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ワンダーライフ  作者: 都落 一郎
1話 -ワンダのスミカ-
7/10

7話 ワンダとキュウジツ

「……よし、今日から本格的に畑を作るぞ!」


 そう言って俺が鍬を振り下ろした瞬間――


 鍬が、粉になった。




――――――

―――


 俺の農業高校生活は、朝は実習畑の管理、夕方まで授業、帰って精霊たちの子守りのルーティンがいつの間にか出来上がっていた。


 そんな中で訪れた初めての週末。それは、ある週末の出来事だった。


「……よし、今日から本格的に畑を作っていくぞ!」


 俺の目の前に広がるのは、『狂者の館』の裏手に広がる、長年放置され、雑草だらけに荒れた一画。館の縁側から眺められる位置にあり、大きな木々は生えておらず、低い金網のフェンスに囲われたスペースがあり――そこを『山神の畑』と呼ぶことにした。




 膝まで届くほど長い雑草に覆われているが、土の底からはドクドクと脈打つような大地の鼓動が、俺にははっきり感じられた。


「ワンダ君、やる気満々だね~! ボクもお手伝いするよ~」


「あんた、昨日も実習で泥だらけになってたでしょ。休みの日まで土いじりなんて、本当に物好きね……」


「他の奴らも自分の家の畑に手を入れ始めてるみたいだからな、俺もそろそろ始めねぇと……お前らも自分の畑はやってるのか?」


 というのも、1年生には各自の家庭菜園で栽培した野菜を一定量、学校に納めることが進級の条件の一つになっているからだ。


 この話がやっかいな点は、菜々海のように家が居住不可となってしまった場合だ。


 落雷のあった日、菜々海が他の、それこそ女子生徒の家を頼らず俺の館に来たのは課題の条件を揃えるために仕方なく選ばれた、という話だった。


「そうね。わたしも自分の畑を作らないと……。ここら辺、適当に私の畑として使っていい?」


「おう、ついでだし、手伝うぜ」


「ありがとう。頼らせてもらうことにするわ」


 菜々海は学校にいる時と違って、とても控えめでツッパっていないのが不思議だ。もしかしたらこの館では彼女が素でいられる空間なんじゃないかと思うと、なんだか守ってやりたい気分になった。


 アイルが水筒を準備し、菜々海はワンダと同じように畑作りを始めた。


 俺は手始めに、20畳ほどのスペースを鍬クワで耕し始めた。


長く放置された農地は、土がガチガチに固まっている。


まず必要なのが『反転』という作業だ。


土を深く掘り起こし、上下を入れ替える。

眠っていた微生物が活性化し、根が張りやすくなる。


そして、石や太い根を取り除くのだが、これが一番の重労働だ。


 早速開けた土地を耕そうとしたが、ここで「山神」の奇妙な能力が発動する。


 俺が鍬を振り下ろすたびに、地面から眩い光が漏れ、山神の力が土に染み込んでいく。それと引き換えに、手に持ったクワがみるみるうちに錆び、ボロボロと崩れて始めていた。


「――っ!? おいおい、嘘だろ!?鍬が……!」


「なによそれ! どんだけ馬鹿力なのよ!」


「違う。なんだか俺の体から道具に力が吸い出される感じがして、あっという間に鍬がボロボロになっちまうんだ」


 わずか十振りで鍬は使い物にならなくなってしまった。

 完全に塵と化して原型は見る影も残っていない。


 俺は納屋にあった予備の鍬をありったけ持ってきて、使っては壊しを繰り返していった。


「おい、また折れたぞ! これで五本目だ!」


 握りしめていた鉄製の鍬は、刃先がボロボロと崩れ、まるで数十年放置された廃材のように朽ち果てていた。


 それを見ていた精霊のホウが、しゃぶしゃぶ煎餅を頬張りながら暢気に口を開く。


「あー、それ、山神の力の代償ってやつね。道具の『命』を吸っちゃうから道具の費用がバカにならないのよー。土を耕そうと気合を入れるほど、道具の寿命がすぐ劣化しちゃってボロボロになっちゃうんだよねー」


