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挿絵(By みてみん)


北部の森には

「始祖様の使い魔の眷属」

と呼ばれる不可視化の魔物が潜んでいると言われる。

(私は北部の森に入った事は無いので真偽の程は分からない)


彼らは貴種以外の者を無条件で攻撃するという事なので、貴種に仕える魔力持ちの私兵達が森に入る時には「貴種の血を使って作った御守り」を持たされるのが慣習らしい。


そうした「御守り」が「備品保管庫に保管されていた」事を私は後になって思い出した…。


******************


各家の次期当主達の親睦を深める、という目的で

「クロフの森へ(ファレル家所有の森へ)狩りへ出かける」

というイベントは度々行われていたが…

低年齢の者達は当人が

「参加したい」

と願うのでない限り免除になる。

ジャンは当然参加した事は無かった。


しかし今回は

「婚約者もできたんだ。一人前に男だってところを見せておかないと格好がつかないんじゃないのか?たとえ子供でも」

とファレル子爵家のカウリーが言い出したところ


ライアンとラスキンがすかさず

「よお、ジャン、男を見せろよ!」

「女々しく尻尾巻いたりはしないんだよな?」

などとジャンを挑発した。


カウリー自身10歳でお子ちゃまではあるが、カウリーは7歳から狩りに参加していたとかで…

ジャンにも

「同じように度胸を見せろ」

と言いたい訳である。


(バカじゃないの?コイツら)

と私はカウリーと、カウリーに賛同しているライアン、ラスキンを見遣った。


7歳児の狩りなど無駄に危険なだけで役に立たない。

護衛に負担をかけるだけで誰のためにもならない。

そんな当たり前の事も分かってないのかと思うとイラついた。


アルバート先生も同じ事を思ったらしく俯いてため息を吐いている。

連中に顔を見られたら

「バカな子を見る目」

をしてるのがバレるから俯くしかないのだろう。


ジャンはジャンでバカは相手にしなければ良いのに、挑発に乗って

「今年から参加する」

と言い出した。


婦女子は基本的に狩りには参加せず、森の入り口にテントを張って待機するものなので私自身には何の危険もないが

(もしもジャンが死んだら、この一族、今後どうなるんだろう?)

と不安を感じはした。


「ジャン!森に入る前には、もしもの時のための遺言を婚約者に託しておけよ!」

とノークス・ファレル(11歳)が面白がってひやかしたのに対しては…


ジャンは何故か

ノークスに怒る代わりに

私を睨みつけた。


「???」

私が首を傾げると


ジャンの侍女のダーラが

「エルシーは今はノークス様の侍女なのよ」

と気を利かせて事情を説明してはくれたが…


(事情を教わっても、人事権に口出しできる裁量権が与えられてない事には私の方で対処はできないんだけどね…)

と感じた。


不可抗力だ。

不可抗力で益々ジャンから嫌われていく。

(ガキはこれだから嫌いだ)


ジャンのようなバカガキは多少痛い目に遭って、自分の内面の不合理に対して自己客観して反省したほうが良いと思う。

(ジャンが怪我しても心配はすまい)


心配なのはジャンの護衛であるベケットとテートだ。

強面を避けて選ばれてるだけあって優しくて性格の良さそうな好青年。

ジャンの性格がアレなのでジャンの侍女達は普段はジャンの護衛達に擦りよっている。


(善人がジャンのせいで怪我をするのは可哀想だ)

と思うくらいには私もこの屋敷に馴染んできている。


「まぁ、洗礼のようなものではあるんでしょうね」

とアルバート先生が呟いているのが耳に入った。


ふと気がつくと、いつの間にか先生がイアンの側にいて2人で会話している事が多い。

流石に

(アルバート先生の雇い主はジョアン様でもショーン様でもなくイアンおじ様なんだね)

と分かる。


イアンは

「ジャンもそろそろ『貴種』という存在の本質について学ぶべきだからな」

と言っている。


(「貴種」というものの本質?)

気になる発言だとは思うが私が何か尋ねると地獄耳だとバレる。


普通はこの距離で他人の会話は聞こえない。


吸血鬼は小さな音量の音を聴く聴力よりも可聴領域が広いという意味で耳が良い。

超音波は聞こえるが、遠くの音は聞こえないもの。


そうこうしている間にジャン達の準備が整ったらしく、ゾロゾロと森へ入っていく。

本来なら狩りは騎馬で向かうものだが、ジャンやノークスのような未成年がいる場合には森の奥深くまで潜る事もない。


こうしたお子様も参加の狩りでは

「獲物が1匹も獲れませんでした」

という事も少なくないらしい。


(期待しないで待ってます)

という本音を言う代わりに

「どうかお気をつけて」

と声かけしてジャンの後ろ姿を見送った。


それが幼いジャンの元気な姿を目にする最後の時だとも知らずに…。


******************


半日が過ぎてもジャンと護衛は戻って来ず

「何かあったんじゃないのか?」

とファレル家の面々も騒ぎ出したが…


どんなに騒ごうが、どんなに心配しようが、ジャンと護衛のベケット、テートの3人は戻って来なかった…。



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