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挿絵(By みてみん)


この屋敷の家庭教師は優秀な魔力持ち。

なので一般常識や歴史、読み書き計算の他に魔力操作・魔力運用もまた学習内容となっている。


遮光術などの吸血鬼特有の必須技術は、北部でも大抵物心ついた頃から親に教わるものらしく、ジャンも身につけている。


「ーー基本的に、魔力持ちは魔力のない只人よりも長生きで丈夫ですが、意図して魔力を使う事で傷の治りを早めたりできます」

と言うのは家庭教師のアルバート・ファレル先生。


血筋的にはイアンの子供の1人らしいが、貴種ではないのであくまでも使用人。平民。

伯爵家の家人という貴族扱いは受けられない。


実の父親や異母兄弟や甥や甥の子供に対しても「様」付けで呼ばなければならないポジション。


しかし体内魔力を透視する限りでは魔力量も多くて、魔力回路にも整合性がある。

(この人、実は魔術師なんじゃないのかな?)

と思う。


だけど隠れ魔術師だった場合

「隠れ魔術師です」

と、どの程度周知させるものか…

この国の普通が分からない。


(「隠れ魔術師ですか?」と聞きたいけど、何も聞かずにおいた方が無難そうだ)

と思い、その問題に関しては見て見ぬフリをする事にした。


それにどことなく顔立ちが父に似てる気がした。

ファレル家の人にフェアバンクス家の血が混じっている筈がないので、完全に他人の空似だと思うのだが…

そういう理由もあって、私はこの先生が困る質問をする気にはなれなかった。


そのアルバート先生。

「よく見ててください」

と言って小型の折りたたみナイフを取り出して、シュッと自分の腕に切り傷を付けた。


私は思わず目を瞠り

(へぇ…度胸はあるんだな)

と少し感心した。


先生の腕から血がダラダラ流れたが

「魔力を使って止血し、傷を塞ぎますね」

と先生は笑顔で宣う。


私は

(魔力を使って傷を塞げるんだ?)

と興味津々に先生の腕を見つめ、先生の魔力の流れを観察したが


ジャンのほうは

「…貴種は意図的に魔力を使ってどうこうしなくても、勝手に傷は塞がるぞ」

と言って、授業内容には興味が無さそう…。


それよりも先生の血が美味しそうに見えるのかゴクリと生唾を呑み込んでいる。

(ちゃんと朝食でたっぷり血を摂っているのに食欲旺盛なことだ)


