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挿絵(By みてみん)


自分の姿を私は一度も見た事がなかった。


なので

「ママに似て美人さんだ!」

と言われれば、それを信じたし


「ブス赤毛」

と言われれば、それを信じそうになった。


しかしとうとう自分の姿を見る機会が訪れた。

転移魔法陣にアラスター・スミッソンからの贈り物が出現したのだ。


見慣れない指輪型魔道具とペンダント型魔道具。


指輪型魔道具には

「金縛り魔道具だ。魔力を流して標的へと意識を向ければ、金縛りにかけて攻撃を封じる事ができる。ただし敵が『魔術攻撃無効化魔道具』を持っていれば効かない。過信は禁物だが、とりあえずの自己防衛手段に」

と説明書きが添えられていた。


指輪型魔道具は母が使っていた。死体の指からは抜き取られていた。

(金縛りで行動不能にした間に暗示をかけるのが吸血鬼の定番の護身法だもんね。対策を取られればひとたまりもない…)


ペンダント型魔道具のほうには

「認識阻害魔道具だ。色替え魔道具としても使える。特徴的な色目を変化させる事ができるので、お忍びで町をぶらつく時に重宝するだろう。ただし『認識阻害看破魔道具』を使う者には効かない。使い所を間違わず大事に使いなさい」

と書かれていた。


赤毛で菫色の瞳というのは目立つから出歩く際には色目を替えて出た方が敵の目につきにくい分、安全だ、と言いたいらしい。


(有り難いな…)

と思ったが…

(親を亡くした私に良くしてくれる人というのは、何を考えて親切なのだろうか?)

と、ふと疑問には思う。


身内意識が当たり前にある環境では、アラスターのような親切も当たり前なのかも知れないが、私にとってはそうした親切は慣れないもの。


前世では

「この人と仲良くしたら得できそう」

「コイツに依存されると足を引っ張られそう」

といった損得勘定が対人関係の背後にはいつもあった。


親切そうな人達がいても何の目論見もない親切など存在していなかった。


あの社会における親切は

「福祉の仕事だから表面的に親切っぽく接してる」

「自分自身を善人だと思いたいから親切っぽく接してる」

といった社会的自己像粉飾が目的だったり


「陰口のネタを仕入れるために親しそうに接して情報を引き出す」

「犯罪の標的にするために親しそうに接して情報を引き出す」

といった悪意に基づく親和性の擬態だった。


身内意識に基づく身内への配慮など、乳幼児期に育児放棄されて餓死されかけた私には無縁のものだったのだ…。


「…普通に子供を愛する親の元で生まれて、普通に親戚の子供に配慮してやる大人に見守られて生きるのって、胸が温かくなるものなんだな」

と、改めて前世と今世との格差を実感できた。


「それにしても、色替え魔道具か…。認識阻害魔道具って、顔を変えたりする用途だけかと思ってたんだけど…。顔を変えて見せる『フォルム変形』の他に色目を替えて見せる『色彩変更』もできたのね…」


これがあれば毎日同じ服を着ても服の色を変えてお洒落を楽しめる。

面白そう。


しかし使用説明書に従って使用してみても

「本当に瞳の色が変わったのか」

の確認が取れない。

なにせ自分の姿が鏡に映らないのだから。


それでもペンダント自体が可愛かったので身に付けていると、授業の時に先生が

「おや、認識阻害魔道具ですね。上手く使えましたか?」

と訊いてくれた。


「髪の色だと視界の端で色の変わった髪が見えますが、自分の瞳の色に関しては鏡で確認しないと分かりません。

私は自分の姿を鏡に映せないので未だ魔道具がちゃんと機能してるか確認できてない状態です」

と困っている点を述べると


「なるほど。それでは今日は自分の姿が鏡に映るように魔力の鎧に自分の姿を投影する訓練をしましょう」

と言ってくれた。


そう言われて、一つ気にかかった。

「…自分の姿を鏡に投影するのではなく、魔力の鎧に投影するんですね?」

と尋ねると


「そうです」

との事。


「鏡へ投影すると、投影した時しか姿が見えません。ですが、魔力の鎧に投影して定着させておくと、いつでも鏡に映ります。

しかし問題があります。魔力の鎧への投影は平面的投影ではなく立体的投影なので、貴種の御二方には先ず俯瞰ふかん術によって『自分自身を外から見る』という体験をしていただく事になります」


