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実際に夏至が近づきーー
ファレル家の貴種達がファレル伯爵家へ集まってくると、にわかに使用人達が忙しくなったようだった。
特に女中や侍女達がめかしこむのに血道を上げていて、いつもより仕事の効率が悪くなっている。
私は知らされていなかったが…
冬場以外は
「月に一度は分家の当主達が集まって安否確認をしている」
らしい。
つまり貴種が何人も集まる事自体は珍しくない。
しかし
「各家の当主=子作りを終えて同性愛にのめり込んだ貴種達」
という事もあって、侍女達がどんなにめかし込んで色目を使っても
「何故か相手にされない」
という図式が毎度あった。
それが春分と秋分の年に2回の集会イベントだと「次期当主」も集まる。
そして今回も同様に「次期当主」も来る。
女性使用人達からすれば
「(相手にしてくれる)貴種様に見初めてもらうチャンスだ!」
という訳である。
(…ジャンはお子様だし、この家の侍女達が陰湿なのは絶対欲求不満もありそうだし、これはこれで彼女達の人格改善に役立つのなら有り難いイベントなのかも知れないなぁ)
などと思ってしまった。
私もお子様なので変な色恋沙汰に巻き込まれる心配もない筈。
欲求不満で毎日ギスギスしてる侍女達が少しでも優しくなってくれたら良いな、と望むのみである。
ジャンはそういう屋敷内の浮ついた空気を察して
「どいつもこいつも色ボケしやがって!気に食わん!」
と怒っているけれど…
そのうち精通して本人が色ボケするようになると、侍女達の欲求不満や色仕掛けを逆に有り難いと思うようになるのだろうに。
年齢通りのお子様は今のところ潔癖症だ。
私のほうではいつも以上に地獄耳で屋敷内のお喋りを盗み聞きするようにしていた。
お陰で、私の盗み聞き網に妙な音が引っかかった。
誰か部外者が屋内で何かしているらしくて…
先ず、ガチッという剣撃の音とも違う聴き慣れない金属音がした。
(えっ?何の音だろう?)
と疑問に思いながら…
音がした方向と距離から屋敷内の間取りのどの辺りかを脳内で割り出す。
その結果
(備品保管庫がある辺り?)
と分かったものの
(それだと「扉の鍵を壊す音」とか?かな…)
と嫌な予想が浮かんで、途端に心臓がドキドキした…。
忍び足は得意だ。
(ちょっとだけ様子を見よう…)
と思い、備品保管庫まで行くと…
扉が開いていて、王国騎士団の団服が見えた…。
グレイス王国の騎士の制服は赤地に黄色のラインが入ったデザイン。
国属騎士団だとそれに獅子のエンブレムが付いている。
領属騎士団だと獅子とは異なるエンブレムが付く。
チラッと見えたエンブレムは獅子の紋様だった。
(誰だろう…)
と気になり
(顔を見てやれないものか)
と近づこうとしたら
「バカ。開けたままだと誰か来た時困るだろ」
と声がして、扉がバタンと閉じられた…。
「………」
私はしばし考え込んだ。
この国の貴族家の子息達は、後継が王立学院へ入学し、後継以外の子息が王国騎士団へ入団するパターンが多い。
金持ちは3年間の見習い期間で騎士資格を得られ、2年間の御礼奉公期間を経れば自由に雇い主を選んで護衛職に就ける。
吸血鬼一族の場合はその辺が特殊でーー
後継であっても騎士団へ入団する者が多く、15歳から20歳までの若い時分を騎士団で過ごしている。
騎士団の入団資格は
「魔力を持つ国民」
となっていて、必ずしも貴族令息である必要性はないが…
平民が平民のまま入団すると過酷なイジメに遭うため、親戚の貴族家が魔力持ちの子供を「猶子」という形で一時的に貴族籍に入れて騎士団へ入団させる事が多い。
