24 黒須 恭哉
月曜ってのは気分も体もノらねぇ。
ダルぃわ、眠ぃわ、得なんざ一つもねぇ。
朝から学校なんざ行く気にもならねぇ。
ただ、行かねぇっつー選択肢はオレにはない。
あん?
いや、勉強したいだとか友達付き合いだとかんなくだらねぇことはどうでもいいんだよ。
いい子でいようとか、社会的に問題のない子になろうとかそういうのも特にない。
迷惑をかけたくねぇ人がいるってだけさ。
ま、オレにもオレなりの事情ってもんがあんだよ。
と、オレが基本ダルいだけの月曜の朝から学校に来たのは、今日がたまたま気分がよかったとかんなくだらねぇ理由じゃない。
強いて言うなら何となく。
そう、何となくだ。
何となくって曖昧な表現を使わねぇで話すとするなら、今日が三日後だから、だな。
「ふあぁ~……」
「おはよう。黒須くん」
「ああ」
何のことか?
ハァ。
コイツから学校に忍び込むから来てくれと呼び出しがあった日からだ。
金曜の夜に呼び出され、土日を挟んだ今日。
ただの憶測だが、何かあるかもしれねぇって思った。
それだけのことさ。
くだらねぇこと言わせんなよ。
「あの後は?」
「ああ、うん。大丈夫。特に何もなかったよ」
「そうか」
何かあったとしてもコイツは言わねぇだろーがな。
オレよりメンドーな性格してやがる。
ああ、オレの目の前にいるこのチビは、ヤス。
本名は丸内 泰邦。
コイツとはオレが転校してきた時……五年の頭からつるむようになった。
あん? イジめちゃねぇよ。
んなくだらねぇことやるわけねぇだろーが。
このチビと初めて接触したのはオレからだが、誘いに乗ったのはコイツのほうだ。
そこはいいだろ。
話すのもメンドーだしな。
さて。
何かあるかもしれねぇってのはコイツとの話だ。
思い当たる節があるんでね。
「ところで黒須くん」
そらきた。
「あとで二人で話したいんだけど。いいかな?」
「分かった」
断る理由もねーし、その為に来たようなもんだしな。
つーか睨むまでいかなくても、ヤスの目はオレに何かしらキレてることが窺えるしな。
ビビったとかんなのはねーが、コイツには色々と興味がある。
コイツは、何つーか他の奴とは違う。
違う、っつー表現が正しいわけじゃねぇが「違う」んだ。
上手く表現できねぇから具体的に説明しろっつーのはナシにしてもらいたい。
初めにそういう感情をコイツに抱いたのは、転校してきた初日、つまりこの学校に来た日だ。
その日もまあ今と同じようにダルいとか何とか考えてた。
当然だろ、転校なんてメンドーなだけじゃねぇか。
んなこたどーでもいい。
転校したことに少なからずイライラしてたっつーのはあっただろう。
そうでなくても学校に来るっつーこと自体が苦痛ってほどじゃねぇがはっきり言や嫌悪感を抱く行為だってのに、それに加えて「転校生」なんて肩書きまで付く。
目立ちたいわけでもなけりゃ騒がれたいわけでもねぇ。
だが転校生は必ず一度は面通ししなけりゃならん。
そこでサボる選択はあったさ。
そういう選択をしなかったのは、……いや、いい。
話が逸れちまったが、転校初日、オレはこの教室の一員になった。
自己紹介とかよくあるやつやって、席に座ろうと移動した時だ。
他のヤツらはオレを見て興味をもつどころか避けようとするのがほとんどだった。
眼を見りゃ分かる。
見た目不良で、トゲトゲしたヤツがガン飛ばしてんだからそりゃ関わりたくねぇよな。
だが、ヤスは違った。
オレから眼を逸らすどころか興味を持ったかのような視線を送ってきた。
変なヤツだとも思った。
だが、やっぱ他のヤツとは「違う」んだと感じた。
だからこそオレから接触してみることにした。
その頃にはイライラも何もどっかにいっちまってたっけな。
チッ、話が長くなっちまったな。
要するにヤスは異質ってこった。
・・・・・・・・・・
二時間目と三時間目の間、この学校では長休みと呼ばれている二十分間の休み時間にオレはヤスに呼び出された。
呼び出されたわけだが。
付いてこい、ではなく、待っていろの指示でオレは五年の教室から上の階に上っていった屋上に出る扉の前にいる。
ヤスからの呼び出しではあるが、その本人はまだ来てねぇ。
一緒に来たわけじゃねぇからな。
途中でトモに呼び止められてたから先に行ってろってわけだ。
……足音だ。
アイツが足音を分かりやすいような大きさで立てるなんざ珍しいこともあるもんだな。
相当イラついてるってことか。
さて。
「よう。来たかチビ」
「ずいぶんな言い草だね、不良くん」
