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挿絵(By みてみん)


ファレル家の吸血鬼は白髪赤眼のようだ。

所謂アルビノ。

ショーン・ファレルもジャン・ファレルも白髪赤眼。


7歳児の吸血鬼ジャン。

北部では吸血鬼を貴種というらしいので7歳児の貴種と言い換えるべきか…。


生意気だな、と思うが7歳という年齢を考えると

「こういうものか…?」

と思わなくもない。


私を見るなり

「新しい使用人だな?赤毛はこの辺じゃ珍しいし、お前、ヨソ者だろ?」

と言った。

異物排除意識丸出しの剣呑な目つきで。


(…7歳児にしてはしっかりしてる…)

と感じたものだが、しかし所詮は7歳児。


たまに鋭い発言をする以外では、幼児らしく勉強を嫌がり、些細な事で使用人に当たり散らすワガママな性格だった。


ただ使用人に怒鳴りつける割には手は出ていないので暴力的なクソガキよりは多少は行儀も良くマシではあるのだろうが…


(…このガキよりも無能のフリをするのって、色々演技力が必要になる気がするんだけど…)

と思った。


それでも食事に困らない生活は良い。

過酷な労働もない。


感情労働や演技は…前世で慣れている。

前世の記憶が戻った状態なので上手く対応できる。

セルマだけの意識だったら適応が難しかったかも知れないが…。


「ジャン様、流石ですね」

と、何かにつけて褒めてやると


ギロリと睨みつけられて

「ふん、お前なんかとはデキが違うからな」

と憎まれ口が返ってくる。


「毎日感情労働するのが当たり前」

という環境の中で、いつの間にか自然にお世辞が身に付いていた前世の自分が今でもちょっと悲しい。

しかしそれが今では役に立っている。


心理面では

「前世からの持ち越しか?」

と思うような踏み付けられ環境だが…


この屋敷で用意してくれる衣食住は

「明らかに金がかかっているもの」

ばかり。


服も私に用意された物は他の侍女のようなお仕着せとは違い、令嬢風のデザイン。

一応ミルミドネス伯爵家の籍に入っている伯爵令嬢なので、その点が配慮されている。


部屋も家人用の美しい広い部屋を割り当てられている。

食事も複数種類のある果実酒や薬酒、山羊や牛の乳、野菜やハーブや果物の搾り汁、人や魔物の血、新鮮な魚肉などが提供されていて、明らかに他の侍女とは待遇が違う。


「前世の貧乏暮らしは一体何だったのか?」

と不思議に思うくらい

「たった1人をヨイショするだけ」

で良い暮らしができている。


このファレル家本家はミルミドネス伯爵家同様に伯爵家。

領内にある魔石鉱山のお陰で金持ち。

私もそのおこぼれにあずかれているのだ。


とは言えーー

【地球世界】と比べると

「何でもある」

という訳でもない。

先ず、テレビやインターネットがない。

トイレが水洗じゃない。


それでいてーー

各種ギルドの発行するギルドカードは異様に高性能。

銀行も存在し、個人識別情報として血液や唾液が用いられる。


魔法収納の袋が存在していて、小さな袋に大容量の荷物が入る。

高級品にもなると時間経過がないものもある。


電話はないが転移魔法陣がファックス的な役割を果たしている。

冷蔵庫っぽい魔道具もある。


難点としてこの【世界】は娯楽が少ないので…

麻薬や賭け事にハマる者が多いらしい。

そういった連中が借金を重ねて借金奴隷になっている社会。


しかし私は前世では無趣味で、娯楽などこれといって何も味わっていなかったので…娯楽の少ないこの【世界】の文化レベルでも全く苦にならない。


(インターネットは主に舅親や子供が病院へ行く前にネット予約する用途だったし、SNSは「人気擬態要員」としてさせられてただけだったし…。インターネットが無い社会でも全然困らないんだよな…)