「……お前、それを先に言えーッ!!」


 ホウの遅すぎる解説には、いつか本気で説教が必要だ。


 俺が頭を抱えていると、もう一人の精霊、シズクが重厚な木箱を引きずってきた。中から取り出したのは、眩いばかりに輝く黄金の鍬だ。


「ワンダさん、これを使ってください。80年ほど前に現れた先代の山神様が使っていた農具です。……その名も『伝説の黄金の伝説の鍬』です!」


 そう言って差し出してきたのは、金色に輝いている立派な鍬だった。


「うわ!眩しっ!!」


「うそ、これ黄金じゃないの!?お金に変えた方がいいわよ!!」


「う~ん、金にしてはなんだか軽いから、チタン合金かな~?それでもすごいけどねー!」


「柄まで全部チタン合金かよ!普通の鍬より3倍は重いんだが。これを使えってのか!? 腰に来るぞっ!それに……名前、適当すぎないか? 『頭痛が痛い』的な重複の仕方してるぞ」


「あははっ、ワンダ君の4連続ツッコミだ~!」


「細かいことはいいのです! これなら山神の力にも耐えられますから!」


 他にも言いたいことはあったが、ツッコミを飲み込んで金の鍬を振るうと、驚くほど土が軽く跳ね上がった。気持ちよく耕すことができるようになり、作業はどんどん進んでいく。


 その背後では、アイルと菜々海がブーブー言いながらも、開墾で出た雑草や石の片づけを手伝ってくれている。


「もー、なんで私がこんな重い石を運ばなきゃいけないのよ!」


「菜々海ちゃん、こっちには時代を感じるコーラの瓶が埋まってたよ~!」


 土を耕していくと、だんだんと周囲の空気が変わってきた。


 どこからともなく、色とりどりの小さな羽根を持つ妖精たちが集まってきて、畝の上でダンスを始めた。


「おい、なんか出てきたぞ・・・?」


「この子たちは自然の妖精よ!わたしより全っ然格下のカス共ね!」


 そうホウが妖精たちにマウントを取ると、しっしっと追い払っていた。


「おいおい、可哀そうじゃないか」


「いいのよ、あの子たちハルキの神気が宿った土を食べに来たんだけなんだから、むしろ感謝してよね!」


「妖精とか精霊とかにも色々あるんだな……」


「ちなみに私は大精霊なので、私から見たらホウさんも妖精さんも変わらない存在なんですぅ~」


「ホウ、遠回しにカス呼ばわりされてるぞ……」


 ホウやシズクの解説と共に、不思議なことが起こりまくる開墾作業は進んでいった。


 俺は妖精がいなくなった畑に黒いマルチシートを敷き、ハツカダイコンの種を蒔く。


 すると種をまいて数分、地面がモコモコと盛り上がり、緑の葉がシュルシュルと伸び始め、5分も経つ頃にはマルチの中のハツカダイコンは立派に成長しきっていた。


 そこに、そんな光景を影から見ていた女生徒がいた。


「……これが…山神の力…ですって!?」


 どこか余裕のない声が響いた。


 声の方向を振り返ると紫色のサイドポニーを揺らし、片手に最新型のタブレット、もう片手にはなにやらトリガー式の測定器を持った少女――生徒会秘書、横尾栞よこお しおりがいた。


「ハルキ、また別の女連れ込んだわね!!」


「その言い方やめろっって!入学式の日に俺を連行していった生徒会の先輩だよ」


 突然の来客にアイルが対応してくれる。


「あ、先輩だ~! 何しに来たの~?」


「おいアンタ! 挨拶もなしになに調べてんだよぉ!」


 アイルは微笑み、菜々海は睨みつけるようにメンチを切り、喧嘩を売っていた。対応の差で風邪を引きそうだ。


 横尾は菜々海とアイルの存在を切り捨てるように、迷いのない動作でホウとシズクに向き直った。


「失礼。あなた方が噂の精霊である『ホウ様』および『シズク様』ですね? 生徒会秘書として、学園の資産管理区域への立ち入りと、現在の超自然的現象の観測を許可いただきたく、ご挨拶に参りました」


 横尾は機械を一度脇に抱え、完璧な角度の礼を見せた。これに真っ先に反応したのはホウだ。


「えっ、ホウ『様』!? わたしのこと、そんなに敬ってくれるの? いやー、話がわかるね君! いいよいいよ、観測でも何でもしちゃって! わたし、実はすごい精霊なんだからさ!」


