表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので、辺境で善行通販をしたら冷酷な大公に溺愛されました~無能令嬢は、癒やしの力で国を動かす~  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/107

EP 5

大公邸のゲリラライブと、聖獣(親友)の裁きのアフロ

 ルナミス帝国の帝都、大公邸の広大な中庭。

 美しく手入れされた芝生の上に、真っ白なガーデンテーブルと優雅なパラソルが設置されている。

 先ほどの広場での騒動から一転、私たちは大公邸へと戻り、新たな友人(限界オタクの神様たち)を交えたお茶会の準備を進めていた。

「私はこれから軍議がある。……アマネ、もしこいつらが少しでも君を不快にさせるような真似をしたら、遠慮なく呼ぶといい。軍ごと動かして神界(天界)を更地にする」

「ひぃぃっ! わ、分かってるわよ! 旦那様スパダリの言う通り、大人しくお茶をシバいてるから!」

「そうですわ! わたくしたちはアマネ様の善良なオタク仲間ですの! 決して危害は加えませんわ!」

 激甘な独占欲と物騒な殺気を同時に放つオルフェウス様が立ち去ると、ルチアナ様とカグヤ様はホッと胸を撫で下ろしてガーデンチェアに崩れ落ちた。

 私はクスクスと笑いながら、脳内で【善行ポイント通販】のウィンドウを開いた。

 推し活で熱狂し、さらには大公の殺気で疲労したオタクたちを癒やすには、小洒落たケーキよりも『ジャンクで手が止まらなくなるスナック』が一番だ。

 私が空間から実体化させたのは、地球の映画館やテーマパークでお馴染みの【超特大・3色アソート高級ポップコーン(10pt)】と、氷がたっぷり入った【キンキンに冷えたフルーツティー(5pt)】のピッチャーである。

「お待たせいたしました。キャラメル、濃厚チーズ、そして塩バターの三種類の味が楽しめる、特製のトウモロコシ菓子ですわ。甘いものとしょっぱいものを交互に食べると、無限に食べられますのよ」

「な、何これ!? 雲みたいにフワフワで、キャラメルの甘い香りがたまらないわ!」

「サクッ……んん〜っ! こちらの『ちーず』という味、濃厚で塩気が効いていて、フルーツティーに最高に合いますわ!」

 二人の女神は、すっかりお肌がツルツルになった顔をほころばせ、ポップコーンの巨大なバケツに両手を突っ込んで貪り食い始めた。

 限界OL時代、休日に推しのライブ円盤(DVD)を鑑賞する際、このポップコーンのバケツを抱えながらコーラを飲むのが、私の最高のストレス発散法だったのだ。

「アマネの出すお菓子、いっつも美味しくて大好き! 私はこのキャラメルのやつがいちばん好き!」

「ふふっ。たくさんあるから、ゆっくり食べてね、リンちゃん」

 私の隣では、親友であり第六の聖獣『麒麟』の化身体であるリンちゃんが、両手でキャラメルポップコーンを大事そうに抱えながら、小動物のようにサクサクと食べている。

 神々の凄まじいプレッシャーの中でも、リンちゃんだけは全く動じることなく「美味しいねー」と笑ってくれる。この殺伐とした世界で、彼女の存在は私にとって最高の癒やしだった。

 ――平和だ。

 初夏のような心地よい風が吹き抜け、パラソルの下でポップコーンを頬張る神々と聖獣。

 まるで、休日の女子大生たちのお茶会のような、ほのぼのとした空気が流れていた。

 しかし。

 大公邸の庭には、この『金回りの良い来客』の匂いを嗅ぎつけて、暗がりから目を「¥」のマークにして這い寄ってくるダメ人間たちが潜んでいたのである。

「(……クンクン。間違いないですわ。あそこでポップコーンを貪り食っている二人から、莫大な富と、承認欲求を拗らせた『太客カモ』の匂いがプンプンしますの!)」

「(お嬢たちと合流してきたってことは、大公邸のゲストってことっすね。しかも見た目からしてセレブ……。これは、俺のギャンブラーの血が騒ぐっす)」

 茂みの陰から、芋ジャージ姿のリーザさんと、コイントス中毒のフェイトさんが、涎を垂らしながらガーデンテーブルを凝視していた。

 リーザさんは、自作の『みかん箱』を小脇に抱え、マイク代わりのスライムゼリー(音響増幅魔法付き)を握りしめている。

「(いきますわよフェイトさん! アイドルのゲリラライブで、あの太客の財布の紐を物理的に破壊してやりますの!)」

「(おうっす! 俺がコイントスで合いの手を入れて、投げ銭を倍プッシュしてやるっす!)」

 二人のクズが最悪のアイコンタクトを交わした次の瞬間。

 庭の茂みがガサァッ!と揺れ、みかん箱に飛び乗ったリーザさんが、大音量の魔導スピーカーと共に乱入してきた。

「全宇宙の迷える子羊(太客)たちへ! 私の歌で、あなたの時間を奪ってさしあげますわ! 『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』、ミュージック・スタートですのぉぉっ!!」

 ジャジャーン!!

