23 君が。(紀井 智明⑩、丸内 泰邦⑬)
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おれとやすがそれぞれ注文したものができて机まで運んで食べ始めた時、さっきよりも人がたくさんこのフードコートに入ってきたように思えた。
てか実際時間的には昼ごはんの真っ最中だから当たり前か。
「そうだ。さっきシキとちはるに会ったよ」
「? ちーくんたちも来てたの?」
やすはちはるのことを「ちーくん」と呼ぶ。
幼稚園が一緒だったからずっと知ってる仲なんだけど、やすがおれ以外であだ名みたいに呼ぶのはちはるだけなんだ。
シキのことも「緑山くん」って呼んでるし。
「うん。二人は姉ちゃんの荷物持ちなんだって」
「あー、そういうことか。今日はみんなに会うね」
みんなっていっても四人だけだけど。
けど確かに学校の友達によく会う日だな。
って、この辺の人ならこのショッピングモールにいても不思議じゃないんだった。
そんなことを話しながら、おれたちは自分たちが注文したものを平らげた。
うまかったー。
まだ食べれるけど、やめとこう。
「次はどこに行く?」
やすが水を飲みながら訊いてきた。
この水は、ラーメンとチャーハンを取りに行った時に紙コップを二つもらっておれが淹れてきたやつだ。
水はたぶんよくあるやつだと思うんだけど、セルフサービスだ。
けど、おれたちが座ってる席から少し遠いのはめんどくさいなー。
「んー。やすは行きたいとこもうないの?」
「ないね」
即答かよ。
えっと……あっ、ゲーセン行こっかな。
ちょっとは遊んで帰ろうよ。
「別にいいけど、あんまり無駄遣いしないようにね」
「うん」
これ、やすによく言われるんだよね。
おれってすーぐ無駄遣いしようとするから……。
てことでおれたちは二階のゲーセンエリアに向かうことにした。
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ゲーセンエリアもそこそこ広くて、気になるゲームとかいっぱいある。
こういうの、ほんと大人の戦略だよなぁ。
子どもがやりたくなるようなもんばっか集めて設置して、どんどん金出させて「とも、顔怖いよ」……はい。
そんな感じでやすと色んなゲームをやった。
エアホッケーとか、あの赤い帽子のおっちゃんが冒険するやつとか、クレーンゲームも少しだけやった。
対戦系のやつは何個かやって、勝ったり負けたり忙しかった。
協力してできるやつとかは、おれたちの連携プレイで……んっと、まあボコボコにされちゃったんだけど。
そうそう。
クレーンゲームは、おれがあれ欲しいとかなったのもあってやったんだけど、やすが食いついたものがあった。
猫のぬいぐるみだ。
くにあきいるからいいじゃんーって言ったら「それでも欲しい!」ってスゴい顔で言い返されちゃった。
結果?
結局取れなかったんだよね。
おれも挑戦してみたんだけど、結構難しかった。
やすはだいぶ落ち込んでたけど、これ以上やるとやすが無駄遣いしそうだからさすがに止めた。
「さっきおれに『無駄遣いしないようにね』とか言ってたのに立場逆転してるじゃん」
あっ!
やべ、つい思ったこと口にしちゃった……。
怒らないかな……?
「ごめん……。つい……」
そう思って表情を覗いてみたら、やすは苦笑いしながら返してきた。
言ったあとでヤバいって思っちゃったけど、何もなくてよかった。
ケンカになってもおかしくないこと言っちゃったはずだったんだけど……相当ショックだったんだなぁ。
そのあと、どうにかして気をまぎらわせようとまた対戦系のゲームをしてるうちにやすも元気を取り戻してきて、何だかんだ言って楽しそうにしてた。
「はあー」
対戦系のゲームで熱くなって、ついついお互いに盛り上がりすぎてちょっと疲れた。
てことで、おれたちはゲーセンの近くにある休憩スペースの椅子に座って休むことにした。
やすは映画を観る前に強引に奢ったむぎ茶を飲んで一息ついてる。
もうさっきの落ち込んだ様子はずいぶんとマシになったみたいでよかった。
「結構遊んだね」
「だな。ちょっと疲れたー」
「あははっ」
その笑ってる顔が、眩しかった。
この笑顔が、おれにとっては宝物だ。
心から笑ってくれてるのが分かる。
楽しいって気持ちが伝わってくる。
こんな楽しそうに笑ってくれる、そんな君が。
◆◇◆
ペットボトルの底のほうに残っていたコーラを飲み干してから、ともがこちらのほうをじっと見つめてくる。
ぼくの顔に何か付いているのかな?
……というわけではないみたいだ。
気にしないでおいたほうがいいかな?
「やす。そろそろ帰ろ」
そんなことを考えていたら、思い出したようにともが言った。
えーと……今は何時だろう。
携帯電話の画面の時刻表示を確認すると、十五時になる少し前だった。
結構盛り上がって遊んでいたから、そんなに経っていたなんて思いもしなかった。
……うん。
あの猫のぬいぐるみを取れなかったのは残念だったけど、それでも楽しかった。
ともが、いや、ともと一緒だったから楽しかったんだ。
「うん。帰ろう」
「あっ、そうだ。帰ったら、勉強教えてよ。昨日結局できなかったし」
おぉ、そういえばそうだった。
昨日学校に忍び込んで、ともの家に帰ったあとはすぐにお風呂に入って寝る準備をしたらそのまま布団に入ってしまったから、勉強どころではなかったんだっけ。
「分かった。でも、疲れて眠っちゃわない?」
「んー……あるかも」
そんな会話をしながら、ぼくたちはまた手を繋いで歩き出した。
今日は本当に楽しかった。
あ、そういえば朱彦くんは見つかったのかな?