 普段、俺たちに「しゃぶ煎妖怪」や「木偶人形」扱いされているホウは、初めて受ける真っ当な敬意に鼻を高くして、すっかり横尾を気に入った様子で隣に陣取った。


 シズクも「礼儀正しい方ですね」と感心している。


 だが、挨拶が終わるやいなや、横尾は再び機械での調査に没頭した。


 彼女はハツカダイコンに向けた赤外線センサーのトリガーを連射し、タブレットからはエラー音を響かせている。


「え?あれ?どうして……あわ……あわわ……!!」


「ワンダ君、この人全然ボクたちのこと見ようとしないよ~?」


 アイルがジト目で測定のエラー音を響かせている横尾を眺めている。


「……たぶん生徒会長にしっかり調査してくるように言われたんだろうな。俺ら存在そのものを切り捨てられてんぞ」


 アイルたちの呆れ顔を無視し、横尾はパニックになりながらもタブレットにペンを走らせる。


「種まきから収穫まで三〇〇秒……。会長がおっしゃっていた『山神の力』とは、ここまで不可能な現象を引き起こすのですか!?」


 彼女は真っ赤な顔で「むぎゅう」と唸り、センサーをハツカダイコンに突きつけるようにして格闘を始めた。理知的な秘書の面影はもはやない。


「ああ、会長……私、どうすれば……」


 終いには遠い空を見上げ、生徒会長の面影を探して黄昏ていた。


「俺たち、なんだかんだで色々慣れ過ぎてるんだが、普通はこういう反応だよな。なんか、いいな!!」


 もはや妖精やすぐに育つ野菜ごときでは驚かなくなったワンダたちには、横尾は新鮮に映った。


「生徒会とは協力関係を結んだし、調査に来たのならこちらもそれなりに対応しないとだな」


 そして、俺はそっと、収穫して近くの水場で洗ってきたハツカダイコンを一本、彼女に差し出した。


「ほら、食ってみろ。データじゃ分からないことも、味なら分かるだろ?」


「な……っ!? ひ、非衛生的です! 未検査の植物を、この私が口にするなど……」


 横尾は一歩身を引いて抵抗したが、俺が差し出したダイコンからは、清涼な風のような香りが漂っていた。さらに追い打ちをかけるように、ホウが「このダイコン前に食べた時すっごくおいしかったわ!」と勧めてくる。


「食べなさいよ。折角ワンダがくれたんだから」


 菜々海が不敵に笑いながら、自分の分のハツカダイコンをポリポリとかじった。その瞬間、菜々海の表情がぱあっと明るくなる。


「……んまっ! なにこれ、果物みたいに甘い!」


 その言葉に、ついに横尾も興味を惹かれたのか、おずおずとダイコンを受け取ると、小動物のように一口、かじりついた。


「…………ッ!?」


 衝撃が走ったようだ。横尾の持つタブレットが手から滑り落ちそうになる。


「なん……ですか、これ。細胞のひとつひとつが、私の脳に『春が来た』と直接報告してくるような……。糖度計での数値は7°Bxブリックス!?それに加えてこのみずみずしさ!そして体の底から力が湧いてくるこの未知のエネルギー……。ああ……おいしい」


 横尾はそのまま涙を流して縁側にへたり込んだ。


 測定器を放り出し、うっとりとした表情でダイコンを見つめている。どうやらこのハツカダイコンの「美味しさ」という暴力の前に、生徒会秘書は役目を放棄したようだった。


「アイル、お茶淹れてやって。あと菜々海、石除きの続きな」


「えーっ! 今のいい感じの流れで終わりじゃないの!?」


「違うわ!!畑づくりはまだ半分も終わってないんだから気合入れ直せ」




――――――

―――


 開墾作業も一段落し、昼過ぎの心地よい風が吹く頃だった。


バッコーンッ!!


 館の門扉を、勢いよく蹴り破らんばかりの速さで開ける音が響いた。


「はいはーい!倫ちゃんだよー! スクープの香りに釣られてやって来たよ! ここが噂の『狂者の館』、別名『山神のハーレム農場』で間違いなーい!?」


 張りのある、やたらと元気な声。


 アイルよりさらに小柄で、赤茶色でボリュームのある髪を高い位置でポニーテールに結い上げた少女が突撃してきた。手にはカメラをぶら下げている。


 クラスメイトであり、俺とは小学校からの腐れ縁の少女

 ――堀間倫ほりまりんだ。


「何が山神のハーレム農場だ!!どうせお前が勝手に噂広めてんだろ!!」


「本当の噂好きってのはね、真実より噂話の方が好きなのでーす。今日は色々と取材しにきたよぉ!」


 そう言うと倫は左肩に「新聞部」と書かれた腕章を見せつけてくる。


「……倫。お前、入学早々新聞部に入ったってのは本当だったんだな」


「当たり前じゃん!もともと噂好きだし、あんたがこんな面白物件(館)に入居して、しかも精霊だの美少女だのに囲まれてるって聞いて、私がじっとしてられるわけないでしょ!」


