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挿絵(By みてみん)


ファレル家本家。

ファレル伯爵家ーー。


この家の先先代当主であるイアン・ファレルは私の曽祖母の父、つまり私の高祖父に当たるのだと説明を受けた。

つまりファレル伯爵家先先代当主イアン・ファレルこそが、始祖コーネリアの産みの母であるヴァイオレット・ミラを弄んで不幸にした張本人だという事だ。


私の内心は不信感で満たされてしまい

(…そんな軽薄・薄情な男が血縁者ぶって「引き取る」と言ってくれても、気に入らなかったら、すぐに放り出すんじゃないかな…)

と思ってしまった。


ともかく私は吸血鬼の能力があるだけでなく特約契約者でもある。

ちゃんと魔術について学べる機会があればチート能力を身に付けられる。

その時点まで生き残れれば、ちょっとやそっとでは死なない筈。


(強くなれるまで、頑張って媚びて、養ってもらえれば良い…)

という心算で、大人しくファレル家まで連れられて来たのだ。


アラスターが

「先ずは現当主と話をして、お前を引き取ってもらえるのかどうか確認しよう」

と言ってくれたのでコクンと頷く。


ファレル家の屋敷はアッシュクロフト家の屋敷よりも古そうだが、アッシュクロフト家の屋敷と違い、手入れが行き届いている。

養女に独りで家事をさせるとかではなく、ちゃんと使用人が大勢いるようだ。


掃除や洗濯や馬の世話をする下級使用人だけでなく、当主とその家族を世話する上級使用人もいるらしい。


「領地に金山が見つかってからファレル家は裕福だ。騎士団代わりの私兵団50人強を加えると使用人の数は80を超えるだろう」

とアラスターが説明してくれた。


(私兵団なんてものがあるのか…)

という点は少し引っ掛かる。


将来、この屋敷を逃げ出すに際して、私兵団のような集団は障害になる気がするからだ。


(まぁ、その問題は強くなってから考えよう)

と一先ず棚上げして、屋敷周り・屋敷内で働く使用人達の服装に目を向けた。


下級使用人は茶色のズボン、スカートに、生成りのシャツとエプロン。

上級使用人は濃灰色のズボン、スカート、ベストに、白いシャツとエプロン。

どうやら服も支給しているらしくデザインも同じ。

痩せこけてる人はいないので賄い飯も充分な量が出ているのだと思う。


(この人達はみんな人間なんだよね?)

と容姿に注目してみると、皆金髪か金茶髪で健康的な顔色。

多分、全員人間だ。


私の方へふと視線をやると

「あっ!」

と小さく驚きの声をあげて、その後ずっとチラチラ見てくる感じ。


余程

「赤毛に菫色の瞳」

が珍しいらしい。


(西部吸血鬼の特徴だって知ってるからなのかな?)

と少し思う。


北部吸血鬼は瞳が赤い。

髪色は黒・銀色・白のいずれか。


イアン・ファレルは白髪赤眼。

所謂アルビノだという。


(イアン・ファレル。…どんな人なんだろう…)

少し期待はある。

何せ私は母以外の吸血鬼を知らない。

興味は当然ある。


アラスターの方は少し顔色が悪い。

御守り代わりなのか、首から下げているペンダントをギュッと握りしめている。


侍女っぽい位置付けの上級使用人が茶を運んで来たがアラスターは口を付けない。

嗅覚の敏感な私からすれば

(薬草茶かな?)

と思われた。


「現当主と先先代当主は不在ですので、代わりに先代当主が対応されます。少々お待ちを」

そう言われて待つ事15分くらい。


白髪赤眼の若い男が応接室へ入って来たので

(うわぁ〜…。やっぱり若いな。本当に吸血鬼は歳を取らないんだな)

と分かった。


「先代当主のショーン・ファレルだ」

と挨拶されて真っ先に思ったのは


(「ショーン」って…お父さんと同じ名前だ…)

という事。


アラスターが

「アラスター・スミッソンJr.です」

と名乗り


「そしてこちらが」

と私を示したので


「セルマ・フェアバンクスです」

と本来の名前を名乗った。


アッシュクロフト家の籍は外れているので、忌わしいアッシュクロフト姓を今後は二度と名乗らずにすむ。

清々する。


ともかく今は

「現当主様のお名前は何とおっしゃるのですか?」

と疑問に思った事も尋ねておく。


「現当主はジョアン・ファレルだ」

という返事を聞いて


「それじゃ、次の当主はヤンとかヨハンとかですか?」

と興味本位で訊ねると


「次の当主はジャンだ」

との事。


(「ヨハネ」って名前から派生した名前を付けるのがファレル伯爵家風なのか?)

