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巴と翔  作者: 千夜
3/6

日本と日本人

「あぁ…」

幸せそうなため息をつきながら巴はコップで日本酒を飲んでいる。どうも大学の帰りにでも買ってきたものらしい。

「日本人はやっぱり日本酒よねー」

もちろん今日も巴の隣には翔が座っている。そもそもがここは翔の部屋なのだ。翔の両親が外出すると巴は翔の部屋に入り浸ることが多い。

「あんたの部屋の方が居心地いい」

のだそうだ。フローリングの床に机とベッドしかない部屋なのだが。その机に巴は堂々と一升瓶を置いている。

「巴は俺と同い年だよな」

「そうよ」

「何歳だ」

「同い年よ」

「十九だよな」

「そうよ」

「酒…」

「あぁ、あんた、法律なんかあんなもん迷信よ迷信」

「違う違う違う」

「だって私の脳細胞が死ぬだけよ、国のお偉方に気遣ってもらわなくて結構」

「そりゃそうかも知れんが」

「それに家でこうやって飲んでる分にはバレないのよ」

「バレなきゃいいのか」

「バレなくても自分の悪いと思うことはやっちゃ駄目よ」

「へえ?」

「法律で禁止されてなくても自分の悪いと思うことはやっちゃ駄目なのよ」

「そうか。悪いことって…」

「私が悪いと思う事よ」

「どういう事を思うんだよ」

「うーん…気分…」

やや眠たげな声を出しながら、巴はポコポコと二杯目をぐ。

「あんたも飲む?」

「いや…」

「ヨーロッパではもっと早くから飲めるとこ多いのよ」

「そいやそうだな」

「日本も欧米大好きならそういうとこから憧れてほしいわ」

「欧米大好き?」

「大好きじゃない、ニュースもカタカナ語多いし」

「あぁ確かにな」

「日本語で言えばいいじゃない、日本語あるんだから」

「巴は日本好きなんだな」

「日本は最高よ、日本酒も」

「じゃあ法律も守れよ」

「政府は別モノ」

「あっそう」

「グローバル社会とか言うけど日本のグローバルなんか欧米の言語喋れてその辺の国相手に金稼ぎできたらそれでいいのよ」

「まぁ欧米の話しか聞かねえもんな」

「グローバルの訳語変えちゃえばいいのよ」

「何に」

三杯目の酒をコップにぎながら巴は短く答えた。

「欧米社会の盲信」

「盲信とは思ってないんじゃないか、盲信してる奴は」

「だから盲なのよ」

「なるほど」

「でも欧米にも好きなとこあるわよ私」

「ふーん」

「ずばっと物言うところなんか好きよ」

「確かに巴のオブラートに包んだ発言は聞いたことがない」

「どうせ同じ内容言うならわかりやすくずばっという方が私は好きなのよ」

「個人の好みの問題か」

「個人の好みの問題よ。日本語の曖昧表現が好きな人もいるでしょ。それはそれでいいと思うのよ」

「でもそれは時々問題になってないか」

「だからね、欧米の人間には通じないのよ曖昧表現」

「だろうな」

「欧米なんかみんな自分とこの国が一番偉いと思ってるんだから」

「一番偉いか…」

「だから日本では曖昧表現が美徳なんです、っていうことをまずはずばっと伝えなきゃ駄目なのよ」

「…ややこしいな」

「要は今は欧米中心社会だから向こうに合わせなきゃ駄目なのよ」

「ふーん…なんで欧米中心社会になったんだろうな」

「勝てば官軍」

「やっぱりお前オブラートに包めんな」

「いいのいいの。でも欧米中心社会は腹立つわ」

腹が立ったせいか巴はコップに三分の一ほど残っていた日本酒を一気に飲み干した。そして間髪入れず一升瓶に手を伸ばす。しかしその前に翔が瓶を掴んだ。

「あ、いでくれるの」

「いや…もうやめとけよ」

「大丈夫大丈夫」

「もう三杯飲んでるだろ」

「あのね、このコップ一杯一合ぐらいなの」

「一合…」

「十合で一升ね」

「あぁ」

「私まだ三杯しか飲んでないのよ、たったの三合よ」

「たったの…か?」

「とりあえず、いで」

コンッと音を立てて巴がコップを置き直した。先ほどの眠気など吹き飛んでしまったかのような切れのある動きである。瓶の首を掴んだまま躊躇する翔に巴がさらに追い打ちをかけた。

「っていうかあんたも飲まない?あんたが飲まなかったら、私一升全部行くわよ」

「全部ってそんな…」

「飲めるわよー、最高記録三升。あの時はお酒が無くなったんだけど、あったらもっと行けたわ」

「…」

返事の代わりに翔は巴のコップに大人しく酒をそそいだ。

「ありがとー」

嬉しそうな巴の顔は十九歳にしては幼く見える。しかし自分のコップが日本酒で満たされているにも関わらず、翔の手を離れた瓶を掴む巴。そしてもう一つのコップを机に置く。

「それって…」

「コップ」

「わかってるよ」

「最初っから机の下に」

「置いてたのか」

「独り酒は寂しいのよ」

そう言っている間にコップには酒ががれてしまった。巴と暮らすようになって数ヶ月、翔も諦め時はよくわきまえている。仕方なく酒に口を付けた。

「…おいしい」

「日本は最高なのよ」

「でもコップなんだな」

「欧米の汚染よ」

「汚染か」

「やっぱりおちょこか茶碗でいきたいところよねー」

「茶碗は…男前すぎないか」

「男前?!」

「え…」

過剰とも言える巴の反応に翔は驚いた。

「あんたその話私に振らない方がいいわ」

「その話?」

「女らしい男らしいの話。その話するには酒が足りないわ」

「そんなに話すことあるのか」

「朝までいけるわよ」

「じゃあ…また今度聞くよ」

「あら、何でまた」

「お前の話は常識が揺らぐから面白い」

「わーい!じゃあまた今度一緒にお酒飲もう」

「あぁ」

「日本酒はおいしかったでしょ」

「あぁ…おいしかった」

「今度までにおちょこ買っといてね」

そういうと巴は颯爽と翔の部屋を出て行った。コップは二人分持って行ったから片づけてくれるらしい。一升瓶は翔の担当ということだろう。いつの間にか一升瓶は空になっている。

(俺は一杯しか飲んで無いんだがな…)

次に一緒に飲むときはどれぐらいの量の日本酒を用意すればいいものか、翔は爽やかに部屋を出て行った巴の後ろ姿を思い出しながら考えた。

あぁ、お酒飲みたいな。と思って書いた話でございます。

巴ちゃんはお酒強いんですね。きっとザルでしょう。

翔の部屋が出てきたのでいずれ巴の部屋も書けたらなと思います。

次は多分女らしい男らしいの話では無いと思います…

二回連続お酒登場!っていうのもどうかと思いますので。

二回消えて少々心がくじけました。


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