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この世界の転移魔法陣。
普通に創れば手紙の転送くらいしかできない。
それが
「転移魔法陣を作る際に吸血鬼の血を使えば小型商品くらいなら転送できるようになる」
のだから物流業界の支配層の欲をどうしても刺激してしまう。
吸血鬼の
「構造復元能力の精度」
次第では
「小型の生き物を転送できるようになる」
という話だ。
因みに始祖達は
「自分自身が転移魔法陣で転移できる」
からこそ始祖なのだと言われている。
転移魔法陣で転移できるし、再生能力が高過ぎて首を落とされても死なない。
それ程の者だから神から更なるギフトを授けられたのである。
(私とは無縁のチートだ)
始祖は特別なので誰も手出しできないし、しない。
唯一、始祖同士で話し合い・交渉が成立する。
北部始祖のハワード・ローガンと西部始祖のコーネリア。
その両者が話し合った末に
「コーネリアは夫のアーサー・スミッソンが亡くなったらグレイス王国を出て行く」
という事が決められた。
「グレイス王国は北部吸血鬼達の縄張りだ」
とコーネリアが認めた訳である。
コーネリアはグレイス王国を北部吸血鬼の縄張りだと認める代わりに
「北部勢力へ自浄作用を求める」
といった要求をして、ハワードはそれを承認した。
それによってハワード・ローガンは
「妻の一人だったウーナ・アイビーをはじめ、幾人かの関係者を粛正した」
と伝えられている。
その時に粛正されたウーナ・アイビーが
「エルフだった」
という事もあり…
グレイス王国内のエルフは
「吸血鬼への敵対意識をそれまでよりも更にいっそう強めた」
とされる。
尚、そうした取り決めとその決行により
「西部吸血鬼はグレイス王国に留まる間は北部吸血鬼の麾下へくだる事」
が暗黙の了解となったのであった。
(本当は西部の街に逃げたかったよ…)
と思いながらも北部に逃げたのは…
それだけヴァンパイア・ハンターが怖かったからだ。
ヴァンパイア・ハンターは吸血鬼を無差別に襲う訳ではない。
吸血鬼は始祖でなくとも肉体的衰えが無い。
よって長生きしていて老獪な個体ほど強い。
そういった長寿吸血鬼に対しては、ヴァンパイア・ハンターは何の前準備も無く見境なしに襲いかかるような事はないらしい。
歳若く戦闘経験の少ない個体ほど弱いので、通常はそういった吸血鬼を標的に選び、チームで狩りを行う。
祖母のエレインも母のエリザベスも吸血鬼の中では最弱に近かった。
ヴァンパイア・ハンターにとって狩りやすい獲物だったろう。
子供の吸血鬼などは特に狙われやすいと言われている。
子供なら
「足を斬り落として逃げられないようにして飼い殺し。延々血を搾取し続ける」
飼育も可能だからだ。
両親から
「世の中は怖いんだよ」
と散々聞かされた脅し。
両親亡き今はひしひしと実感する恐怖。
足を斬り落とされて家畜のように飼われる環境への恐怖。
それは前世で内心感じていた乳牛や鶏卵用雌鶏に対する罪悪感の裏返しのように根深く心に巣食っている…。
母のエリザベスは側室の子とは言え、伯爵令嬢だった。
森の中に隠れ住んでいる事も極秘扱いで守られていた筈だ。
なのに吸血鬼の血を欲しがる連中に居場所を突き止められた。
(他人の欲って、それを向けられる側からすると、本当に気持ち悪くて恐ろしいものなんだな…)
と痛切に思う。
(私の遮光術は今や完璧だから人間に擬態して生きるのには困らないし誰もバラさなければ絶対バレない自信はあるけど…。身内に裏切り者がいれば、バラされるんじゃないかな?)
ミルミドネス伯爵家で引き取ってもらえて成人まで居候させてもらえるなら生活は今より楽になりそうだが…
「身内に裏切り者がいて、祖母と母が狩られた」
のだとしたら
「私も狩られる可能性」
もしくは
「拘束されて延々血を搾取され続ける可能性」
が高くなる。
このまま孤児として奴隷労働に従事させられるのも嫌だが、ヴァンパイア・ハンターに見つかるのはもっと嫌だ。
(北部の吸血鬼一族に「仲間ですよ」と自分を売り込んで下働きで雇ってもらうとか?だとどうなるんだろう?)
