表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

第6話 無口な侯爵の朝焼きパン

翌朝、私が第二備蓄蔵の前で袋の重さを量っていると、また紙袋が差し出された。


「今日は芥子実入りだ」


 カイルは相変わらず無表情だったが、パンの種類だけは妙に細かい。


「侯爵自ら運ぶ仕事ではないでしょう」


「朝の見回りついでだ」


「毎日、見回りの経路が私の机を通るのですね」


「そうだな」


 否定しないところがずるい。


 私は量りに袋を乗せ、帳面へ数字を書く。帳簿では一袋五十斤。だが実物は四十六斤しかない。袋ごとに少しずつ抜かれているから、見ただけではわからない。


「少しずつ薄くするやり方です」


「積み上げれば大きい」


「ええ。王都はその“大きい”方だけを隠したい」


 私は重さの偏りを表にした。軽い袋はすべて港側の区画から運ばれている。荷札に押された積出し印も、北辺製粉所ではなく王都中継倉のものだ。


「王都で一度開けている」


「つまり、途中で抜かれた」


「はい。しかも帳簿を触れる人間がいる」


 カイルは黙って私の表を見ていた。その横顔は硬い。怒っているのか、考えているのか、最初はわからなかった。けれど数日見ているうちに、彼は感情を消す人ではなく、簡単に外へ出さない人なのだとわかってきた。


「君は、王都へ戻りたいか」


 不意の問いだった。


「昨日までは戻って席を取り返すことしか考えていませんでした」


「今日は?」


「この蔵を見てからは、戻るだけでは足りないと思っています」


 私は軽い袋の山を見た。


「誰がやったかを暴いて、もう二度と同じことが起きないようにしたい」


 カイルが小さく頷く。


「なら、北辺の名で監査を出そう。君を補佐ではなく、臨時の特任監査官として扱う」


「できますか」


「王都は嫌がる」


「でも、やるのですね」


「嫌がることと、やらないことは同じじゃない」


 私は少しだけ笑ってしまった。


 その時、港の方から怒鳴り声が聞こえた。運搬人同士の喧嘩らしい。グレタが駆けていく。


 カイルは私の帳面を閉じ、風で飛ばないよう手を添えた。


「パンは冷える前に食べろ」


「命令ですか」


「提案だ」


 私は芥子実入りのパンを一口かじる。昨日より甘い。


 冷たい倉の前で、妙に似合わない温かさだった。


 けれどその温かさが、なぜか仕事の手を速くする。


 私は新しい見出しを書いた。


 “港経由袋の再計量”。


 止まっていた北辺の冬は、少しずつ動き出していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