 倫は俺の胸元にズイと迫ると、俺の顔を覗き込んでニヤリと笑った。


「ワンダ、相変わらず人相悪いねぇ」


パシャパシャ


そう言いながら、倫は一眼レフのシャッターを切った。


「うっせ、お前こそ今日も小さいな」


「あたしはほら、妹に身長盗られちゃった系だから!」


 そんな賑やかな倫の影から、いつの間にか一人の少年が姿を現した。


 黒髪の短髪、長い前髪で両目が完全に隠れている。

 気配がまったくない。


「……姉さん、声がでかい。うるさい……」


「あ、れんもいたのか」


 倫の弟であり、堀間家6兄妹の三つ子の一人。身長は低く、アイルと同じくらいだ。無口だが、情報収集においては蓮の方が確実に「えぐい」仕事をすることを俺はよく知っている。


「ワンダ君、この子たちは?」


 アイルが不思議そうに首をかしげる。


倫は即座にアイルの手を握り、営業スマイルを振りまいた。


「初めまして! 私は堀間倫。ワンダの幼馴染にして、この学園のあらゆる噂を牛耳る予定の女!風の噂の風とは私のこと!そして、こっちは弟の蓮。私たち、同学年の兄妹が六人もいるから、ネットワークだけは自信あるんだよね!」


「六人……同学年……?えっ?」


 横でダイコンをかじっていた菜々海が、今日一番の驚き顔を見せた。


「そう! 三つ子が二組!私は一組目の長女で早生まれ。こっちの蓮ともう一人、蘭って子がいるんだけど、この三人がひと組目の三つ子なわけ!私たちワンダとは家が近かったし全員顔見知りってわけ!」


 倫はマシンガントークを続けながら、いつの間にかハツカダイコンを食べて放心している横尾や、空中に浮いているホウをバシャバシャと撮影し始めた。


「で、ワンダ。今のあんたの立ち位置、どうなってんの?『精霊使い』? それとも『美少女を従える山の王』?山神の実態を全校生徒が知りたがってるよ!」


「どっちも違うわ!俺はただ、普通に農業高校生してるだけだ」


「ふーん……そうは見えないけどねぇ。ちょっと見せてもらったけど面白そうなことやってるね。ふむふむ、蓮、学園のネット掲示板から『山神』に関するキーワードを全部洗っといて」


「……了解。内部サーバへのバックドアは既に仕込んである……」


 蓮がスマホを高速で操作しながら呟く。この姉弟、相変わらず手癖が悪い。


 倫は俺の肩をバンバンと叩いた。


「ワンダ。あんたの存在がすでに面白いから記事のネタに困らないし、今後も私が一番近くで取材してあげる!ねぇ!他にも何か面白いこと隠してない?例えば、夜な夜な精霊と何してるとかさぁ!」


「変な記事書いたら、そのカメラ、この鍬で耕すからな!」


「なにその鍬!金ぴかじゃん!!それもおもしろー!!」


 そう言ってパシャパシャとカメラで撮りまくる。


 登場と同時に好奇心の赴くままにカメラで撮っていた倫が今度は俺に向かって言ってくる。


「んじゃ、次は本格的な取材に入るよ!蓮!」


「了解……」


 そう言うと倫はボイスレコーダーをマイクのように持ち、蓮は隅の方にいってしまった。


 ここまでテンションが高すぎる倫は抑えることができないので、しぶしぶ俺は取材に答える形で今までのことを倫に話した。


………


「……ふむふむ、つまりこの『狂者の館』の主はワンダで、そこに着の身着のままの妖精さんたちと、アイルちゃんと菜々海ちゃんが同居してるってわけね?」


「変な記事は書くなよ…?」


「それはわたしの気分次第さ!さて、そろそろかな?蓮?」


 倫がそう言うと、いつの間にか姿を消していた蓮が縁側から戻ってきた。


「姉さん。今、この館の全部見てきた……一言で言うと、異常……」


 蓮はいつの間にか撮ってきた館の色々な場所の写真をタブレットで倫に見せる。


「どこが異常なの?」


「電波の測定もしてきた。この家、現代とは思えないくらいに古い家庭用品しかない。ネットも繋がらない……なのに、この館の通信電波の数が異常。どこかにサーバー室でもあるかのような波形……。でも、実際には電気じゃなくて、『何か』別のものが流れてる……気がする……」


「そう、つまり不思議なことが起こる可能性しかないってことね!きっとその異常こそが『山神』の力ってやつでしょ! ワンダ、あんたも館もやっぱり化け物じみてるじゃない!」


