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略奪者の鑑定書 ― 砂漠に沈む黒いダイヤ

1880年代。欧州の火種を「経済同盟」という檻に閉じ込めたヨシュア・ゴールドシュミットの元に、南アフリカのケープ植民地から血の混じった砂の報せが届いた。


「ヨシュア様、セシル・ローズが動きました。彼はキンバリーのダイヤモンド鉱山を強引に統合し、独占企業『デ・ビアス』を設立。その資金を背景に、私設軍隊を組織して先住民の土地を蹂躙し、アフリカを北から南まで『英国の赤色』に染め上げる縦断計画をぶち上げています。彼は、あなたが築いた『対等な貿易』を、力による『略奪経営』に書き換えようとしています」


サミュエルの報告書には、ローズが提唱する「カイロからケープまで」の鉄道計画が記されていた。それは平和のための鉄道ではなく、資源を吸い上げ、兵を運ぶための、侵略の動脈であった。


ヨシュアは、ロンドンのゴールドシュミット銀行本部の机上で、ローズが発行したデ・ビアス社の目論見書をじっと見つめていた。


「……独占、差別、そして略奪か。サミュエル、このローズという男は、ダイヤモンドの輝きに目が眩んで、市場の『本質』を見失っている。希少価値とは、信頼の上に成り立つものだ。力で奪い、血で洗った石に、誰が未来の富を託すというのだッ!!」


ヨシュアは即座に動き出した。彼はローズの後援者であるロンドンの貴族たちに「信用の即時停止」を突きつけると同時に、ケープ植民地へと飛んだ。


数週間後。ケープタウンの邸宅で、アフリカ大陸の地図を定規で切り刻み、新たな植民地名を書き込んでいたセシル・ローズの前に、ヨシュア・ゴールドシュミットは独り、現れた。


「ゴールドシュミット殿。貴殿の『平和な商売』は、この荒野では通用しない。ここでは力がすべてだ。私がこの大陸の富を独占し、大英帝国の永遠の栄光を築いてみせる」


ローズが傲慢に笑う。だが、ヨシュアは無言のまま、一枚の「市場鑑定書」を机に叩きつけた。


「栄光だと? ……笑わせないでいただきたい。あなたが今握っているのは、ダイヤモンドではなく、ただの『呪われたつぶて』だッ!!」


ヨシュアの声が、熱風の吹く室内に鋭く反響した。


「な、何だと!?」


「いいですか。あなたが武力で土地を奪い、現地の民を奴隷として働かせれば、その事実は瞬時に清国、アメリカ、欧州の市場に知れ渡る。私は既に、世界中の宝飾商に対し、『ローズの血塗られた石』の全面ボイコットを指示した。……あなたがどれほど掘り出そうと、その石を買う者は、この地球上に一人もいなくなるのだッ!!」


「貴様……! 市場を操作して私を破滅させる気か!」


「操作しているのは、あなたの『非人道的なコスト』だッ!!」


ヨシュアは一歩、ローズの鼻先まで詰め寄り、逃げ場のない真実を叩きつけた。


「やられたら、やり返す。……アフリカの大地を自らの虚栄心のために引き裂き、平和という名の信用を棄損しようとした罪。その報いを、あなたがたの『独占体制の完全解体』という形で、一文残らず清算していただくッ!!」


ヨシュアは、ローズが最も恐れていた「株主総会」の委任状の束を掲げた。


「本日、デ・ビアス社の全株式の過半数を、わが銀行団が買い取らせていただいた。……今、この瞬間から、この会社の経営陣は全員解任だ。……鉱山から得られる利益は、軍備ではなく、アフリカ全域を結ぶ『自由貿易鉄道』、そして現地の教育に直結させる。……略奪の時代は、私がこの手で終わらせるッ!!」


ヨシュアの圧倒的な「資本の暴力」を前に、ローズの野望は、その根底から崩壊した。


1880年代末。アフリカ分割という史実の悲劇は、ヨシュアが仕掛けた「経済的包囲網」によって、大陸全体の自立を促す「共同開発」へとその姿を変えた。ローズの私設軍隊は解散させられ、アフリカの富は、略奪の種ではなく、平和を維持するための「担保」へと転換されたのである。


「サミュエル、次の工程だ。……アフリカの夜明けを、一ペニーの血も流さずに迎えてみせる。……この大陸に敷くのは、支配の鎖ではない。自由な商人が行き交う、希望のレールだ」


ヨシュア・ゴールドシュミット。一人の金貸しの執念が、暗黒大陸と呼ばれた大地に、平和という名の巨大な黒字を刻み込んでいた。

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