5話 ワンダとフリョウ
生徒会室での「山神」についての説明は、俺の予想の斜め上を行くものだった。
俺が住む土地が「非常識な楽園」になり、キュウリがスイカになり、牛が二足歩行で歩き出す。
そんなファンタジー設定に頭を抱えながら、生徒会室を後にした俺とアイルは帰り支度をするために教室へと向かった。
「なんか腹減ったなぁ。俺、ちょっと購買寄ってくからアイルは先に教室に戻っててくれ」
「ええ!?ワンダ君もしかしてまだ成長期なの?よく食べるね~」
「どっちかって言うとさっき走り回ったせいで、消耗しすぎたんだと思うけどな…」
「ふふ、ボクをお姫様抱っこしながら1キロ近く走ったんじゃない?すごかったよ~」
「農業は体力が資本っていうしな。んじゃ、そういうことで行ってくるわ」
「はーい、家までは一緒に帰ろうね~。待ってるから~」
そう言って俺はアイルと分かれ、購買で牛乳とアンパンという、昭和の刑事のようなラインナップを購入した。
もぐもぐ……
「ふぅ、生き返るぜ」
廊下を歩きながらアンパンを頬張り、牛乳で流し込む。運動後の糖分が脳にダイレクトに効く気がする。
教室の入り口が近づいてきた、その時だった。
「――二度とその名前で私を呼ぶんじゃねぇッ!!」
ピシャリ
と、空気を切り裂くような鋭い怒鳴り声が教室の中から響いてきた。
地声の低さと、隠しきれないドスの利かせ方。明らかに堅気の女子高生が出すトーンじゃない。
俺が「なんだ?」と足を止めた瞬間、教室の引き戸が勢いよく開き、一人の女子生徒が飛び出してきた。
「おっと――」
「どけよッ! 邪魔だ!このデカブツ!」
ドォン、と肉体が衝突する鈍い音がした。
だが、衝突した本人が一番驚いたことだろう。
俺のこの巨体の前では、全力でぶつかってこられても、一ミリたりとも動かせなかったのだから。
「……あ?」
彼女が顔を上げる。
高い位置で結ばれた金髪のポニーテールが、激しい動きで揺れていた。
耳にはいくつものピアスが光り、着崩した制服からは隠しきれない不良のオーラが漂っている。
だが、何より俺の目を釘付けにしたのは、その瞳だった。
怒りに燃え、鋭く尖ったその双眸。165センチほどの彼女の視線は、俺の胸板あたりを射抜いていたが、見上げられた瞬間に心臓が跳ねた。
「……チッ、デカすぎんだよ……バカ!」
彼女は吐き捨てるように言うと、すれ違いざま、俺の脛に向けて鋭いローキックを叩き込んできた。
「いでぇっ!?」
彼女はそのまま、嵐のように廊下の向こうへと去っていった。
俺は脛を押さえて悶絶しながらも、別の意味でその場から動けなかった。遠ざかっていくポニーテール。凛とした後ろ姿。
「…………オレ、一目惚れ……しちまったかもしれねえ……」
「ワンダ君!? 大丈夫!? 脛が赤くなってるよ!って顔も赤いよ! 病院行く!? 救急車呼ぶ!?」
慌てて駆け寄ってきたアイルの声が、遠くに聞こえる。
俺は痛む足を引きずりながら、絞り出すように聞いた。
「ああ……大丈夫だ……。それより、あの子……あの子は誰だ?」
「えっ、あの子? ……ああ、坊主さんだよ。今日一日中あんな感じだったよ」
坊主。
なんともインパクトのある苗字だ。
教室に入ると、そこにはお通夜のような空気が流れていた。
数人の女子生徒たちが困惑した表情で立ち尽くし、中には両手で顔を抑えて泣いている女子もいる。
アイルに事情を聞くと、溜息混じりに教えてくれた。
