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北部は吸血鬼達にとっての人間牧場。
国内でそう周知されているし、北部人もそれを自覚している。
それでも北部の人達の吸血鬼達への不満は少ない。
80年ほど前までは北部人も吸血鬼達に不満を持ち、現状を改善してくれない国家権力にも不満を持っていたらしい。
それで不満ある北部人達は
「元々、北部はグレイス王国とは別の国だった」
(その頃から既に吸血鬼に支配されていたのだが…)
という歴史を盾にして
「グレイス王国からの独立を目指す反乱」
を起こした。
そうした内戦自体は1年もかからずカタがついたものの…
残党が暗躍する事態は延々続き
「残党狩りには10年もかかった」
と言われている。
それが今から70年くらい前の事。
そして丁度その頃くらいから鉱山で魔石が採掘されるようになり北部は徐々に豊かになっていった。
北部人からすれば
「反乱軍の残党が消えてから豊かになった」
という印象が残っているので
「お上に逆らわずにいたほうが無難に豊かに暮らせる」
という刷り込みが起きてしまっているらしい。
とは言えーー
そうした見方は吸血鬼側の知的権威が書いた北部史による見解を先生が授業で語ったものなので、北部人達から直接赤裸々な意見を聞いたとかではない。
ただ私としては
「逆らわずにいたほうが無難に豊かに暮らせる、という刷り込みが人間達を去勢する」
という見解は正しいと思う。
植民地化される国々が大人しく植民地状態を受け入れるのも
「逆らわずにいたほうが無難に豊かに暮らせる、という刷り込み」
ゆえだ。
地球ではそういう刷り込みが世界規模で展開されていたのだが…
「本当に無難に豊かに暮らせていた植民地国民は実はごく一部だったろう」
と私は思っている。
つまり人間には「嘘を信じる能力がある」のだ。
それゆえに「自分を奴隷だと自覚していない奴隷ほど自発的によく働く」という法則が作動する。
地球の実存権力は秘密結社化して陰湿に存在していた。
自由主義社会・資本主義社会に見せかけられたカルト支配社会。
そこでは「自分を奴隷だと自覚していない奴隷ほどよく働く」という法則が作用する。
資本主義社会に見せかけられたカルト支配社会は、社会主義国・共産主義国を自称するカルト支配社会よりも豊かになれるのだ。
「人々に嘘を信じさせて、搾取しながらも、それらの事実を認識させずに満足感を持たせる」
には、一部では嘘を真実にしておかなければならない。
賭場におけるサクラのようなもの。
胴元が一人勝ちする賭場において、客は一方的に金を失うだけなのに
「ちゃんと儲けてる人もいる」
という事例を作り出す事で
「ギャンブルは儲かる事もある」
という嘘を大々的に人々に信じさせる手法。
先生の言うところによると
「東部の古くからの貴族家や豪商一族は北部の現状に対して批判的です」
との事。
どうやら
「北部人達が大人しく吸血鬼どもの支配を受け入れているのは、吸血鬼どもが北部人達を恐怖で蹂躙しているからだ」
(吸血鬼が人間をストックホルム症候群に罹患させてるからだ)
と思っているらしい。
まぁ、そういう一面は確実にあるのだろうが…
人間は恐怖で蹂躙されて無理矢理従わされる状態が続くよりも、平和的欺瞞情報に騙されて自発的に平和ボケして真面目に働く生き方を好む。
ファレル家の方針として
「半世紀ほどで代替わりして、引き立ててやる上級市民をも入れ替える」
という方法は私としては効果的だと思う。
「呪い・祟りが煮詰まる前に厄を移す」
「天邪鬼が生み出される前に恩寵を移す」
そうした施政によって、世の中に生み出される苦しみも悲しみも驕りも嫌悪も混ざり合い相殺されてゆくのだろうから…。
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アルバート・ファレル先生の授業はためになるものが多いがーー
今回の授業は特にそうだった。
「今日は貴種にとって最も重要な技術について説明しておきます」
と前置きされて説明された内容は本当に重要事項だった。
「貴種に関する情報は人間達の間でも意外に広く伝わっていたりします。人間達が貴種の強さを見分ける着目点の一つが『影が有るか?』『鏡に映るか?』という点だという事を貴方達は早目に知っておいた方が良いのです。
何故なら、貴種が『影を作る』『鏡に映る』のには『物理攻撃耐性強化』が深く関わっているからです。
貴種は基本的に運動能力と回復力が人間よりも優れていますが、不意打ちで攻撃されれば人間同様に傷付きます。
そうした事態を回避するべく魔力を使って『物理攻撃耐性強化』を常態的に行う訳ですが…その副産物として影ができてしまいます。
鏡に映るにはそこに更に『自分自身の姿の投影』を行う事になりますが、ベースに『薄くて堅い魔力の鎧を着ておく』必要があります。
その『薄くて堅い魔力の鎧』こそが『物理攻撃耐性強化』によるもので、そうした事実を人間側も理解している事があります。
すると人間側は『影がなくて鏡にも映らない貴種は影があり鏡にも映る貴種よりも弱い』と気が付いてしまう。
子供や若者の貴種は特に『影が有るか?』『鏡に映るか?』をチェックされてしまうので、そこで影がなく鏡にも映らないと知られてしまうと『弱い。狩りやすい』と思われてしまうのです。
そうした事もあり、遮光術を息をするように四六時中自然に行えるようになった後は、他の学習と並行して四六時中自然に魔力の鎧を纏い続ける訓練を行う事になっています」
そう言われてーー
「先生。そういった魔力の鎧は全ての大人の貴種が四六時中身に纏っているのでしょうか?」
と疑問に思った。
「いえ、適性が無いという事なのか、どんなに訓練しても四六時中の使用はできないという貴種の方もいらっしゃるようです」
「なら、俺も別に頑張らなくても良いんだな?」
「ですが魔力の鎧の常態使用が身に付かない貴種の方の場合、『一生北部に引きこもっていなければならない』という制限が課せられます。
人間達の社交界へ参加できないのです。安全ではありますが、刺激のない面白味のない生活になるものと思われます」
「…それは、少し嫌だな」
「ええ。頑張って身に付けてくださいね」
先生にそう言われて
ジャンは
「分かった…」
と、渋々頷いた。
先生は北部に引き篭もる吸血鬼の生活が面白味のないものだと言うが…
吸血鬼が人間社会で人間と親交を結ぶのは大変である。
人間らしく生きるために遮光術の常態使用は勿論、『物理攻撃耐性強化』の常態使用も必要で、更に白過ぎる肌色を健康的な血色に見せかける事も必要になる。
グレイス王国北部の場合は陽光が弱いので、元々色白な者なら吸血鬼と同様に真っ白な者も居るには居るが、他の地方、他の国では色白過ぎるのは目立つ。
活動範囲がグレイス王国北部から離れれば離れる程、常態的に術や魔道具の使用が必要となるのだ。
(そう言えば、曾祖母様も新大陸の北部で暮らしてるって話だったよな…)
と思い出す。
経度が大きく変わるものの緯度はそこまで変わらない環境。
それが吸血鬼にとっては暮らしやすいのだろう…。




