第18話 飢えさせたのは誰
公開監査の後半は、言い逃れの時間ではなく責任の切り分けになった。
王都の監督官は港商会へ押しつけ、港商会は王都穀倉局へ押しつけ、ユリウスは従者の独断だと言い張った。けれど裏帳面と指示書は、それぞれの嘘をきれいに切り分けていく。
リーゼはとうとう私の方を睨みつけた。
「お義姉様が黙って譲ってくれれば、こんなことにはならなかったのに!」
その言葉に、広間の空気が凍った。
父が青ざめる。
「リーゼ、やめなさい」
「だって本当でしょう? お義姉様はいつも持っているだけで、誰にも愛されないくせに、席も鍵も離さなかった!」
愛されない。
その言葉は昔の私なら刺さっただろう。けれど今は、ただ呆れるだけだ。
「違うわ、リーゼ」
私は静かに言った。
「離さなかったんじゃない。仕事だったから持っていたの」
そして帳簿へ手を置く。
「あなたが欲しがったのは、人を飢えさせないための鍵だった。飾りじゃない」
リーゼは返す言葉を失った。
ユリウスが最後の足掻きのように叫ぶ。
「エルナだって北辺で権限を広げた! 侯爵の庇護がなければ何もできなかった女だ!」
「庇護ではありません」
今度はカイルではなく、私が答えた。
「扉を開ける権限を与えられただけです。その中で何を見つけ、どう積み上げるかは私の仕事です」
広間の奥で、王都から来ていた会計審問官が立ち上がる。
「結構。これ以上は不要です」
彼は裏帳面と押収品を回収箱へ入れ、正式に告げた。
「王都穀倉局次席ユリウス・クラウゼ、監査官リーゼ・ベルク、ならびに関係商会を王都審問へ付す。北辺不足分は王都より即時補填する」
その瞬間、広間の空気がようやく動いた。
長かった冬の息を、誰もが少しずつ吐き出すように。
父は椅子に座り込んだまま、私を見なかった。
見なくていい。もう、あの人に認められる必要はない。
必要だったのは、飢えた数字を元へ戻すことだけだ。
それが今、ようやく終わった。