「坊主菜々海さんっていうんだ。朝からずっと一匹狼って感じで、だれも近寄るなって雰囲気で帰り支度してたんだけど……。クラスの女の子たちが仲良くなろうとして、苗字を呼んだのがきっかけみたい」
「苗字を呼ばれただけであんなにキレるのか?」
「最初は冷静に『その名前で呼ぶな。菜々海でいい』って返してたんだけど、彼女とコミュニケーション取りたい子が次々と集まってきちゃって。『坊主さん、坊主さん』って連呼されたのが我慢の限界だったみたいだね。……あの苗字、彼女にとっては地雷だったみたいで」
なるほど。可愛い顔しておっかないな。
菜々海。……坊主菜々海。
さっきあの瞳に心臓を撃ち抜かれた女の子の名前が、思ったよりもすんなりと胸に落ちてきた。
……いかんいかん。今日出会ったばかりだぞ、俺。
その後ザワザワする教室で、男子から
「初日から生徒会長の呼び出しとか規格外だよなワンダ!」
とか
「なんか窓ガラスが割れたとかで警察の人来てたけどワンダ君何か知ってる?」
とか
「さすが山神!あの坊主にぶつかってもびくともしない山のような体!頼もしいぜ!」
とか
「うそ!?うちのクラス不良多すぎ!」
など言われながら、アイルと共に学校を後にした。
アイルと一緒に下校し、館に続く道のフェンス前までたわいもない会話をしつつアイルと別れた。
俺は一人、薄暗くなり始めた山道をまだ登っていく。
山道を登りながら、ふと思い出す。
あの怒りに燃えた双眸。
俺の顔を見上げた瞬間の、息を呑むような一瞬。
嵐みたいに去っていくポニーテールの残像。
(……菜々海、か)
名前を頭の中で呼んでみると、なんだか妙にむず痒くなった。
アイルのことを初めて見た時とは、どこか違う感じがする。
アイルが柔らかな春の陽射しみたいな存在だとしたら、あいつはまるで……嵐の中の稲光だ。
怖くて、目が離せない。
……などと、一人で山道を歩きながら惚れた女の子について考えていたのは内緒だ。
我が家――『狂者の館』に辿り着き、重い扉を開けた。
「ただいまー……って、何してんだお前ら!!」
リビングでは、木の精霊ホウと、どさくさに紛れて住み着いている大精霊シズクが、ドン・キホーテで売っていそうなハデハデなパーティー衣装を身に纏っていた。
ホウは電飾付きの冠を被り、シズクは変顔をしているトナカイという謎の着ぐるみ姿で、二人して「トッタ、トッタ」と変な踊りを踊っている。
「あっ、お帰りハルキ! 見てよこの『新入生歓迎・聖なる舞』を!」
スコーンッ!!
俺は迷わず、手近にあった「太くて逞しい立派な大根」で、ホウの頭をしばき倒した。
「ぎにゃぁぁぁ!」
「人の家で変な儀式を始めるんじゃねえ! 静かに暮らせねえのか!」
ホウが沈黙して床に沈む一方で、シズクは頬を赤らめ、荒い息を吐きながら俺に詰め寄ってきた。
「……わ、わたしは?わたしにもご褒美…じゃなかったお仕置きして……その大根で……あの日のおかわりを……!」
「お前らもういい! どっか行け!」
「わー!山神が怒ったぞー!」
「そんなぁ~」
精霊たちが騒がしいのはいつものことだが、こんな光景が日常になり、適応している自分にも頭痛がしてきた。
頭痛と言えば呪いもそうだが今日は外の様子もなんだか雲行きがおかしい。
雨でも降るかもしれんな。
――――――
―――
案の定、夕飯を食べ終える頃には、空は鉛色に染まり、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が降り始めていた。
