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婚約破棄されたので、辺境で善行通販をしたら冷酷な大公に溺愛されました~無能令嬢は、癒やしの力で国を動かす~  作者: 月神世一


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EP 8

「3日限りの錬金術と、堕ちたアイドルのゴト師計画」

勇者ゼロスによる「偽善の救済劇」が、ルナの『ハッピー・ドリーム(触手VR接待)』によって完全なる自爆と炎上へと終わってから数日。

ポポロ村の村長宅シェアハウスには、再び平和で、しかし圧倒的にコンプライアンスの欠如した日常が戻ってきていた。

「サクサク……パリッ。アマネさん、この『のり塩味』というのも素晴らしいですね! コンソメパンチの暴力的な旨味とは違う、磯の香りと絶妙な塩加減……! 私、もう世界樹の朝露だけでは生きていけません!」

リビングの特等席である『こたつ』にすっぽりと入り込み、パステルカラーのドレスにポテトチップスの粉をつけながら恍惚の表情を浮かべているのは、エルフの次期女王候補であるルナだ。

完全に地球のジャンクフードに胃袋をハックされた彼女は、もはや「歩く自然災害」から「ただのポテチ依存症のニートエルフ」へと成り下がっていた。

「はいはい、食べこぼしはちゃんと拾ってね。……はぁ、それにしても今月の生活費、どうしようかしら」

私はテーブルの端で、タローマン製の電卓(魔導計算機)を叩きながら深いため息をついた。

ルナが毎月仕送りとして受け取っている『純金100kg』は、市場に出せばルナミス帝国の経済がハイパーインフレを起こして崩壊するため、村長宅の地下室に厳重に塩漬けにしてある。

そして、前章のライブで得た莫大な収益や女王からの協賛金は――。

「フフフ……この新しいフリルのドレス、最高ですわ! これで次回のライブの物販(チェキ会)の売上は三倍増し間違いなしですの!」

部屋の隅で、真新しい超高級ドレスを広げてウットリとしているリーザちゃん(現在は特売の芋ジャージ着用)が、すべて自分の『アイドル衣装代』と『自己投資(という名の浪費)』に全額突っ込んでしまっていたのだ。

「リーザちゃん。あんたが協賛金を全部使い込んだせいで、うちの当面の生活費(現金)がカツカツなのよ。今日の夕飯、またパンの耳と雑草の炒め物になるわよ」

「えっ!? そ、それは困りますわ! アイドルたるもの、常に最高のコンディションを保つためにタダ飯……いえ、栄養のあるものを食べませんと!」

リーザちゃんが慌てて振り返る。

すると、こたつでポテチを齧っていたルナが、ピコーン! と尖った耳を立てた。

「生活費、ですか? なーんだ、そういうことなら私にお任せください! アマネさんに『市場破壊』のコンプライアンスを教わった私なら、完璧な解決策を出せますよ♡」

「……嫌な予感しかしないんだけど」

私の制止を聞かず、ルナはこたつから這い出すと、庭から拾ってきた『ただの川原の石ころ』をテーブルの上に並べた。

そして、世界樹の杖を取り出し、コホンと咳払いをする。

「えいっ♡」

ルナが杖を振ると、眩い黄金の光が石ころを包み込み――次の瞬間、テーブルの上には、本物と寸分違わぬ『ルナミス帝国の金貨』と『大粒のダイヤモンド』が山のように現れた。

「……ルナさん。あなた、また錬金術で……」

「ふふっ! アマネさん、安心してください! これらは本物じゃありません! 以前の監査官の時と同じ、私の魔力で作った『3日経つとただの石ころに戻る偽金』です!」

ルナは胸を張り、ドヤ顔で言い放った。

「市場にお金が出回りすぎるからインフレが起きるんですよね? でも、このお金は3日で消滅します! つまり、市場の総量は変わらない! インフレも起きない! エコで安全な、完璧なコンプライアンス遵守のお金です!!」

「バカァァァァァァァッ!!!」

私はバインダーで、ルナの頭をスパーン! と思い切り叩いた。

「あいたっ!? な、なんでですかアマネさん! 私、ちゃんと経済のお勉強したのに!」

「経済は合ってても、法律が完全にアウトなのよ!! 偽金を使って買い物をしたら、3日後にそれが石に戻った時、商品を引き渡したお店の人がまるまる大損するでしょ!? それを世間では『詐欺』って呼ぶの! 偽造通貨行使罪で、帝国騎士団に首を刎ねられるわよ!!」

私が激怒すると、ルナは「ええっ!? お店の人、損しちゃうんですか!? そんなの可哀想ですぅぅ!」と、自分の提案の致命的な欠陥に気づいてポロポロと泣き始めた。

根が善人すぎるが故に、致命的に想像力が足りていないのだ。

「……アマネ様」

だが、その時だった。

テーブルの上に積まれた『3日限りの偽金』を、目をギラギラと血走らせながら見つめている女が一人いた。

我らが絶対無敵の地下アイドル、リーザ・シーランである。

「リーザちゃん? あんた、またろくでもないこと考えてるわね」

「失礼な! アマネ様、貴女は『プロデューサー』としては一流ですが、裏社会を生き抜く『ハスラー』としての才能には欠けていらっしゃいますわ!」

「ハスラーって何よ。あんたアイドルでしょ」

リーザちゃんは芋ジャージのポケットに両手を突っ込み、ニヤリと悪党のような笑みを浮かべた。

「この偽金……3日で消えてしまうなら、3日以内に『本物の資産』にロンダリング(資金洗浄)してしまえばいいだけの話ですわ!」

「は?」

「王都にある、帝国最大の遊技場……『ルナミスパーラー(パチンコ店)』に行くんですの!」

リーザちゃんは、テーブルの上の偽金を鷲掴みにした。

「この偽金で、パーラーの『遊戯用メダル』や『銀玉』を大量に買います。そして、パチンコで大勝ちして、その出玉を景品交換所で『本物の金(特殊景品)』に替える! お店が『あれ? 売上金が石になってる?』と気づくのは3日後。私たちは既に本物の金を手に入れてトンズラ完了。……完全犯罪ですわ!!」