まさかアッシュクロフト家並みに8歳児に家事の全てを押し付けるような事にはなるまいと思いたいが、北部吸血鬼一族のやり方が分からな過ぎる。
そうして物思いに耽りながらもーー
私は自動的に仕事をし続けて、一日の家事を終わらせた。
アッシュクロフト家当主のパトリック・アッシュクロフトに
「親戚が引き取ってくれるらしいので近日中に出ていく」
と話す必要性も感じず、いつも通り無言で給仕して無言で後片付けも終えた。
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先日街中で会った親戚のオジサン。
アラスター・スミッソン。
彼がアッシュクロフト家へ訪れたのは、街中での遭遇から10日ほど経った日の午後だった。
「セルマ!セルマ!」
と当主のパトリック・アッシュクロフトが喚き立てていたので、家畜小屋の掃除を途中で放り出して声のする応接室へ行かなければならなかった。
(少し前に玄関の呼び鈴がなってたし…)
と期待して客間へ出向くと、案の定、親戚のオジサンが来ていたのでホッと胸を撫で下ろした。
「お前の親族に関して聞かせてもらう」
パトリックがそう前置きして
「両親の名前は?」
と訊く。
多分、初めて訊かれた質問だ。
パトリックは私の口から
「ショーン・フェアバンクス」
「エリザベス・スミス」
という名が出たのを聞くと
「…フェアバンクス家にスミス家だと?」
と顔を青ざめさせた。
フェアバンクス家はグレイス国中央でも商人ギルドの銀行業で荒稼ぎする成金一族。
爵位を金で買った「にわか貴族」とも言われているらしい。
知る人ぞ知る悪徳貴族家の姓を耳にしてパトリックが顔色を変えたことから
(田舎者のコイツでも知ってたのか…)
とフェアバンクス家の悪名の名高さを初めて実感した。
フェアバンクスだなんていう綺麗な名前とは打って変わって、フェアとは程遠い銭ゲバ一族らしいので、普通の感性の人間なら
「関わりたくない」
と思う筈だ。
アラスターが呆れたように
「そういう訳だ」
とパトリックに声をかけた。
「北部の孤児院は人員管理が杜撰だと聞いていたが、噂よりも実際の方が遥かに悪質だな。
国内法に基づき、苗字のある子供を勝手に孤児扱いして養子に出す事はできないと定められている筈だ。
苗字のある子供は養子に出すより先に親戚へ『引き取ってくれる気はないか』と打診しなければならない。
そこで断られて初めて孤児認定されて、養子という名の無賃労働へ出荷する奴隷扱いが可能となるんだ。
アンタが法律というものをどう認識しているのか分からんが、孤児院と共謀の上での人買いなら司法機関へ訴えて資産没収の懲罰を下してもらっても良いんだぞ?」
「そんな事を言われてもこちらが知る訳ないだろう。孤児なのか、引き取る親族がいるのかどうかの確認なんて孤児院が済ませておくべき手続きだ。
ワシは知らん。そんな事で言い掛かりを付けられてたまるか!」
「そう言われれば共謀の証拠も無いし、こちらとしてもアンタを罪に問う事は難しい。
だが本当にアンタが孤児院に騙されただけなら、この子を引き取る時に支払った寄付金を孤児院に返還要求して、この子の事はすぐに解放する筈だろう?
それを渋るという事は随分と怪しいんじゃないか?」
「孤児院が一度受け取った金を返す訳がないだろうが!アイツらのガメツさをお前は知らんのか!」
「孤児院が金を返す返さないと、この子を拘束して労働を強制する事は無関係だ。何度も言うが、苗字のある子供は扶養義務のかかる親族が全員『引き取らない』と扶養拒否するまで養子になれない。
つまり養子としてこの家に置いておくのも違法だし、労働強制するのも違法だ」
「『置いてくれ』と頼まれてるから置いてやってる。『働かせてくれ』と頼まれてるから働かせてやってる。
当人の意向を承認して、その通りの待遇を用意してやった善意の者に対して言いがかりも甚だしい。いい加減にしろ!」
パトリックはキレて
バンッ!!!
と応接室のテーブルを叩いた。