 倫は身を乗り出し、満足げに俺の鼻先に指を突きつけた。


 この姉弟といると、どっと疲れる。


 倫は外交的な立ち回りで相手の懐に入り込み、蓮はその背後で冷徹に物理的な証拠やデータを押さえる。この二人の連携は、中学時代から数々の教師を泣かせてきた「恐怖の堀間姉弟」そのものだ。




――――――

―――


 その時、それまでハツカダイコンの味に浸っていた生徒会秘書・横尾が、ハッと我に返ったように眼鏡を直した。


「……失礼。取り乱しました。堀間倫さん、および蓮さんですね。新聞部の活動として取材に来られたようですが、この区域は現在、生徒会の管理下にあり、特殊観測地点です。記事の内容については、事前に私たちが検閲を行う必要があります」


 横尾がいつもの理知的なトーンを取り戻し、倫に牽制を入れる。しかし、倫は全く物怖じしない。


「おっと、生徒会の検閲? 怖いねぇ。でも横尾さん、今のあんたの『ハツカダイコンで昇天してるよそ様にはみせられない顔』、バッチリ押さえちゃったんだよね。これを一面に載せられたくなかったら、少しは便宜を図ってくれてもいいんじゃない?」


「な……っ!? なななな、何を不埒なことを! 私はただ、農産物の品質確認を……!」


「はい、その動揺もいただきー!」


 倫はニカッと笑い、カメラを高く掲げた。横尾は顔を真っ赤にして絶句している。倫にしてやられてしまったようだ。


 一方で、蓮は俺の横にすっと近づくと、小さな声で囁いた。


「……ワンダ、今日来た理由はもう一つある。学校のネット掲示板、不穏。……『山神』や『椀田春樹』の名前で検索をかけてるのは、僕らや生徒会だけじゃない。……もっと遠いとこと、県外や外国からもアクセスが来てる」


「げぇ!?俺のことを調べようとしてるやつらがいるってことだよな?」


「うん……いろんな所から監視対象にされてる可能性が高い…注意した方がいい」


 蓮の言葉に、俺の背筋に冷たいものが走った。


 山神の力。それは俺にとって「厄介ごとの種」でしかないのだが、この学校、ひいては農業界にとってもっと別の、政治的あるいは軍事的な価値があるのかもしれない。




――――――

―――


その後も日が暮れるまで倫の取材と蓮の家捜しが行われた。


「アンタたち、ワンダの友達なら少しは労いなさいよ。こいつ、これでも朝から晩まで必死に土いじりしてんだからさ」


「お、さすが山神の番犬!!伊達に立派な二つ名がついてないね! 菜々海ちゃんだよね!? あんたのその尖ったナイフみたいな鋭さも一定の生徒から支持受けてるって噂だよ!」


「は、はぁ!? それどこのどいつよ!ぶっ潰してやる!」


 すぐに倫のペースに巻き込まれ、菜々海はタジタジである。


 すると、それまでホウと遊んでいたアイルが、ひょいと輪の中に割って入った。


「倫ちゃん、蓮くん! 面白いことならいっぱいあるよ!さっきまでちっちゃな精霊さんがいたし、ハツカダイコン五分くらいで種から育って味も美味しいんだよ!」


「なにそれ!なにそれ!面白い事が渋滞してるじゃない!? 蓮、行くよ! 誰よりも早く、正しく!時には嘘を混ぜた噂を流さないと!!」


「……姉さん、全部、調べ尽くそう……」


 嵐のような姉弟は、アイルの誘導で畑の方へと走っていった。


 静かになった縁側で、俺は大きくため息をついた。


 横尾はまだ赤くなった顔でダイコンのデータをまとめ直し、菜々海は不貞腐れたように空を見ている。


「……ワンダ、あいつら本当に大丈夫なの?」


 菜々海の問いに、俺は苦笑いした。


「ああ。性格は最悪だが、情報の面じゃ頼りになる奴らだ。それに、蓮が言ってた誰かに探られてるって件……あいつらが味方なら、もしもの時は心強いかもだしな」


 俺の手の中には、少し泥のついた黄金の鍬があった。


 これから先、この館に集まるのは精霊や美少女だけではない。


 欲に塗れた大人たち。


 学園の闇。


 ……そして、山神の力を狙う“外の連中”。


「でもま、何が来ても俺が耕してやるだけだ」


 俺は再び鍬を握り直し、夕暮れに染まり始めた『山神の畑』へと向かった。


 背後からは、倫の「これスクープじゃーん!」という絶叫が、相変わらず響き渡っていた。

修行僧の行者の休憩場所だった館が転じて狂者の館になりました。

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