第16話 雪嵐の夜の穀倉査察
公開監査の前夜、雪嵐が来た。
窓を叩く風音で目が覚めた直後、グレタが執務室へ駆け込んでくる。
「第三穀倉の裏口に灯りだ!」
私は椅子を蹴るように立ち上がった。こんな夜に倉を開ける理由は一つしかない。証拠隠しだ。
外套を引っかけて外へ出ると、すでにカイルが馬灯を持っていた。
「行くぞ」
雪で視界が悪い。第三穀倉の裏手へ回ると、橇に袋を積み込もうとしている影が三つ見えた。近衛が囲み、逃げ場を断つ。
「動かないで!」
私が叫ぶと、一人が袋を突き飛ばして走り出した。だが雪に足を取られ、すぐに倒れる。フードが外れた顔を見て、私は息を呑んだ。
王都から来ていたユリウスの従者だった。
「やはり」
橇の上には、旧製粉小屋で見つけたのと同じ旧印付き袋が積まれている。公開監査で出される前に消すつもりだったのだ。
私は袋口の縄を解き、中身を確かめた。中には上質麦ではなく、砂と砕けた豆殻が混ざっている。
「入れ替え袋」
グレタが怒鳴る。
「くそったれが! まだ抜く気かい!」
捕まえた男の懐からは、小さな覚え書きが出てきた。
『夜半、第三穀倉裏口。旧印袋回収。失敗時は北辺側の偽装とする』
署名はない。だが文字はユリウスの右腕だった男のものだと、カイルの近衛が証言した。
吹雪の中で、私は紙を握りしめた。
ここまで来ても、向こうは北辺のせいにするつもりだった。
「明日の監査に出せます」
私が言うと、カイルは頷いた。
「出せ」
「侯爵」
「今夜のことも全部」
近衛たちが男たちを連行していく。雪の上に、橇の線だけが黒く残った。
館へ戻る途中、私はようやく自分の指先が震えていることに気づく。寒さだけではない。あと半歩遅ければ、証拠は消えていた。
玄関で外套を脱いだ時、カイルが私の手首を軽く押さえた。
「よく追った」
短い言葉なのに、不思議と肩の力が抜ける。
「怖くなかったわけではありません」
「知ってる」
「それでも、消されたくなかった」
「それでいい」
彼の手はすぐ離れた。でも、その温度が震えを少しだけ止めた。
明日、数字と証拠は日の下へ出る。
今夜の雪嵐ごと、全部連れて。