それと同じ事は「王立学院」の入学に関しても言える。
貴族との間に何のコネもない平民は、魔力があって騎士団に入団するなり王立学院に入学するなりしても、命の危険に晒される程のイジメ嫌がらせに遭って再起不能にされて逃げ出していく。
或いは行方不明になって「逃げ出したんだろう」と言われる。
(本当は何処かで死体になってる可能性があるのだが、誰も真実を捜査したり犯人を断罪したりなどしない)
偽善の存在しない剥き出しの残酷さが露骨な世の中である。
ファレル家の私兵である騎士資格所持者達は皆「猶子」として一度はファレル家の貴族籍に名を連ねている。
しかし「騎士団を持てるのは侯爵家以上」なので、伯爵家に仕えると「私兵」という位置付けになる。
私兵団はあくまでも騎士団ではない。
団服は騎士団のそれと違うし、ファレル家私兵団のエンブレムは薔薇だ。
「…この屋敷に入り込んだ人間で王国騎士団の団服を着てウロウロできる人って言えば…」
答えは明白。
三つあるファレル騎士爵家の次期当主達。
ライアン・ファレル
ラスキン・ファレル
エルギン・ファレル
である。
騎士爵は世襲のない身分、という事になってはいるが、爵位を持つ者は爵位持ち同士でコネクションを形成する。
そうしたコネを通じて
「騎士爵家の後継が騎士爵を叙爵する」
という事が繰り返される事になる。
人付き合いの出来ない嫌われ者でもない限り
「表向きには世襲がない筈の爵位も実質的には世襲制だ」
という世の中の法則から恩恵を受ける。
ライアン、ラスキン、エルギン、の3名は貴種。
それは現在の騎士爵家の当主達も同じ。
使用人達の噂話によるとーー
「貴種の子供が産まれると先ずは位の高い家の次期当主候補にされる」
というシステムらしい。
つまりは
ファレル子爵家次期当主のカウリー・ファレル
ファレル男爵家次期当主ノークス・ファレル
ファレル騎士爵家次期当主のライアン・ファレル
ファレル騎士爵家次期当主のラスキン・ファレル
ファレル騎士爵家次期当主のエルギン・ファレル
この5人は全員
「赤ん坊の頃はジャン・ファレルとしてファレル伯爵家で暮らしていた」
訳である。
次々と自分よりも純血適性の高い貴種が産まれて来たので、どんどん位が下の家へとやられたのだ。
独自のシステムの家だが…
それで納得するしかないのなら、仕方ない。
ライアン・ファレルとラスキン・ファレルは16歳、17歳と年子。
現在は騎士団で見習い騎士生活中。
夏期休暇を使ってファレル伯爵家へ来ている。
エルギン・ファレルは既に騎士資格を得ている。
今は御礼奉公期間中の19歳。
王国騎士団の団服は、この3人が着用している。
「非番の間は団服着用しなくても良いのでは?」
と思うのだが…
どうやら王国騎士団のほうでは
「非番の間に身分詐称して悪党とつるむ団員もいる」
という点を警戒している模様。
魔力持ちが騎士団で戦闘方法を学ぶのだ。
反社会勢力に誑かされて悪に流れられると普通の人間では対処できなくなる。
常に監視の目が必要。
なので騎士団所属期間中は団服の着用が義務つけられている、という事らしい。
(何で騎士爵家の倅が伯爵家の備品保管庫に忍び込んでるのか…)
を推測してみるに
「絶対悪い事する気だ」
としか思えない。
(とりあえず、2人以上が備品保管庫にいる。出て来る時に顔を確認しておくか…)
と、その場で待機して待ち構える事にしたーー
のだが…
「ブス赤毛!何処だ!」
と遠くでジャンが私を探してる声がする。
「………」
間が悪いお子ちゃまだ。
此処に居るのをジャンに見られて話しかけて来られると困る。
なので私は渋々とジャンの声がする方へと向かったのだった…。