 突然の爆音と、芋ジャージ姿の人魚姫の登場に、ポップコーンを頬張っていたルチアナ様とカグヤ様がビクッと肩を跳ねさせた。

あかでもない しろでもない♪』

『狙い打つのは 真鍮しんちゅうのゴールド!』

『穴の向こうに 未来が見える♪』

『覗いてみてよ 私とキミのディスタンス!』

 リーザさんが、謎のステップを踏みながら、拝金主義の極みのような歌詞を高らかに歌い上げる。

 普通なら「なんだこの不審者は。つまみ出せ」となるところだ。

 しかし、目の前にいる二人の女神は、ただの神様ではない。三度の飯より『推し活』を愛する、生粋の『限界アイドルオタク』なのだ。

「な、何よあの子……! 芋ジャージにみかん箱なんて、信じられないくらい底辺の地下アイドルじゃない……!」

 ルチアナ様が、持っていたポップコーンをポロリと落とし、目を見開いた。

「ええ……。でも、見てくださいなルチアナ。あの泥臭いステップ。完璧に整えられたメジャーのアイドルにはない、魂の叫び……! 『お金が欲しい』という純粋すぎる欲望が、かえって芸術的な輝きを放っていますわ!」

 カグヤ様の瞳が、獲物を見つけた鷹のようにギラリと光った。

『絶対無敵のスパチャアイドル!♪』

『五円が積もれば 山となる!』

『御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ♪』

『推しの生活 支えてちょーだい!』

「だ、ダメよルチアナ! 私の推しは月人君だけよ! 他のアイドルに浮気するなんて……っ」

「わたくしもですわ! でも……でも、あんな必死に泥水すすって頑張ってる地下アイドルを見たら、パトロン(古参オタ)になって支えてあげたくなるのが、オタクのカルマというものですわぁぁっ!!」

 ドサァァァッ!!

 カグヤ様が、エンジェルすまーとふぉんを操作した瞬間。

 何もない虚空から、ピカピカに輝く『本物の金貨の山』が、みかん箱の前にドバババッ!と雪崩れ落ちてきた。

 神々のシステムを利用した、物理的な『赤スパ(超高額投げ銭)』である。

「ひゃあぁぁっ! ありがとうございますわ! カグヤちゃん(太客)、愛してますのーっ!!」

 リーザさんが、歌いながら見事なウインクと指差し(ファンサ)をカグヤ様に放つ。

「ああっ! 今、私に向かって指を差しましたわ! しかも名前を呼んでくれましたの! 最高! 尊い! 月人君とは違う、この距離感! 追加で金貨千枚、ドーーーーン!!」

「ああっ! カグヤばっかりズルい! 私も! 私もこの地下アイドルの『初めての古参』になるんだからぁっ! リボ払いの残枠、全部投下よぉぉっ!!」

 ジャララララララララッ!!!!

 庭の芝生の上に、莫大な質量の金貨が次々と降り注ぎ、あっという間に小山のようなスパチャの山が築き上げられていく。

 完全にトランス状態に陥った二人の女神は、ポップコーンのバケツを放り投げ、サイリウムの代わりに両手を激しく振り回してオタ芸を打ち始めていた。

「ヒャッハー! すげぇ額の金貨っす! ここは俺の出番っすね!」

 その混乱の中、背後からフェイトさんがシャシャリ出てきた。

「その金貨の山、俺の『コイントス』で倍に増やしてやるっすよ! 表が出れば軍資金(パチンコ代)は二倍! いくぜ、運命のコイントスっす!!」

 ピィィーンッ!

 フェイトさんが、ミスリル製のコインを高らかに指で弾き飛ばした。

 しかし、歌って踊り狂うリーザさんと、オタ芸を打つ女神たち、そしてコインを追って飛び上がったフェイトさんが入り乱れた結果。

 庭の芝生が激しく蹴り上げられ、凄まじい『土煙』が舞い上がった。

 バサァァァッ!!

