第三章 裁きの日
翌朝
少女は目を覚ました
いや
正確には目を覚まされた
激しく叩かれる扉の音で
「開けろ!」
「神父様の命令だ!」
怒鳴り声が響く
家の中に緊張が走った
父親が慌てて扉へ向かう
母親は青ざめている。
少女は嫌な予感がした
胸の奥が冷たくなる
扉が開く
そこには武器を持った男たちが立っていた
村の人間だった
見知らぬ兵士ではない
昨日まで顔を合わせていた人々
一緒に笑っていた人々
少女は思わず声を上げた
「どうしたんですか?」
男たちは答えない
ただ一枚の紙を突きつけた
「お前を魔女の疑いで拘束する」
少女は固まった
頭が理解を拒否する
「ま、待ってください」
「私は――」
言い終わる前に腕を掴まれた
乱暴に引きずられる
「違います!」
「私は何もしてません!」
叫ぶ
だが誰も聞かない
父親を見る
助けてくれると思った
当然だ
家族なのだから
しかし父親は目を逸らした
母親も同じだった
少女は言葉を失う
心が沈んでいく
深い水の底へ落ちるように
広場には既に人が集まっていた
まるで祭りの日のようだった
だが誰も笑っていない
皆、恐怖に取り憑かれた顔をしている
そして
その恐怖の矛先は少女へ向いていた
神父が前へ出る
「罪人よ」
少女は顔を上げた
「お前は悪魔と契約したのか」
「していません」
即答だった
神父は眉一つ動かさない
「ではなぜ薬草の知識がある」
「母に教わりました」
「なぜ森へ行く」
「薪や薬草を採るためです」
「なぜ夜に一人でいた」
少女は言葉に詰まる
月を見ていただけ
そんな理由を言ったところで意味がない
神父は勝ち誇ったように頷く
「沈黙は認めた証拠である」
広場がざわついた
少女は信じられなかった
何を言っても罪になる
何も言わなくても罪になる
最初から結論は決まっていたのだ
裁判ではない
処刑のための儀式だった
神父が叫ぶ
「証人を呼べ!」
最初に現れたのは農夫だった
畑を手伝った男
少女は何度も助けた
農夫は震える声で言う
「あの娘が畑に来てから不作になった」
少女は唇を噛む
次は羊飼い
「あの娘を見た翌日に羊が死んだ」
次は商人
「あの娘は普通じゃない」
次々と証言が続く
どれも証拠にならない
ただの思い込み
ただの恐怖
それでも人々は頷いていた
少女は必死に周囲を見渡す
誰か
一人くらい
信じてくれる人がいるはずだ
そう思いたかった
その時だった
神父が言う
「最後の証人」
人々が道を開く
現れたのは老婆だった
少女の呼吸が止まる
薪を運んだ
看病した
何度も助けた
あの老婆だった
老婆はゆっくり前へ出る
少女を見る
その目には涙が浮かんでいた
少女は希望を抱く
大丈夫
きっと分かってくれる
きっと
老婆の口が開いた
「ごめんよ」
少女の身体が震える
老婆は泣いていた
そして
「でも怖いんだよ」
少女の心臓が締め付けられる
「皆が言うんだ」
「お前が魔女だって」
「私も死にたくないんだ」
広場は静まり返った
少女は何も言えなかった
老婆は泣きながら頭を下げた
「許しておくれ」
その言葉は謝罪ではなかった
裏切りだった
少女の中で何かが壊れる音がした
父親を見る
助けてくれない
母親を見る
泣いているだけ
村人たちを見る
皆、自分を見ている
まるで怪物を見るような目で
少女は初めて理解した
誰も私を見ていなかった
皆が好きだったのは
優しい私
都合の良い私
断らない私
笑っている私
それだけだった
私自身じゃない
神父が立ち上がる
厳かに宣言する
「判決を言い渡す」
広場が静まり返る
少女は空を見上げた
青空だった
綺麗な空だった
皮肉なほどに
「被告を魔女と認定する」
「よって火刑に処す」
歓声が上がった
少女はもう驚かなかった
涙も出なかった
ただ
静かだった
胸の奥だけが
ひどく静かだった
まるで嵐の前の海のように