(難しいのかな…)


「物理攻撃耐性強化術は先日教えましたね?あと、暗示術はセルマさんは習得なさってますか?ジャン様は習得済みですが…」


「遮光術と暗示術と水生成は母に習って習得済みです」


「それは丁度良かった」


吸血鬼は暗示が得意と言われるが、吸血鬼は魔力放出する放出口が指先の他、眉間と頭頂部と喉にもある。

人間の魔力持ちは魔力の放出口は指先にしかないので、それ以外の場所から魔力放出するには放出口を自力で作らなければならない。


暗示のような部分的書き換えの場合には眉間の放出口を使って魔力放出するが、洗脳のような総体的書き換えの場合には頭頂部の放出口を使って微量の魔力を長期間に渡って放出する。


先生が暗示術を習得済みか確認してきたのは

要するに

眉間の放出口を使った事があるか

喉の放出口を使った事があるか

という確認も兼ねている。


頭頂部の放出口を使った事があるか

を訊かないのは

遮光術が出来る吸血鬼は遮光術の使用中

微量の魔力を頭頂部の放出口から出し続け

傘状の遮光障壁を張り続けているので

訊くまでもないのだ。


「暗示術と違い、俯瞰術は肉体の目とは別の視覚を作り出す必要があります。それこそ脳内イメージの中に水晶玉を作り出して、それと眉間部分で具体化して視覚作用とに関連を持たせ、次いで頭頂部へと移動させて頭頂部の魔力放出口から紐付きで押し出す事になります。

その後は自分の周囲をグルグル回らせて自分自身を観察するのです」


「俯瞰術、ですか?」

私が感心していると


ジャンが

「面白そうではあるが、そういうのは他に役に立たないのか?」

と鋭い質問をした。


「俯瞰術を極める事で『常時後ろにも目がある状態』を維持できます。俯瞰術の達人は視界が360度開けているので死角が出来ず、不意打ちの危険を大きく減らせます」

先生がそういうと


ジャンは俄然ヤル気になったらしい。

「これで複数人相手でも戦えるようになるな」

などと戦闘狂みたいな事を言う…。


「ともかく先ずはやってみましょう」


「はい」

「分かった」


私は早速水晶玉のイメージを掻き立てる。

前世では水晶玉と言えば占いのイメージだったが、ここでは肉体の目を補う第三の目だ。


比較的簡単に水晶玉をイメージできて、そのイメージ群を眉間のチャクラ辺りに移動できた。

具体化して視覚作用とに関連を持たせる、というのがよく分からないが…

(つまり「眉間にもう一つ目が出来たイメージ」で「眉間から物を見る」という事ができれば良いんだよね?)

と確信はないながらも、眉間から物を見ようと魔力を集中させた。


すると目を瞑ってる状態でも眉間視点から物が見えた。

(おお!)

と内心で驚喜しながら

(次は頭頂部への移動か…)

と思いながら水晶の目を動かす。


前世でやった胃カメラでカメラが食堂を通る時のような映像が見えながら微妙な違和感と痛みも感じた。

だが、上手くいった。


頭頂部から水晶の目を押し出すと、自分の姿を上から見てるような映像が見えた。


(髪、結構ボサボサだな…。髪色も綺麗で艶もあるのに、惜しい…)

と自分自身を少し残念に感じた。


(さて、私はどんな顔なのかな?)

と思い、水晶の目を顔の前へ移動させると


「は…ははは」

と思わず笑いが漏れた。


(可愛い!可愛い過ぎる!すごい!何コレ!絶世の美幼女だ!すごい美人になるぞ!)

と自分が美醜の面では完全に勝ち組なのだと確信した。


(この顔をブスだと言う奴の方が美的感覚が狂ってるんだ。ジャンのアホの戯言は今後一切気にしないでいよう)


ジャンの方は難しくて難航しているようだ。

先生がジャンに付きっきりになっている。


その隙に私は自分の全身を確認。

(ハァァーッ。…本当に愛らしい…。自分で言うのも何だけど、ホントお人形さんみたい…)

と自分で自分に見惚れた…。



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