「うわ、すげえ雨だな……」
「雷も鳴り始めたわね。ハルキ、あんたの頭に落ちればいいのに」
「縁起でもないこと言うな」
ゴロゴロ、と腹に響くような雷鳴。
窓の外を眺めながら、俺はふと思った。
「この館の古さと、この土砂降り……。これって、絶対に殺人事件が起きるドラマのシチュエーションだよな!?」
のんきに明日の支度をしていた俺は、この時まだ知らなかった。
この雷雨が、新たな厄介ごとを運んでくることになるなんて。
――――――
―――
わたしの名前は、坊主菜々海。
実家はお寺。
これ以上ないくらい「名は体を表す」を地で行く家系だ。
幼少期の記憶はは楽しい思いでで埋め尽くされていた。
檀家さんたちに可愛がられ、実家の畑で野菜を作ったり、お手玉や竹トンボを教えてもらったり。
お寺という場所は、わたしにとって穏やかな世界の全てだった。
変わってしまったのは、中学校に入ってから。
多感な時期の男子たちが、わたしの苗字に難癖をつけ始めた。
「うみぼうず」
「ハゲ寺の娘」
きっかけは現代文の授業で『海坊主』の話が出てきたことだったと思う。
正直、死ぬほど腹立たしかった。
何もしていないのに、苗字だけで笑われる。
男子たちがしつこく絡んでくる理由は、今思えば「気になる女の子だからいじめる」という幼稚な衝動だったのかもしれない。
でも、当時のわたしには耐え難い苦痛でしかなかった。
舐められたら、負ける。
わたしは自分を守るために、不良を目指そうと決意した。
金髪に染め、耳にピアスを開け、制服を着崩し、鋭い視線を覚えた。
そうして「最強の不良娘」を演じるようになると、誰もわたしを「うみぼうず」なんて呼ばなくなった。
代わりに、誰も近寄らなくなった。
女子グループからは恐れられ、孤独になった。
本当は、普通の女の子みたいに談笑したり、些細なことで笑い合ったりしたかった。
でも、鏡を見るたびにそこにいるのは見事な不良姿の自分。
「……もう、ダメだ」
自分の居場所がどこにもないような気がして、わたしは次第に親にも反抗し、荒れていった。
そんな折に見つけたのが、この『山野中農業高校』だった。
「一軒家付き」という条件は、親から離れたい今のわたしには最高に魅力的だったし、小さい頃に檀家さんと泥にまみれて野菜を作ったあの時間は、嫌いじゃなかったから。
心機一転、今日から新しい生活を始めるはずだった。
なのに。
『坊主さん、ねえ、坊主さんって呼んでもいい?』
『坊主さん、ピアスかっこいいね!』
悪気がないのは分かっている。
でも、積み重なった数年分の「怒り」が、反射的に爆発してしまった。
放課後の教室で怒鳴り散らし、勢いよく飛び出した先で、あのデカい男にぶつかった。
あの岩みたいな男、入学式でなにか喚き散らしながら壇上で山神とかいう存在に認められていた男だ。
あまりの威圧感に、怖くなって、つい足が出てしまった。
……でも。
あいつの顔、怒ってなかった。
ぶつかって、蹴って、罵倒して。それでもあの男は、怒るでもなく、怯えるでもなく、ただ……呆けたように俺を見送っていた。
あの目が、なんだか頭から離れない。
「……サイテーだ、わたし」
割り当てられた自分の家。その風呂場で湯に浸かりながら、わたしは自己嫌悪に沈んでいた。
友達を作ろうとした子たちに牙を剥き、関係ない男に八つ当たりして。
居場所を作るために来たはずなのに、初日から居場所を失った。
その時だった。
ドッカーーーン!!
