第14話 欲しがり義妹の招待状
公開監査の通知を送った二日後、リーゼから二通目の手紙が届いた。
今度は香水の匂いがもっと強い。
『お義姉様、王都で変な噂を流しているそうですわね。侯爵様に気に入られたからって調子に乗っては駄目ですわ。公開監査の日には、わたくしもユリウス様も伺います。北辺の人たちの前で恥をかかないよう、せめて身だしなみだけは整えていらしてくださいませ』
最後に、小さく追伸があった。
『どうせなら、その古い鍵束も見せてくださいな。今度こそ、わたくしにお似合いかもしれませんもの』
私は便箋を静かに畳んだ。
ここまで来ると、嫌味よりも執着の方が目につく。欲しいのは鍵そのものではない。人の持つ役目を奪い、自分が選ばれた側であると確かめたいのだ。
「また嫌な手紙か」
カイルがソファの背から覗き込んだ。
「ええ。でも助かりました。向こうが監査へ来ると自分から書いてくれたので」
私は手紙を差し出した。彼は読み終えると、珍しく露骨に顔をしかめた。
「品がないな」
「私もそう思います」
「返事は」
「しません。証拠になるので保管します」
私は封筒へ日付を書き込み、証拠箱へ入れた。
その作業を見て、カイルが少しだけ感心したように目を細める。
「怒って破らないんだな」
「破れば相手の言葉が消えますから。消したいのは向こうの方でしょう」
私は机の上に、新しい公開監査の段取り表を広げた。荷札、裏帳面、偽印工房、再計量結果、旧製粉小屋の隠し在庫。並べる順番まで考えないと、王都は論点をずらしてくる。
「向こうは泣くかもしれません」
「リーゼが?」
「ええ。泣いて可哀想なふりをするのは得意です」
「なら、泣く前に数字を読めばいい」
あまりに簡潔で、私は笑ってしまう。
「侯爵は、本当に帳簿向きの性格ですね」
「褒め言葉として受け取る」
窓の外では、夕暮れの港に灯がともり始めていた。
私は証拠箱の蓋を閉める。
もうすぐ、欲しがり義妹は自分が欲しがった席の重さを知る。
奪うだけでは持てないものが、この世には確かにあるのだ。