 その土煙は、風に乗って、ガーデンテーブルの上へと容赦なく降り注いだ。

 私が用意した、極上の【3色アソート高級ポップコーン】と、フルーツティーのピッチャー。

 その上に、パラパラと泥や砂が降りかかってしまったのだ。

「あ……」

 私の隣で。

 大事そうにキャラメルポップコーンを抱えていたリンちゃんの動きが、ピタリと止まった。

 彼女の手の中にあった、一番大きくて美味しそうだったポップコーンに、黒い泥の塊がベチャッとへばりついている。

「……」

 リンちゃんは、泥のついたポップコーンと、広場で騒ぎ狂うダメ人間&オタク神たちの姿を、ゆっくりと交互に見つめた。

 普段はニコニコと笑っている金髪の愛らしい少女。

 しかし、彼女の正体は、次元を超越する『第六の聖獣・麒麟』。

 ガオガオンの構成獣たちですら一目置く、絶対的な力を持つ幻の存在である。そして彼女は、何よりも『アマネのご飯』をこよなく愛していた。

「……アマネの作ってくれた、大事なお菓子が」

 ゴゴゴゴゴッ……!!

 リンちゃんの周囲の空気が、一瞬にして静電気を帯びたようにバチバチと弾け始めた。

 澄み切っていた青空に、突如として真っ黒な雷雲が立ち込め、大公邸の庭全体が尋常ではないプレッシャーに包まれる。

「ひぃっ!? な、何この圧倒的な神気! カグヤ、アンタ怒ってるの!?」

「わたくしじゃありませんわ! まさか、この地下アイドルの隠された才能オーラ……!?」

「違うっす! このヤバい気配、お嬢の隣の金髪のガキから……っ!」

 騒いでいた四人が、ようやく事態の異常性に気づき、顔を引きつらせてリンちゃんを振り返った。

 リンちゃんは、ポイッと泥のついたポップコーンを捨てると、静かに右手を天に突き上げた。

「……うるさくて、お行儀の悪い子たちは、お仕置きだよ」

 カッ……!!

 次の瞬間、リンちゃんの小さな手から、目を開けていられないほどの眩い『黄金の雷』が空へと放たれた。

 それは雷雲の中で何万倍にも増幅され、神の裁きを体現する巨大な雷光となって、騒ぎの元凶である四人の頭上に容赦なく降り注いだ。

 ドッッッゴォォォォォォンッ!!!!

 大地を揺るがす轟音と共に、広場の中央に黄金の落雷が直撃する。

 「ぎゃあぁぁぁっ!?」という情けない悲鳴が重なり合い、凄まじい閃光が庭を白く染め上げた。

     *

「……ふぅ。これでやっと、静かになりましたわね」

 数分後。

 私は、新しいポップコーンのバケツと、淹れ直した温かい紅茶をテーブルに並べ、ホッと一息ついていた。

「アマネ、ごめんね。テーブル、ちょっと焦げちゃった」

「いいのよ、リンちゃん。リンちゃんが私のお菓子を大事に思ってくれたこと、とっても嬉しいわ。ほら、お口の周りにおコゲがついてるわよ」

 私はハンカチを取り出し、リンちゃんの口元を優しく拭ってあげた。リンちゃんは「えへへ」と照れくさそうに笑い、再び新しいキャラメルポップコーンを幸せそうにサクサクと食べ始めた。

 その私たちの目の前、黒焦げになった芝生の中心には。

「……ぷすぷす。アイドルなのに、髪の毛がチリチリのアフロになってしまいましたわ……」

「……俺の、パチンコの軍資金が、全部黒焦げの灰に……っす」

「……な、なんて恐ろしい雷なの。私の最高級トリートメントの髪が……爆発しちゃったわ……」

「……月人君のライブに行く前に、美容室を予約し直さなければなりませんわね……」

 見事なまでに髪の毛が『真ん丸のアフロヘア』になり、口から白い煙を吐き出している、リーザさん、フェイトさん、そして二人の女神たちの姿があった。

「ふふっ。お茶会は静かに楽しむのがマナーですからね。お四人とも、反省したならこちらへどうぞ。まだお茶とお菓子はたくさんありますから」

 私が完璧な営業スマイルで手招きすると、アフロヘアの四人は、涙目でコクリと頷き、這うようにしてガーデンテーブルへと集まってきた。

 神様も、アイドルも、ポンコツ護衛も関係ない。

 限界OLの美味しいお茶と、聖獣(親友)の容赦ない『アフロの裁き』の前では、誰もが等しく平和な日常へと強制的に引き戻されるのである。

 大公邸の庭に、ようやく本当の(少し焦げ臭い)穏やかなティータイムが訪れたのだった。

お読みいただきありがとうございます!


評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