と、自分でも少し情けなくなる。


【地球世界】の文明の恩恵を充分に受けていたとは言えない事が今更ながらよく分かる。


それにしてもーー

次期当主と目されるジャン・ファレルは甘やかされ過ぎている気がする。

皆が皆、彼に媚びている。


ジャンには護衛が常に2人以上付いている。

護衛は私兵団の中から強面ではない人達が選ばれていて交代で役目に付いているらしい。


この家の使用人は、私兵も含め、皆魔力持ち。

市井に出れば「優秀な人材」と言われるレベルで何かしら特技がある。

魔力を見る限りでは男性使用人達は私兵じゃなくても、その辺のゴロツキよりも遥かに強いんじゃないかと思う。


「北部は魔力持ちの戦闘員の数が他の地域とは比較にならないくらいに多い」

とアラスターから教えられていた。

この屋敷に引きこもっている限り安全と言えば安全だ。


この屋敷の女使用人達ーー侍女達も当然

皆が皆、魔力持ちで見目麗しい。

ジャンの侍女はダーラとジェナ。

12、13歳くらいの美少女達だ。


彼女達からはこの家の事情を多少聞かされた。


「ファレル家は1500年以上続いた名家だけど徐々に貴種が生まれにくくなっているので貴種は大事にされるものなのよ」

との事。


貴種の中で純血要素の高い子から順に家格の高い家の次期当主と見做される。

(ジャンより純血要素の低い貴種は「分家の次期当主」の座に就く)


「貴種は必ず次の世代の貴種を生み出しておくべし」

という価値観が背後にあるとかで…

貴種が一夫一妻制を貫くような事はほぼない。

(例外として領内で魔術師の女の子がいれば赤ん坊のうちに引き取って育て、正妻にする事はあるらしい)


ファレル家のみならず吸血鬼一族に共通する人事事情だとの事だが…

吸血鬼一族では

「侍女に手を付けて孕ませる」

のが繁殖の常套手段となっているのだそうだ。


貴種は屋敷内の侍女に自由に手を付けて良くて、子供自体は沢山生まれている。

生まれた子が魔力持ちだった場合は屋敷に残して貴種に仕える使用人として育てる。

生まれた子が魔力無しの只人だったなら市井で庶子として育てられる。


使用人として屋敷に残る魔力持ちの子供も、男子なら生まれた家にそのまま残るか分家で育つが、女子だと基本的に他の吸血鬼一族の家にやられる。

近親相姦を避ける工夫らしい。


そうした事情があってファレル家の侍女達は皆、ファレル家以外の吸血鬼一族から来た魔力持ちばかり。


「ファレル家の貴種のお手付きになる」

のを想定して送り込まれている。

「貴種のお手付きになって子を孕む事は名誉な事だ」

という価値観がある訳である。


色々ツッコミ要素満載の現実だが…


皆が皆、それに適応しているのだから、私独りが不満に思っても仕方ない。

私も慣れるに限る。


と思うもののーー

私が仕えるべきジャン・ファレルは私のことがお気に召さないようだ。


ジャンの元侍女にエルシーという同じ歳の幼女がいて、その子がジャンのお気に入りだったらしいのだが、私がこの屋敷に来る事になったせいで急遽別の家へやられている。


ジャンの幼馴染兼、将来の愛人候補だったのだろうが、ジャンの将来の嫁候補として私が引き取られてきてしまったので、エルシーは他所の家の当主候補の幼馴染兼、将来の愛人候補となった。


そういう出来事が背景にあり、ジャンにとって私は

「幼馴染との絆を引き裂いた悪者」

らしい。

ジャンは案外一途で思い込みが激しいのだろう。

私への態度は終始一貫して塩対応。


(…「家畜を繁殖させる」とかじゃ無いんだから、当人同士の相性とか、そういうのを考えてはくれないものなのかな?)

という点で不満を感じるが


(考えてみたら、私は戦闘力が身について独りで生きていける目処が立ったら、出奔してヴァンパイア・ハンターを狩る旅に出る予定なんだ…)

と将来的な面に目を向けてみると


(それなら「婚約者のジャンから嫌われる」のは逆に都合が良いのかも知れないな…)

と環境に納得できたのだった…。



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