鼓膜を突き破るような轟音。
視界が真っ白に染まり、凄まじい衝撃が全身を走った。
「なっ――!?」
直後、バチバチという電気の弾ける音と共に、風呂場の明かりが消えた。 停電だ。
それだけじゃない。バリバリと天井や壁が崩落する音が聞こえてくる。
「……嘘、でしょ……?」
慌てて風呂から上がり、暗闇の中で手探りで着替える。
外からは「雷が落ちたぞ!」「坊主さんの家だ!」と騒ぎ声が聞こえてきた。
居間に戻ったわたしの目に飛び込んできたのは、無惨にも雷の直撃を受けて天井に大穴が開いたリビングの惨状だった。
あと数分、お風呂に入るのが遅れてリビングにいたら……間違いなく、わたしは死んでいた。
「あ……あ……」
足の震えが止まらない。
その場にへたり込み、冷たい雨が天井の穴から降り注ぐのを見上げることしかできなかった。
その後は、てんやわんやだった。
教師や近隣の生徒が集まり、幸い火の手は上がらなかったものの、わたしの家は「居住不可能」という診断が下された。
――――――
―――
「……というわけでな。彼女の家が修理されるまで、君のところに置いてもらえないか?」
俺の目の前には、申し訳なさそうに頭をかく生徒会長。
そして、その隣でびしょ濡れのパーカーを羽織り、借りてきた猫のように小さくなっているのは――。
「え……あの時のポニーテール……?」
「……アンタは、あの時のデカい奴……」
俺と彼女の視線が、玄関で交差した。
ホウとシズクは、いつの間にか隠れているが、聞き耳を立てて面白そうにこっちを見ているのが気配で分かる。
「ワンダ君、狂者の館は無駄に広い。それに、君の土地の加護があれば、雷に怯えることもないだろう」
「いや、会長、いきなり言われても……それに、俺ら男と女だぞ!なんかあったらどうすんだよ!!」
俺は彼女を見た。
昼間の鋭い視線はどこへやら。今は震える肩を抱き、今にも泣き出しそうな顔で俺の顔を伺っている。
「ワンダ君、君の家には精霊様が憑いておられるのだろう?だったら心配ない。……が、確かに女性一人は酷だろうから……小芋君も連れてきた」
「…………は?アイルも??ああ、もう、わかったよ。……あがれよ」
「えっ?」
「どうせ部屋は余ってるんだ。ぶっ壊れた家よりはマシだろ」
彼女――菜々海は、一瞬だけ目を見開いた後、消え入りそうな声で言った。
「……ありがと。……あと、昼間の……ごめん…」
昼間の嵐のような気性の激しさは影を潜め、今は雨に濡れた仔犬のような弱々しさがある。そのギャップに、俺の心臓はまた一つ余計な鼓動を刻んだ。
「いいって。困った時はお互い様だ。……じゃあ、入れよ。ここが今日からお前の、あー、仮の宿だ」
俺が重厚な玄関扉を押し開けてリビングに入る。そこにはカオスな光景が広がっていた。
「ハルキがまた新しい女連れてきたわ! 見て見て、新しい『木のポーズ・落雷回避バージョン』よ!」
「俺がしょっちゅう女を連れ込んでるみたいな言い方はやめろっ!」
リビングの中央で、ホウが片足立ちになり、両手を複雑に交差させて静止していた。相変わらずの布切れ一枚の姿。
いや、今日はなぜか頭にアルミホイルのアンテナを巻き、背中から伸びた枝には電飾のようなものがピカピカと点滅している。
「なっ……ななな、何よアイツ! 変質者!? 警察!? 警察呼ぶわよ!!」
菜々海が悲鳴を上げ、俺の背中に隠れる。アイルも「あちゃー」という顔で額を押さえた。
「落ち着け、菜々海。こいつはホウ。一応、この館に住み着いてる『木の精霊』だ。……ホウ! 客人の前でその変なポーズはやめろって言っただろ!」
「失礼ね! ほら、この枝のしなり具合を見てよ……神秘的でしょ?」
ドヤ顔でポーズを誇示するホウ。
「それにほら、今度は枝に電飾を点けてみたの!綺麗でしょ!!」
「お前…それ、どっかで買ったのか?」
「え?うん。今日ハルキが学校に行ってる間にドンキに行ったわ!」
「金…お金はどうしたんだ?」
なんだか、とてつもなく悪い予感がした。
「ハルキの者はわたしのもの!つまりハルキのお財布から出したわよ!」
「こんの。泥棒がああああああ!!」
スコーーンッ!!
