていますが、空気抵抗もそれに伴い強くなります。なので障壁を張りながらの超加速です。
二つの術を同時展開して攻撃時にのみ瞬間的に障壁を解くような切り替えも訓練なさった上での超加速戦闘ですからね。憧れますよね」
「超加速の魔道具があれば先生も超加速を使えるんじゃないでしょうか?」
「確かに魔道具があれば、使えるのでしょうけれど…。そういったレア魔道具が入手困難だから、コッチはコッチで工夫が必要なんですよ」
「…超加速とか使って不意打ちしてくる相手がいたら、私とか、普通に殺されそうです」
「ですね。だから『ハワードの息子達』や『先祖返り』には嫌われないように気をつけるべきです」
「ジャン様に嫌われてるのは不可抗力ですし、もう手遅れです」
「…今のうちにセルマさんがモルガン家へ移れば、案外すぐに存在自体を忘れてしまうのでは?」
「子供は気まぐれだから、それもそうなのかも知れませんが…。それよりも障壁の自動展開とか、そういう術はないんでしょうか?」
「自動防御とか自動迎撃とかは既製品では超加速の攻撃に対応できません。ですが、超高性能のレア魔道具になら、対応可能なものもあるのかも知れませんね…。
ですが、そういったものは我々には縁がないのではないでしょうか?
それこそ南部のバルモーラル公爵城の地下遺産保管庫にあった超文明時代の魔道具はモルガン家が独占している状態ですから」
「バルモーラル公爵城…」
「北部貴族が南部貴族に取り入っていた時期の目的がバルモーラル公爵城の地下遺産保管庫だった事は西部でも知られていた筈です」
「王城の地下遺産保管庫にもグルゴレットヒル侯爵城の地下遺産保管庫にも超文明時代の魔道具が保管されているんですよね?」
「ええ。錬金術師の作る魔道具のバリエーションは『その錬金術師がどれだけ魔法陣の図形を知っているのか』に比例しますからね。
超文明時代の魔道具を解体して内部に刻まれた魔法陣の図形を写し取る事は金と力を欲する人々にとって垂涎ものの夢でしょう」
「王城の地下遺産保管庫もモルガン家が独占しているんでしょうか?」
「それはないです。バルモーラル城やグルゴレットヒル城よりも王城のセキュリティは高めに設定してある筈です。
モルガン家の方々が王城地下の遺産保管庫に足を踏み入れたという噂は全く聞きませんね」
「そうなんですね…」
どの道、権力と無縁の私には知り得ない情報なのだと思った…。




