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第17話 公開監査の日

公開監査は、領主館の大広間で開かれた。


 北辺の役人、港商人、王都から来た監督官たち、そしてユリウスとリーゼ。リーゼは淡い薔薇色のドレスを着て、いかにも可哀想そうな顔を作っている。王都では通じたのだろう。その顔だけで、何度も人の席を取ってきたのだから。


 私は壇上に帳簿を並べた。


 飢饉帳の削り跡。港税控え。ヘルマー商会の私記帳。裏帳面。偽印工房の押し板。旧製粉小屋の隠し在庫。雪嵐の夜に押さえた回収指示書。


 最初に数字を読む。


「北辺侯爵領向けとして王都を出た小麦は四百八十袋。北辺帳簿へ記載されたのは二百袋。差分二百八十袋は、王都高級酒造向けとして商会帳へ移されています」


 ざわめきが走る。


 上席監督官が立ち上がった。


「推測にすぎん!」


「では次です」


 私は裏帳面を開いた。


「こちらに“北辺不足分二百八十袋、宴席用酒造へ転換”とあります。王都穀倉局と同じ綴じ糸、同じ略号、同じ月次整理印です」


 ユリウスの顔色が変わる。


「偽造だ」


「なら筆跡鑑定を。こちらにはあなたの従者が昨夜第三穀倉から旧印袋を回収しようとした指示書もあります」


 近衛が前へ出て、押収品を机に置いた。


 リーゼがここで涙を浮かべる。


「わたくし、何も知りませんわ! お義姉様が北辺で侯爵様に取り入って、王都を陥れようと……」


「その言い方、やめて」


 気づけば、私はリーゼの言葉を遮っていた。


 広間が静まる。


「あなたはいつも、知らないふりをして欲しがるだけだった。鍵も、席も、婚約も」


 私は彼女の就任披露の手紙を取り出した。


「でもこの手紙で、あなたは旧印影帳を欲しがった。何のためですか。見分けられるから困るのでしょう」


 リーゼの涙が止まる。


 そこへグレタが大きな声で言った。


「この義妹様、北辺監査官になった後も一度も蔵へ来ちゃいないよ!」


 笑いではなく、怒気が広間に広がった。


 マルタ、ロルフ、港の荷役頭たちも次々に証言する。誰が何を見たか。誰が何を運ばせたか。公開計量で何が出たか。


 数字に現場の声が重なると、王都側はもう空気では押し切れない。


 最後に、カイルが立った。


「北辺は飢えを売られた。以上だ」


 短い一言だった。


 でも、その一言で十分だった。



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