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諸国民の春 ― 怒れる資本(エネルギー)の再投資

1848年、欧州。 パリで火がついた「自由」への渇望は、瞬く間にウィーン、ベルリン、ローマへと飛び火し、大陸全土を激震させていた。旧態依然とした王侯貴族の支配に対し、民衆はバリケードを築き、銃を手に取った。史実において、この「諸国民の春」は血で血を洗う混沌と、その後の苛烈な反動政治へと続くはずの分岐点であった。


ヨシュア・ゴールドシュミットは、混乱の極みにあるパリの商工会議所にいた。窓の外からは、革命歌を歌う群衆の地鳴りのような怒声が聞こえてくる。


「ヨシュア様、危険です! すでに臨時政府の過激派は、銀行の国有化と資産の強制徴収を叫んでいます。今すぐこの街を脱出せねば、あなたの命も算盤も、暴徒の餌食となります!」


サミュエルの必死の訴えにも、ヨシュアは動かなかった。彼は静かに、燃え盛る街を見つめ、銀の算盤を手に取った。


「……サミュエル、彼らが求めているのは、破壊そのものではない。彼らは『明日を信じられない自分たちの絶望』に憤っているのだ。ならば、私がその絶望を買い取り、未来という名の配当を支払ってやるッ!!」


ヨシュアは、暴徒と化した群衆の代表者、そして崩壊寸前の旧体制の官僚たちを、燃えるバリケードのすぐ裏にあるカフェへと呼び出した。


「ゴールドシュミット! 貴様のような金貸しが何を語る! 貴族共と癒着し、我々の労働を吸い尽くしたその金を今すぐ差し出せ!」


怒り狂う労働者のリーダーが、ヨシュアの胸倉を掴んだ。だが、ヨシュアの眼光は、火炎瓶の炎よりも熱く彼を射抜いた。


「差し出すだと? ……笑わせないでいただきたい。私が今ここにある金をあなたがたに配れば、明日には物価が高騰し、その金は一切れのパンも買えない紙屑に変わるだろうッ!!」


ヨシュアの咆哮に、一瞬の静寂が訪れた。


「いいですか。あなたがたの怒りは、この国に眠る巨大な**『未稼働資産』だ。破壊に使えばただの赤字だが、これを建設に向ければ、欧州を数世紀分進化させる莫大な原動力となる。本日、私はゴールドシュミット・シンジケートの全資産を担保に、『欧州労働・開発共同債』**を発行することを決定したッ!!」


ヨシュアは、算盤を激しく叩き、数字という名の弾丸を撃ち込んだ。


「本日をもって、あなたがたの武器をくわとハンマーに持ち替えろ。バリケードを壊し、そこに鉄道を敷け! 工場を建てろ! 都市を近代化しろ! その労働の対価は、わが銀行が発行する共通通貨手形で、世界で最も高い賃金として保証するッ!!」


「そんなことが……可能なのか? 誰がその資金を出すのだ!」


「私だッ!! 私は、あなたがたが築く未来の繁栄を、たった今、**『一括で前払い』**したのだッ!!」


ヨシュアは一歩、軍隊を差し向けようとしていた旧体制の官僚たちの前に立ちふさがった。


「やられたら、やり返す。……民衆の窮乏を無視し、自分たちの権益に固執して歴史を停滞させた罪。その報いを、あなたがたの『特権の完全開放』と『公債による財政管理』という形で、一文残らず清算していただくッ!!」


1848年。欧州を灰にするはずだった炎は、ヨシュアによる「巨大な再投資」という名の防火壁に突き当たり、奇跡的なまでの産業発展の熱源へと変貌した。民衆は破壊ではなく、自らの手で未来を築く喜びを分かち合い、ヨシュアの算盤が弾き出した「平和の利回り」を享受し始めたのである。


ヨシュアは、静かになったパリの夜空を見上げた。


「サミュエル、これでいい。……革命とは、首を跳ねることではない。社会の帳簿を、全ての人間が利益を得られるよう書き換えることなのだ」


1848年、春。 ヨシュア・ゴールドシュミット。一人の金貸しの執念は、民族の怒りという名の荒波を、文明を押し進める黄金の潮流へと変えてみせた。

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