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挿絵(By みてみん)


ファレル伯爵家はファレル家の本家だ。

ファレル子爵家・ファレル男爵家・ファレル騎士爵家は分家に該当する。

因みにファレル騎士爵家は複数存在する。


ファレル家は豊かになってからも

(貧しかった頃からの伝統で)

「貴種も魔力持ちも騎士団に入団して騎士資格を取得する」

事になっているからだ。

(貧しかった頃と違って3年で自馬騎士となる最短コースで騎士資格を取得しているが)


この家の私兵である魔力持ちの皆様も(約50人)騎士資格持ち。

騎士爵は国から年金が出るが、ただの騎士資格持ちはあくまでも資格取得者。


その分、ただの有資格者だと、資格取得後の2年間の御礼奉公を終えた後は

「誰に仕えるのも自由」

の身となれる。


時折、ファレル家の魔力持ちの騎士が騎士団時代の知人のツテで他の地方の貴族家に雇われる事もあるが…

そういう場合は大抵スパイを兼ねた派遣業務のような仕え方になるらしい。


イアンはグルゴレットヒル侯爵派を

「グルゴレットヒル侯爵家に忠誠を捧げる」

という刷り込みを行っている徹底した軍隊主義だ、と危険視していたが…

実はそれがまんまファレル家にも当てはまっているのである。

(おそらく吸血鬼一族はどこの家門でもそう)


魅惑魔術エンチャントと呼ばれる暗示術。

それが組織的集団の団結力を高めるために使われる事もあれば、逆に敵側の団結力を壊す人心分断目的で使われる事もある。


それは私の祖母や母が使っていた暗示術とは違う。


祖母のエレインや母のエリザベスは魔物や敵対者を金縛りにかけてから暗示で

「攻撃をやめろ」

「今後も攻撃してくるな」

「そして、こうして暗示を受けた事自体を忘れろ」

と刷り込んでいた。


つまり自己防御以外の目的がない。

対象の生涯に影響を与えるような能動的誘導要素が(教唆が)ない。


エンチャントの場合は能動的誘導要素を含む暗示。

普通に相手の人生そのものを振り回してしまう。

軍隊主義のエンチャントが権力傘下の者達へは必然的に振りかけられる…。


******************


ファレル家の慣例行事には

「年に二回、春分と秋分の時期にファレル家本家へ分家の者達がやってきて近況報告をする」

というものがあるらしい。


それが今年は

「夏至の時期にも集まる事になっている」

のだそうだ。


その話を朝食の席でショーン・ファレルからされて

「へぇ、そうなんですね」

と答え、その行事に特に何の意味も見出していなかった私なのだが


ジャンからは冷たい視線を浴びせられ

「皆、お前を見に来るんだろうに、呑気だな」

と言われた。


「え?どうしてですか?」

と驚いて首を傾げると


「お前はジャンの婚約者候補で、次期ファレル伯爵夫人候補でもある」

とショーンが呆れたように言った。


今朝はイアンも食卓に着いていて、何やら楽しそうにほくそ笑んでいる。


「未来は未定なのに…(私がジャンと結婚する前提で見られても)困ります…」


私の中ではファレル伯爵家は

「強くなったら、おさらばする仮初めの宿」

感覚だったので

「将来のファレル伯爵夫人と面識を持っておこう」

とするファレル家の分家の皆様の考えが恐ろしく感じられる。


私の戸惑いをアルバート先生は察知したらしく

「皆、多分、『興味があるだけ』というのが本音だと思いますよ」

と言ってくれた。


「そう、なんでしょうか…」


「皆、『将来のファレル伯爵夫人を見に来る』のではなく、『ミルミドネス伯爵令嬢を見に来る』のだと思います。

もしもセルマさんを実際に見て、至らない点があると感じても、それに関する批判はミルミドネス伯爵家及びシルヴィアス伯爵家及びグルゴレットヒル侯爵家へ向くものと思われます。

セルマさんは子供なのですから、セルマさんに対して大人へ向けるような批判・否定をするような者はいない事でしょう」


「そう言っていただけると安心できます」

先生の言葉の意味を咀嚼しながら、苦笑が漏れた。


(そうか、普通はやっぱりそうなんだな…)

と前世の児童養護施設での女職員の所業を思い出した。


子供に対して、大人の悪人へ向けるべき怒りと嫌悪を向けて、一方的に詰り責める精神的虐待…。

(ああいう事をするのは一部の精神異常者で、ああいう大人を野放しにしてる社会のほうが普通じゃなかったんだ…)


異常ではない普通の社会感覚にはホッとさせられる。

と同時に

(私は随分と身構え過ぎる状態で生きているのだな)

自分自身の頑なさを自覚させられる。


「…『子供でいる』って、本当はすごい特権なんですね…」

私がミルクをじっくり味わってから、噛み締めるように言うと


ジャンは

「バカかお前は」

とすかさず私を貶したが、特に気にはならなかった。


ふとイアンの方を見ると、イアンはジャンを見て肩をすくめていた…。



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