「…人体の仕組みを理解して意図的に魔力を使えば回復力が上がるのは人間も貴種も同様です。

これまでのところ、貴種であっても切断された四肢が新たに生えるという事がありませんでした。始祖様以外は。

ですが始祖様の体内で起きている仕組みを理解して、それを模倣すれば他の貴種も回復力を引き上げる事ができる事が分かっています」


「そうなんですか?指とか切断された時に、切れたパーツの指を回収しておいてくっ付ける以外では元に戻らないと習いましたよ(ママから)」

と私が疑いの目を向けると


先生は

「人体の仕組みを理解して意図的に魔力を使えば、という話ですよ。セルマさん」

と微笑んだ。

既に傷からの出血は止まり、瘡蓋ができている。


「先生は貴種ではないんですよね…」


「ええ」


「でも貴種並みに回復が早いですよね…」


「ええ。人体の仕組みを理解して意図的に魔力を使いましたから」


「…私達が同じようにやれば始祖様レベルの回復力に近づけると?」


「そうです」


「本当か?」

途端にジャンの目が輝く。現金なものだ。


「それなら、始祖様が同じ事をしたら、その回復力は更に上がるんですね」


「おそらくは。始祖様は既に人間の冒険者の間ではSSランクだと言われてますが、北部の始祖様と西部の始祖様とでは若干性質が異なります」


「普通の貴種は何ランクだ?」


「子供の貴種はGランクからCランク。大人の貴種はBランクからSランクといったところでしょうか」


「Sランクは『空中戦ができるAランク』という分類でしたね?それだとSSランクは『空中戦だけでなく水中戦もできるAランク』が当てはまるとかですか?」


「そうです。ランクのSは『地上の生命生息域と異なる環境でも万能な強さを発揮できるか?』が基準になって付与される称号です。

始祖様は空中でも水中でも戦えます。それに加えて毒の中でも炎の中でも戦えます。

どんな環境にも左右されずに戦えるのでSSランクと推定されているのです」


「すごいな。やっぱり、始祖様って…」


「…確か、始祖様は普段は他の者が来たら死ぬような場所で暮らしてるんですよね?」


「始祖様には活動期と休眠期があります。北部の始祖様だと、活動期には人間のように人間社会で生活なさいますが、命を狙う敵が湧いた時などには結界を施した地下宮殿でお過ごしになられます。

休眠期は神様がいらっしゃるエリアでお眠りになられるそうです」


「活動期と休眠期…」


「以前はお一人の始祖様が150年単位で活動と休眠を繰り返していらっしゃいましたが、西部の始祖様が誕生された事で、西部の始祖様が活動期の間は北部の始祖様は休眠期に、西部の始祖様が休眠期の間は北部の始祖様は活動期に、と入れ替わりで活動と休眠が繰り返される事に決まったそうです。

今現在、北部始祖ハワード様は休眠期に入っておられるので、西部始祖のコーネリア様が新大陸にいらっしゃるだけですね」


「始祖とは『神様とお会いして神様から力を授かった貴種』の事ですよね」


「ええ。我らが北部の始祖ハワード様は使い魔の眷族を無数に生み出す力を神様から授かっていて、西部の始祖コーネリア様は死者を生き返らせる力を授かっているとの事です」


「そもそも『神様と会うのに必要な条件』が『自分自身を生きたまま転移魔法陣で神様の元へ転移させる事』でしたっけ?」


「はい。今では多くの者達が知る情報ですが、必ず船が遭難する魔の海域の中心に転移魔法陣があって、始祖様はそれに巻き込まれて神様の元へ転移したのだと言われています」


「…西部では神様に関して色々言い伝えられてます」


「どんな話が?」


「神様はかなりイカレた性格で、不幸な人間を助けないのも、貴種のような不条理な存在を作り出して人間を支配させるのも、『この世界へ参入してくれている皆様に多様な体験をしていただくサービスです』とか言ってるって話です」


「…『サービス』ですか…。それが本当なら神様には心というものが無いのかも知れませんね」


「北部ではそんな話聞かないぞ?そもそも神様に対して不敬じゃないのか?」


「北部では神様は崇拝対象でしょうから、神様を尊敬できなくなるような話はタブー化されているんじゃないでしょうか?」


「そうなのかも知れません」


「と言うか、西部では神様を尊敬しないんだな?ロクデモナイ連中だな。西部人どもめ」


「…始祖様レベルの回復力を身に付けられれば、転移魔法陣で神様の元へ転移したりできるようになるのでしょうか?」


「可能性はゼロではないでしょうが、かなり低いと思います」


「そうですか…」


「何をガッカリしてるんだ。始祖様レベルの回復力があれば首を落とされても死なないで済むんだぞ?喜べよ」


「そうですね。喜ぶべきなんでしょうね。たとえ神様に会えなくても…」


ほぼ間違いなく北部吸血鬼一族の崇める神は【管理者】だろうと思う。


それに対してーー

普通の人間達にとっての神は

「自己調整作用を内包する集合意識」

を指すようだ。


私としては【管理者】に会ってチートをもらえるなら、それに越したことはないと思うので【管理者】を崇める吸血鬼側の信仰でも構わない。


「ともかく、子供のうちは身体が出来上がっていないので身体強化を常態的に使用し続ける事はできません。

ジャン様もセルマさんも今、天敵と遭遇すれば容易く殺されます。少しでも生存率を上げるために早めに回復力強化する魔力の使い方を覚えてください」

と先生が授業の必要性を説いた。


私は自分の中の魔力を動かすことに慣れてきてるので、先生の教えてくれた回復力の強化は直ぐに覚えたが…


ジャンよりも劣っているフリをしなければならないという制限があるので

「難しいです。できるようになる日が来るとは思えません」

と無能である演技をした…。



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