「アイドルの口から『資金洗浄』と『完全犯罪』って単語を出さないで!!」

私は頭を抱えた。

「だいたい、パチンコなんてギャンブルでしょ!? 大勝ちする保証なんてどこにもないじゃない! 負けたら偽金が回収されるだけで終わりよ!」

私が正論で叩き潰そうとすると、リーザちゃんは「ふっ」と鼻で笑い、自分の頭の横にある人魚のヒレを指差した。

「アマネ様、私の種族をお忘れですか? 私は人魚セイレーン。……水を操り、そして『念動力テレキネシス』を微弱ながら使えるのですわ」

「……え?」

「ルナミスパーラーに最近導入された『羽根物パチンコ(玉の物理的な動きでVゾーンを狙う台)』。……私が台の前に座り、念動力でガラスの向こうの銀玉の軌道を強引に捻じ曲げ、すべての玉を『Vゾーン』にねじ込み続ければ……!!」

リーザちゃんは両手を天に掲げ、狂気的な笑い声を上げた。

「無限に大当たりですわ! 店の蔵が建つか、店長が泣いて土下座するまで、Vゾーンに銀玉をシュゥゥゥゥッ! 超エキサイティン!! これで私は大富豪! アイドル界の頂点ですわーーっ!!」

「それ、ただの『ゴト師(不正行為)』じゃない!!」

私は絶叫した。

詐欺(偽金行使)からの、ゴト行為(カジノでの超能力イカサマ)。

もはやコンプライアンス違反などという生易しいものではない。完全にルナミス帝国の裏社会を敵に回す、極悪非道な犯罪コンボである。

「リーザちゃん! アナステシア世界最強のアイドルを目指す女が、パチンコ屋で念動力使って出玉を抜くなんて、プライドはないの!?」

「プライドで腹は膨れませんわ! パンの耳より、確実な特殊景品(金塊)ですの!」

完全に目が¥マークになっている。

「アマネさん! リーザちゃんの計画、完璧っす!」

そこに、バンッ! と扉を開けて入ってきたのは、私のポンコツ護衛・フェイトだった。

彼はリーザちゃんの手をガシッと握りしめ、感動の涙を流している。

「俺、王都のパーラーで作った借金がまだ残ってるんっすよ! リーザちゃんの念動力があれば、あの忌々しい『釘』を無視してボロ儲けできる! アマネさん、俺たち、今からちょっと王都へシノギに行ってきやす!!」

「あんたA級冒険者でしょ! パチンカスみたいなこと言ってんじゃないわよ!!」

偽金を作る歩く自然災害エルフ、ゴト師に堕ちた地下アイドル(人魚)、そして借金まみれの護衛(人間)。

我がシェアハウスの倫理観は、今まさに崩壊の危機グランドクロスを迎えていた。

「絶対にダメ! ルナさん、その偽金は没収! 庭に埋めて3日待ちます! リーザちゃんとフェイトも、一歩でも外に出たら大公軍の近衛兵を呼んで縛り上げるからね!!」

私はブラック企業時代、不正経理を働こうとした営業部長を土下座させた時の『絶対零度の覇気』を解放し、三人に向かって怒鳴りつけた。

「ヒィィッ! わ、分かりましたわ……」

「す、すみませんっす……」

私の凄まじい剣幕に、リーザちゃんとフェイトはシュンと肩を落とし、ルナも「ごめんなさいぃ」と縮み上がった。

私は偽金をすべて回収し、麻袋に詰めると、庭の隅の土の中へと深く埋めた。

「……まったく。油断も隙もないんだから」

私は額の汗を拭い、キッチンへと向かった。

今日の夕食は、何がなんでも激安の食材で豪華に見える料理を作らなければ。この貧乏性たちに、これ以上変な気を起こさせないためにも。

だが、私は限界OLとしてのリスク管理能力に自信を持ちすぎていた。

夕食の準備を終え、リビングに戻った私が目にしたのは、もぬけの殻になった部屋と、開け放たれた窓。

そして、テーブルの上に残された一枚の書き置きだった。

『アマネ様へ。

 アイドルの夢を掴むため、少しだけ王都でVゾーンを狙ってきますわ。

 夕飯には間に合うように帰ります。

 P.S. フェイトが庭から偽金を掘り起こしてくれました。 ――リーザ&フェイト』

「……あの、バカどもぉぉぉぉぉぉっ!!!」

私の怒号が、ポポロ村の夕暮れ空にこだました。

「ルナさん! 留守番してて! 私は今から、王都のパチンコ屋に、あのポンコツ二人を〆に行ってくる!!」

「は、はいっ! アマネプロデューサー、お気をつけて! ポテチ食べながら応援してます!」

私はエプロンを放り投げ、血走った目で王都へと続く街道を走り出した。

アイドル生命(と命)を賭けた、最悪のゴト師計画。

このまま彼らがルナミスパーラーで不正を働けば、帝国の裏社会を取り仕切るマフィアに『東京湾(ルナミス湾)』に沈められるのは確実だ。

「絶対に……絶対に大炎上(BAN)だけは防ぐわよ!!」

限界OL・アマネの、仲間を地獄から引き戻すための全力疾走が始まった。

第5章は、いよいよ最高潮のドタバタ劇(ファミレスでの大団円)へと向かっていく。

読んでいただきありがとうございます。

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