と少し穿った見方をしたくなる。


「…我々は殺されない限り死なないし、長生きなので、ずっと同じ者が当主で居ても良さそうなものだが、同じ者が当主を務めると領地内で貧富の差が激しくなって民の数が減っていく傾向がある。

同じ者が当主だと『同じ相手を惰性で依怙贔屓し続けてしまう』から、その手の上級市民が毎度悪質化して民を苦しめるようになってしまうようだ。

なのでファレル家の当主は半世紀程で交代するようにしている。

結局のところ施政とは、支配者側から見れば『誰を優遇して、誰を冷遇するか』を決めるだけだからな。

我々が長生きでも人間は入れ替わる。代替わりして息子が父親同様に上手く仕事をこなせるとは限らない。

優遇してやると調子に乗って民を虐げる人間は優遇枠から外して、優遇枠の人間を入れ替えていかなければならない。

因みにジャンはまだ幼児ながら次の当主だと決まっている。

純血に近いほど遮光術を覚える前の貴種は(吸血鬼は)陽光で痛手を負い、傷が癒えるまでの時間も短い。

それを目安にする事で幼い内から次の当主を決めて、それに相応しい教育を施せる」

ショーン・ファレルの説明を聞きながら


(特殊な家柄だなぁ)

と思った。


「そうなのですね。…遮光術を使わない状態で陽光から受ける痛手が目安だと、セルマは純血には近くない事になりますね」

アラスターも同じ意見なのだろう。


「そうだな。本当はこの子の母親の方が欲しかったところだが仕方ない。当人の生命の安全よりも当人の恋愛感情を優先したのはそちらの落ち度だ。貴重な女性貴種をお前達は二代にわたって死なせている」

ショーン・ファレルの責めるような言い方に対して


「殺したのはヴァンパイア・ハンターです…」

とアラスターは顔色を青くした。


「襲われるのが分かっていて守ってやれなければ『死なせた』と言う以外に表現はないだろう」


「…そうですね。申し訳ありません」


「…貴種は本当に貴重なんだ。年々生まれにくくなっている。元々、男子にしか受け継がれず、尚且つ生まれた男子が貴種になる確率も半々だった。

今では男子が貴種として生まれる確率自体がさらに下がっている。

ジャンはそんな中でも純血性の高い貴種だ。貴重な女性貴種を娶らせれば多少は出生率の低さを改善できるだろう」


「セルマにジャン様のお世話をさせる気ですか?」


「8歳の子に7歳の子の世話は無理だろう。遊び相手を兼ねた婚約者だ」


「遊び相手、ですか…。セルマ、できそうか?」


「遊び相手って何をすれば良いんですか?」


「名目上は侍女として側に付けるが、実際には友達代わりのようなものだと思ってくれ。基本的に一緒に勉強したり、一緒に武術を習ったりして、常に負け役を演じてもらう事になる」


「それは…お坊ちゃんよりも全てにおいて劣ってるフリをして、ヤル気を鼓舞しろという事ですね」


「ああ。だが本当に無能では困る。なのでお前にはお前用にジャンがいない時に試験が課される」


「それで良いです」


「なら決まりだな。お前用の部屋に案内させる。私達は書類上の手続きの面で未だ話し合う事があるが、それが済めばアラスター・スミッソンも西部へ帰るだろう。

何か西部の親戚に要望があれば今のうちに伝えておくと良い」


「それなら…。お祖父様に『お身体お大事に』と伝えてください。小さい頃に可愛がってくれたのを少し覚えてるんで」


「分かった」


「よろしくお願いします」


「ああ。任された。ではまた。あと、欲しい物があればエリザベスが使ってた転移魔法陣で注文してくれ」


「代金は?」


「エリザベスが先払いしてくれている。その分の金を使い果たしても、お前のお祖父様が支払ってくれる約束になっている」


「そうだったんですね…」


「『不自由はさせない』だそうだ。あと『エリザベスを守ってやれなくてすまなかった』と」


「………」


「達者で暮らせよ。ただの人間の魔力持ちに過ぎない俺達がヴァンパイア・ハンターのような殺人鬼集団に太刀打ちできないからと言って、決して身内のお前を見捨てているという訳じゃない。幸せを祈っている」


「ありがとうございます」


「ああ」


「ではこれで」


「ああ。機会があれば、また」


私は最後にアラスター・スミッソンとショーン・ファレルに向かってお辞儀してから部屋を出た。



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