ガン飛ばしてくるんなら応える。
オレはイラついてるわけじゃねーが、オレらの挨拶みたいなもんだ。
「んで、何の用だ」
さっさと終わらせてぇからな。
いや、何の用かなんざ訊く必要もねぇんだが。
思い当たる節があるっつったろ。
ヤスも「とぼけるな」みてぇな顔してるしな。
「ともに、あのこと話したんだってね」
あのこと。
ヤスから口止め喰らってた話があった。
トモに話したのもオレだ、少し話してやるよ。
さっきオレが転校してきた日ヤスと接触したって話したよな。
そっから月日が少し経ってからのこと。
それなりにヤスとも絡むようになって、ヤスに付いてくるようにトモだの司だの、その他諸々のヤツらともまあ接点ができちまった頃だ。
ヤスがオレ絡みの輩にラチられた。
詳しいことは省かせてもらうぜ。
んで、ソイツらにヤスは無抵抗を貫きボコボコにされた。
司と駆けつけた時にはもうボロボロでまともに立てる状態じゃなかった。
だがコイツは、ケロッとした顔をして何もなかったかのように振る舞いだしやがった。
そして、口止めをオレら二人に強いた。
それは、トモに対しての口止めであって、オレを含めた三人……オレ、ヤス、司の間で交わされたもの。
交わされた、なんて言い方はやめよう。
コイツがオレらを脅して黙らせた。
こんなもんかね。
「どっちに聞いた」
「昨日ともが。そのついでにツカサくんからも黒須くんが話したらしいってことを聞いた」
あのチビ……。
いや、アイツならヤスを問い質すことくらいするよな。
にしても司もとはな。
恐らくコイツが脅してか何かで訊き出したんだろうな。
司なら脅しでは動かんだろうが……いや、やめとくか。
「話すなって、言ったよね?」
「そうだったか?」
「まあ、別にいいんだけどね」
別にいいって感じにゃ見えんがな。
さてぇ?
コイツはどう動いてくるのかねぇ。
揺すってみるか。
「でぇ? 約束を破ったらしいオレはどうしたらいいんだよ」
明らかに表情が変わった。
イラ立ちの表情ではなく、何かを企んでる顔……ってとこか。
コイツ、中身でいったらオレより性根腐ってんじゃねーの?
ま、今回は大人しく従うと――
「今日一日ぼくの言うことは絶対」
――する、か。
…………あん?
「今日一日、ぼくが黒須くんに言ったことは絶対守ってもらうし、従ってもらう」
「オマエ、ナメてんのか?」
「ナメてるのはそっちだよね? ぼくはともにあのことを話すなって言った。話したら殺すとも言った。でも殺さない。これは、ただの取り引きじゃない。ぼくから君への復讐だよ、黒須」
……呼び捨て、か。
チッ、こりゃ下手に逆らわねーほうが賢明だな。
コイツがトモ以外を呼び捨てで呼ぶことはまずない。
どんなにムカつく相手だろうとそれは変わらない。
コイツの中に何かしらのラインがあるんだろう。
それは、信頼の度量で、恐らくその敷居はかなり高い。
トモは長く一緒にいたことでそれをクリアしたのか、または別の理由か。
そしてトモ以外……つまりオレやツカサを含めた他のヤツらはそれをクリアしていないからこそ、一線を引かれ「敬称」という形でそれは表れている。
ハァ。
ま、いいだろ。
「いいぜ。それで呑んでやる」
「君ならそう言ってくれると思ったよ」
ふっと力が抜けたように口角を上げ笑って見せるコイツのことが、オレはたぶん怖ぇんだろうな。
んなこと思うなんざガラにもねぇが。
だが、それだけコイツはワケが分からねぇんだよ。
コイツの中には、何かある。
そう思わされる。
その「何か」を今すぐに確かめたいとは思わねぇが、コイツならいつかふとした時にでも話し出すんじゃねぇかとも思う。
……いや、そりゃオレの希望的観測だな。
「さ、戻ろうか。長休みもあと少しで終わりだ」
「ああ」
今日一日は、コイツのイヌになるわけだ。
気分?
いいわけねぇだろーが。
オレは、コイツの復讐を受けただけだよ。
あの時、不意に「コイツはヤスの闇の部分を知らない。なら、混ぜ合わせてみたら面白ぇことになるんじゃねぇか」と考え、トモにうっかり話しちまったから。
復讐を受けるべくして受けてんだよ。
「そうだ黒須くん。今のこと、今日一日だけじゃなくこの先ずっと誰にも絶対言っちゃダメだからね」
……コイツは、それも見透かしてるのかもな。
そのうえで、こんなすぐ破りそうな「絶対」を提示してきてるんじゃねぇかってな。
話すの面倒とか言いながら結局全部話してくれるキョーヤくん。
根はいい奴なのかなぁ。