今日も綺麗にうつ伏せに倒れるホウの姿がそこにはあった。
だが、菜々海の戦慄はそれだけでは終わらなかった。
奥のキッチンから、さらなる魔物が姿を現したのだ。
「あらぁ……。大変だったわねぇ、可愛いお嬢さん……」
ゆらりと現れたのは、大精霊シズクだった。
シズクは身長も170cmくらいあり、大精霊という雰囲気も相まって少し威圧感がある。なんというか、いろいろデカイのだ。
シズクは俺のワイシャツ一枚だけを羽織り(ボタンは半分も留まっていない)、いつも僅かにしっとりと濡れた水色の肌を晒している。
「ま、待てシズク! お前、また俺のシャツを勝手に……!」
「いいじゃない、これ、ワンダの匂いがして落ち着くのよ……。それより、この子が雷に打たれた可哀想な子?さっき盗み聞きしてたわよぉ」
シズクは菜々海に歩み寄ると、聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべ、その豊かな胸元に菜々海の頭を優しく抱き寄せた。
「よしよし、怖かったわねぇ……。もう大丈夫よ。このお姉さんが、たっぷりよしよししてあげるからね……」
「……え、あ、はい……ありがとうございます……?」
菜々海は困惑しながらも、シズクから溢れ出す圧倒的な「母性」のオーラに毒気を抜かれたのか、おずおずと体を預けた。
だが、シズクの言葉には、徐々に不穏な熱が混じり始める。
「雷なんて、本当に恐ろしいわ……。私みたいな弱くて儚い精霊が直撃なんて受けたら、跡形もなく消えちゃう……。ああ……でも……空から降る巨大なエネルギーに焼かれて、全身を貫かれる感覚……はぁはぁ、想像するだけで……それもまた……いいっ!!」
シズクの瞳が怪しく潤み、抱きしめる腕にギュウギュウと力がこもる。菜々海の顔が、シズクの柔らかな胸に埋もれていく。
「ちょ、ちょっと、苦し……っ! 何、この人、なんか怖い……!」
「逃げちゃダメよぉ……。私と一緒に、この世の苦しみと悦びを分かち合いましょう? さあ、次はどんなお仕置きが待っているのかしら……そうだハルキさん、またあの大根で私を殴っ……」
「二度と出てくるな、変態精霊!!」
スコーンッ!!
俺は咄嗟に、テーブルに置いてあった大根でシズクの脳天を正確に撃ち抜いた。
「ああぁんっ! 素敵……最高の一撃だわ……ガクッ…」
シズクは頬を染めてその場に崩れ落ち、うっとりと白目を剥いた。
「………………」
ホウもシズクも静かになり、静寂が訪れる。
菜々海は呆然としたまま、崩れ落ちたシズクと、うつ伏せのままピクリとも動かなくなったホウ、そして慣れた手つきで大根を構える俺を、交互に眺めていた。
「……ねえ、ワンダ。生徒会長に連れられるがままに来ちゃったけど…… 私、もしかしてヤバい施設かなにかに連れてこられた……?」
「……否定できないのが辛いところだが、安心しろ。こいつらは俺以外には実害はない。……たぶん」
「大ありだよー! ボクもさっき、シズクさんに『ジャガイモの真似するからこのピーラーで薄皮を少しずつ剥ぎ取って』とか言われて困ってるんだから!」
アイルが涙目で訴える。
窓の外では、依然として激しい雨音が響いている。
菜々海は、濡れた髪を拭きながらポツリと呟いた。
「……実家の寺より、ここの方がよっぽど騒がしいわね。……でも……」
彼女は少しだけ口角を上げ、俺の顔を盗み見るようにして言った。
「……退屈はしなさそう。改めてよろしくね、ワンダ!」
その不意に向けられた笑顔に俺はまたしても胸に確かな痛みを感じたのだった。
「最初から呼び捨てかよ。お前、大物だな…」
一目惚れした美少女。
ボクっ娘美少女。
頭も体も幼稚園児の精霊。
そしてドMの大精霊。
カオスすぎるメンバーが集結した「狂者の館」の日常は、まだ始まったばかりだった。
本名は小芋・ボイル・アイル。身長140cm。