ゲームセンターエリアに来る途中やゲームセンター内では見かけなかったから、他のところにいたんだろうか。
権田くんカンカンだったからなぁ……今度権田くんの家に行って朱彦くんに会えたら慰めてあげよう。
余計なお世話か。
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帰り道は特に問題はなく、何事も起こらず、ともと手を繋ぎながら少し幸せな気分になりながら楽しく歩けた。
心が、ほっとしたような、そんな感覚があった。
ともの家に着いて玄関を開けたら、くにあきが座ってお出迎えしてくれた。
それはとても嬉しかったんだけど、そこには何とおばさんもいた。
偶然そこを通ったとかなら分からなくもないんだけれど、ただそこに立っていた。
ぼくたち二人は予想もしていなかったからこんなに早くお出迎えされるなんてといった感想で目を丸くしたけれど、そこに立っていたおばさんもなぜか驚いていた。
理由を訊いてみたら、ぼくたちが帰ってくる少し前にくにあきが突然何の前触れもなく玄関前に座り込んだんだとか。
不思議に思ってそのくにあきの傍にいたら、一分も経たないうちに玄関が開いたんだとか。
猫ってそういう能力があるのかな?
いや、野生の勘とか……?
そんな妙な能力あるかなぁ?
「おかえり、二人とも」
そんなことを話していて忘れていたけれど、おばさんは気を取り直すかのようにぼくたちを改めて笑顔で迎えてくれた。
だから、ぼくも、ともも。
少しへらっと笑いながらだけれど。
それでもきちんと。
「「ただいまっ!」」
と、答えた。
その後、ともの部屋で一時間ほど勉強会(二人だからそんな大したものではない)をしたんだけれど、お互いに少し疲れていたということもあると思う。
「とも、集中力切れてきたね」
「やすも眠そうだよ」
そんな会話が交わされて、そのすぐあとに明日ツカサくんも交えてやろうということになった。
連絡してみたら「OK。ビシバシ叩き込んでやる。」と返ってきたので、続きというか何というかは明日だねと話を締めた。
そこからは、あんまり覚えていない。
嫌なことがあったとか、事件が起きたとかそういうわけではないんだ。
ただ、お互い疲れて、もたれ合うようにして眠ってしまっただけで。
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目が覚めたのは日が沈んで部屋の中が暗くなってからだった。
寝相の悪いともが珍しくぼくにもたれかかった体勢のままだったので、こんなこともあるんだなぁと少し意外だと感じた。
「んー……やす?」
「あっ。ごめんっ、起こした?」
「んーん。だいじょぶ」
起きてしまったその眠そうな彼の顔を見つめていると、少し、求めたくなってしまった。
「とも。……いい?」
「えっ……? う、うんっ。いいよっ」
だから、許可をもらったから、そのまま……彼の唇に、ぼくの唇を。
「「んっ……」」
ぼくは彼を求めてしまう。
いつも明るく、ぼくを引っ張ってくれるその姿が。
ぼくのためにと努力の道を選んだその心意気が。
ぱあっと弾けたように笑うあの見慣れているけれど安心する顔が。
こんなぼくのことを想ってくれている君が。
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ともの家を出たのは日が完全に落ちたあと。
今日も泊まっていけばいいのにと言うともとおばさんに頭を下げつつ、くにあきを抱えて家に帰ることにした。
母さんが帰ってくるから、ご飯を作ってあげないといけない。
いや、母さんももちろん料理はできるんだよ。
でも疲れているだろうから、少しでも休んでもらいたいんだ。
だから少しゆっくりしすぎたかなぁと思っていたり。
「……あれ? 開いてる?」
玄関の鍵が開いている。
閉め忘れた……?
いや、今朝出かける時にちゃんと確認した。
ともも一緒だったから、それは確かなはずだ。
じゃあ何で?
「にゃー?」
うん。
何で、なんて考えても仕方ないよね。
たぶん、決まっているんだから。
玄関のドアを開けると、見慣れた女性ものの靴があった。
やはりそうだ。
あれぇ? 思ったよりも早い帰宅だな。
まあそんなこともあるか。
「ああ、お帰り泰邦」
珍しく、ぼくはその言葉を受ける側になった。
ああ、何か久しぶりに人に向けてこの言葉を返す気がするなぁ。
「ただいま。母さん」
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こんなぼくとともに居てくれる君が。
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いつもおれの心にやすらぎをくれる君が。
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世界の誰よりも愛おしい。
どんな人よりも、大好きなんだ。
紡がれる物語は、続いていく。
それは、彼らの中でこれからも。
ついつい忘れてしまいがちな、そんな自分たちの物語を、彼らはこれからも歩んでゆく。




