第7話 偽の救恤印
港の荷札庫は、思った以上に雑だった。
木箱に詰め込まれた荷札束は年月順でも積み荷別でもなく、適当に放り込まれている。わざとではないのだろうが、不正を隠す人間には都合がよすぎる散らかり方だった。
私は一束ずつほどき、重さ印、積出し印、穀倉印を見比べた。
夕方になって、ようやく一枚が指に引っかかる。
北辺備蓄蔵向けの荷札なのに、裏面に王都中継倉の私印が押されている。しかも私印の上へ重ねるように、救恤印の写しが薄く乗っていた。
「見つけた」
私は思わず声を漏らした。
同席していたグレタが肩越しに覗き込む。
「何だい、その汚い札」
「汚いのではなく、二度押しです。本物の救恤印を一度使った荷札の上へ、複製印を重ねている」
「意味あるのかい」
「あります。元の荷を別へ流し、別の袋を救恤扱いで入れ直せる」
つまり本物の袋はどこかで抜かれ、足りない分を軽い袋や質の悪い袋で埋めたのだ。
カイルに荷札を見せると、彼はすぐ近衛の一人を呼んだ。
「港の出入り記録を全部集めろ。三か月分だ」
「港商人もですか」
「全部だ」
近衛が去った後、私は荷札の裏に残る煤汚れに気づいた。王都中継倉には煤の多い炉はない。なら、この札は別の場所へ一度持ち込まれている。
「製粉所ではなく、窯場か燻製庫……いえ、蝋を溶かす場所」
「偽印の工房か」
「はい。印章複製には蝋型を取る炉が要るので」
カイルは短く息を吐く。
「港倉の空き家を洗わせる」
「夜のうちに移される前に」
「今夜やる」
日が落ちる頃、私たちは港の外れにある古い縄庫へ向かった。潮で黒くなった板壁の内側には、小さな炉と柔らかい蝋、そして木皿に並べられた印面の試し押しが残っていた。
麦穂印の葉脈が四本のもの。王都で見た偽印そのものだ。
私は木皿を手に取る。
「やっぱり」
「誰の縄張りだ」
近衛が調べた書類には、倉の借主として王都商会“ヘルマー商会”の名があった。王都中継倉と取引の深い商会。ユリウスが何度も名前を口にしていた先だ。
「港と王都がつながりました」
風が炉の灰を散らした。
もう疑いではない。
この冬を抜き取った手は、確かに王都まで伸びている。




